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『言記ワーディスト』設定資料 |
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言記ワーディスト、とタイトルつけてますが、小説と云うより、世界観と主人公の周りを一応つじつまも合わせ、ギャグなども取り入れてみた覚え書きです。
以前からイラストで戦士物が多いですが、在り来たりの中にもオリジナルが入った世界の戦士達をイラストにしてみたいなと思って、気分転換で描いていた物です。
本当は新作のイラストの説明文にでもと思っていましたが、まだまだイラストを描く気力が沸き上がってきません。
好きな事を少しずつでもやり始めようと、今は気持ちが落ち着いたときに少しずつ色々な物を書きためて見ようと思い、パソコンが無くなってもブログに残せばいつか活用できるかなと。
密教系の流れを汲む【言葉】と契約者により特殊能力を得たスペシャリストの物語。
古来より、【言霊】と呼ばれ言語には力が宿ると言われている。
一般的に知られているものは【言霊】自体に力があるとされるが、この物語では生まれてからすぐにその人間が持つ体質や資質により、その力は様々であり、普通は一つの【言葉】との契約でその能力を得るが希に複数契約できる能力者も居る。
本来、人間にはその言語を力とする事は誰でも出来るのだが、それを【力】として具現化できるものは限られている。
例えば、【衝撃】と言う言葉の能力を持つものは、指先などに瞬間だが衝撃波を発生させ物質を破壊したり、移動させたり出来る。
そういった能力を持つ者達がこの物語の登場人物である。
その能力者を総称して【ワーディスト】と呼ばれている。
詳しい理論や科学的根拠は未だ解明されていないが、古来より伝わる秘術や伝承などが近年になりそれらの知識が統合される中から現実の力として裏社会では実用化されている。
この世界では、裏社会の部分で起こる犯罪や非常時に対処すべく彼らを組織化し世界の秩序を守るために世界規模で活躍する。
仏教系の流れを汲むが、人種に関わらず色々な人たちが活躍している、世界治安部隊的な存在が彼らである。
この物語の主人公は、この組織の中でもアジアを担当するチームの活躍がメインで新人としてチームに加わった18歳の少女の目線から始まる。
彼女は、俗に言う”ドジでのろまな可愛い系活発少女”で、契約された”ワード(言霊・言葉)”は【健康一番】と言うあまりにも品性に欠けるワードであり、授力者(ワードと契約させることの出来る能力者)が組織に属していた一族の長であり、父である口神言万(くちがみげんまん)が、なかなか子宝に恵まれず、40を過ぎてから生まれた愛娘・口神深琴(くちがみみこと)安易に「子供は健康が一番じゃ?!」
と言うことで授力者である我が身の能力を忘れ唱えてしまった事で、身体的素質もありその能力を得た。
ちなみに【健康一番】即ち、どんな攻撃や状況に於いても無意識に危険を寄せ付けず、【無敵】に限りなく近い力でもあった。
どんな災害や危険に襲われてもかすり傷一つ負わない、更に病気とは無縁であり、底力の見えない正しく使いこなせば、これほど強い力は無いと言われるほどであるが、本人はその力をほとんど制御出来ず未だ、その力の片鱗しか見せていないド新人。
攻撃力は普通の女の子より元気な分だけ強い程度であり実戦にはあまり向かないタイプ。
まぁ?使いようによっては強い味方ともなる。
また子供の頃から溺愛する父親に連れられ任務にも当たるし秘密情報機関で有るはずの職場にも連れて行くような父のおかげか、父の同僚や後輩には子供の頃から知られ可愛がられている。
18歳になった深琴は、子離れしない父への抵抗からか、自ら世界機密安全機構実戦部隊”ワーディス”に志願しアジア地区部隊総務一課・総監(口神言万)が統括する日本支部に配属された。
子供の頃から「にぃーに」と慕われてた口神言万の甥御でもある、心明一琉(しんめいいちる)が指揮するチームへと配属された。
父である口神言万は、権力を使ってでも娘を安全な経理課に入れようとしたが、深琴に知られる事となり愛娘には逆らえない父で有ったが、心明一琉の仲介で「叔父さん、私が守りますから許してあげたらどうですか」と渋々、心明一琉のチームに入る事が正式に認められ、晴れて”ワーディスト”の一員となれた。
だが言万は、隙あらば娘は普通のOLになってほしいとあの手この手を使うがことごとく失敗している。
どうやら深琴のドジッコぶりは父親譲りらしい。
ちなみに心明一琉の力は【源知】であり、あらゆる物の本質を触れる事で知る事が出来る。
人間に使えば、彼の前ではどんな嘘もつく事は出来ず、記憶を探られる事もある。
物質や道具などに触れれば、その特性と性質・操作方法が瞬時に理解できる。
補足では有るが、深琴の父・口神言万のかつての力は【万物流水】と呼ばれ全ての力を受け流したり逆流させ攻撃に使うなど、水を操るようにあらゆる現象、特に力を操る事が出来た。
しかし授力者になるためにその力はかつての力より弱まっている。
深琴の母・口神愛美(くちがみいとみ)、言万の奥さんであるが、彼女もまたワーディストであり、【癒し】の力を持ちサバサバした性格であり、深琴の強い味方でもある。
表向きの仕事として、心療内科の院長をしており、業界では有名人である。
緊急時にはワーディスに招集される事もあるが、特にワーディスト達は管理されているわけでは無いため能力の登録証明を得れば、普段は一般人と変わらず、社会人として働いている。
幼馴染みでもある、言万とは今でも熱熱だが、言万は愛美に色々な意味で弱みを握られ頭が上がらない。
父は、溺愛、母は放任主義と愛情たっぷりに育てられた深琴とそのチームやたまに父の〔娘保全化計画〕なるもののシリアスあり、ギャグありの一応、ハードボイルド的な物語である。
心明一琉率いる、日本支局・中央方面特区7部は、東京国立図書館非公開書庫管理室に一般公務員として非常勤も含め15名が勤務している。
特区7部とは、中央方面を中心に日本全域を対象として活動する。
全世界の主立った図書館が、彼らワーディスの活動拠点とされている。
世界的にも魔書とか法典と呼ばれる古来より伝わる書物を扱う性質上、図書館を使った世界規模のネットワークが非常に効率よく、データの蓄積や活用にも大いに役立っている。
通常、文字そのものとの契約と言うより、文字が持つ意味する物が力として顕現する。
強い意味を持つ言霊ほど、その契約には強い精神力が要求され、生まれ持った資質にも関わりどんな契約でも可能と言うわけではない。
【全知全能】などは、神格に等しいほどの精神力を持った者でなければ、顕現されず無理に契約すればその力に生命力が飲み込まれ死に至らしめる。
ある程度の、力を持った者は授力者となる事が出来るが、これも資質に大きく起因する。
これらの力は特異な物ではないという事から、自己の欲望や金銭欲など悪しき目的で動く者達も存在する。
そういった能力者を”ワードアウト”と呼ばれ、世界機密安全機構WSSでブラックリストが作成され特に監視されている。
能力者の能力使用法
基本的には、法具や武具など依り代となるものは必要としない。
しかし法具や武具などは、多くの能力者が使用した古の介在物としての機能もあり、力を強める使用法や力を変化させる武具ともなり得、敢えて使用する者も多々居るが、誰でもが使える物でもなくその理論を科学的に用いて力の弱い者に使わせる事もある。
それでも危険な力として認知された物は、世界機密安全機構WSSで収集管理される事も仕事の一つである。
また能力の強い者は、自分自身のみならずフィールドを形成してその力の干渉範囲を広げる事も出来る。
それでもフィールドを広げるにはかなり強い精神統一と精神力が必要であり、瞬間的にのみ使用される事が普通である。
能力の顕現や増強など、古では修行によって強まるとされていたが、これは本来特筆した能力を持たない者がその能力を得ようとするためであり、生まれ持った資質が契約により、守護的存在として作用し、能力の発揮する感覚を如何に認識するかでその制御力や強弱が可能になる。
まぁ?一般人はどんなに頑張っても持って生まれた資質には及ばないと言う事で、かなり理不尽。
しかし能力者も生まれてすぐに授力者により導かれた【言霊】との契約をしなければ、普通人と変わりない人生を送る事になる。
それでも契約をしなかった者でも「何となく風が好き」とか「天気のいい日は気分がいい」と言うのも生まれ持った資質であり微力ながら資質に影響される事が多い。
更に同じような意味合いを持つ契約は可能だが、資質に左右されるため力の種類が豊富だが偏った顕現はほとんど起きない。
元々が生まれてすぐにその能力を見極め契約に誘うわけだから、無理にそぐわない能力と契約させようとしても成立しないのが実情である。
これは双子の場合でも、同じ能力を持つ事は無い。
普通はお互いが補うような特性や正反対な能力を持つ事があり、一子のみと言う事もある。
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↑Top.『キナの海(仮)』プロローグ |
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でも完結するか、続編を書くか全くわかりませんが・・・・・・・
まぁ?最後まで仕上がった小説は一つしか無く、これも多分なんとな?く箪笥の肥しかな?(^_^;)
あらすじというか大まかな物語は出来ているのですが。
人類文明が崩壊した時代、それでも人間は生き続けている訳で。
舞台は、氷河期に入った地球の日本と呼ばれた北海道が始まりです。
細かな地域は限定せず、わずかに残った日本人が細々と絶滅を迎えつつある世界。
その中で、過酷な環境と生い立ちをもつ主人公が”母”である、戦闘用アンドロイドと別れ母の生まれた故郷を目指して日本列島を縦断する中で、色々な人々との葛藤や人としての逞しさを旅の中で成長し、やがて一つの集団の長となる物語です。
まぁ?戦闘用アンドロイドに育てられるわけですから、戦い生き残る事を幼いときから教え込まれ、人間の愚かさや心と云う物を知識はあるが実際に旅を続ける中で、色々な矛盾や葛藤で成長していくと云う感じでしょうか。
生き残る事だけがこの時代の人間達ですから、夢とか希望などは無く、ただ毎日を必死に生きてるそんな世界です。
そんな過酷な状況の中、主人公の旅がもたらす国家創世を描いた物語ですね。
ラストは、主人公の”母”が生まれた(作られた)沖縄の米軍基地跡に母の形見を埋葬し、仲間の元へ戻る・・・・
と言うような物語です。
ん?小説になるか、イラストになるかわかりませんが・・・・・
異常気象とオゾンホールの異常によって地球規模で災害が多発し文明は貧困と災害の復旧に喘いでいた。
その中でも巨大なオゾンホールは世界各地に直接的な被害を与え、更に電離層の異常による精密機械への影響は世界経済に多大な影響をもたらした。
その災害から何とか生き延びようとする人々は高層ビルの街々から地下都市や洞窟へその生活を移行せざる終えなくなっていた。
更に地上での軍事行動が難しい局面を迎え、各国は人工知能を搭載したロボットによる武装の転換を迫られ、その技術の進歩は目覚ましく軍事だけにとどまらず、食料の生産や居住空間の確保にも使用されるようになった。
しかし地球温暖化は更に悪化しめまぐるしく変わる気温の変化に地表はやがて荒れ果てていった。
更に度重なるオゾンホールの発生や電磁波異常が頻繁に起きるようになり、核兵器の管理が不十分であった某国でメガトン級の地上誤爆に誘発され、地球規模の大陸プレートの影響で各地の活火山が噴煙を上げ、膨大な量の粉塵が大規模に空を覆うこととなった。
それに伴い人類文明は一握りの人類を残し事実上、滅亡した。
生き残った人類もエネルギー不足や食料の圧倒的な不足により更に加速的にその数を減らしていった。
地球規模で火山噴火や核爆発による粉塵は、地球温暖化を終わらせ一気に氷河期へとその姿を変えていく。
やがて赤道付近のみを残し世界は分厚い雲に覆われ、太陽は隠され生きるもの全てに甚大な被害を与えていた。
分厚い雲の影響を受けなかった赤道付近も、オゾンホールの影響を受け、気温は上昇し、かつて人類が経験したことがないほどの巨大な低気圧を頻繁に発生させ大規模な災害を幾度も繰り返し、さながら人類が与えた全てを急激に洗い流すかのようにその激変は続いた。
そんな中でも一部の人類と少数の生物は生き存え徐々にではあるが、その厳しい自然に耐え新たな生活を始めていた。
大地は、膨大な粉塵と共に急激な火山活動を終わらせ、降り積もる火山灰によって覆い隠された森林や人類の傷跡など、全てをその静けさの中に閉じ込めた。
かつて地上の楽園といわれた島々も既に無く、オゾンホールや火山活動による森林火災も膨大な粉塵が一度に降り積もったため多くは炭化し氷河に覆い尽くされていた。
地下にその住処を移した人類は、栄華を誇った文明を記憶にかろうじて止めていたが既にその世界を見たものは死に絶え、新たな世代に移り変わり、徐々に失われていく文明を生存の為だけに辛うじて止めるに過ぎなかった。
大災害から百年ほどが経ち、地下に逃れていた生物も徐々に凍り付く大地にその姿を現し始め、復元不可能と思えた海洋も深海に生きる生物などが徐々にその数を増やし、この地球で一番、生物の豊富な生態系をなしていた。
とはいえ、嘗て栄華を誇った地球の生命系は、その姿を一変させていた。
学者たちが予想した以上に、地球の生命は強靱であり、貪欲であり、繁殖力はすさまじい力を持っていた。
そんな世界の片隅、嘗て島国の北の大地と呼ばれた、今は凍てつく氷に覆われている小さな都市の廃墟があるその一角でこの物語は始まる。
嘗て栄華を誇った人類は、町を捨て地下に逃れた人々もその急激な環境の変化に耐えきれず、その数を激減させ、絶対的なエネルギーの不足により大規模な地下施設を離れ、辛うじて生きていける少人数で、地上の洞窟を住処として、太古の生活さながらに生存を続けていた。
一人一人が生きるだけで精一杯のこの世界では、既に国などは存在せず、都市すらも形成していない。
十数人規模のコロニーが、無数に存在するが、かつて億単位を誇った人類は全世界合わせてもその数を百万単位にまで減少していた。
この北の大地にも人類は辛うじて生き延びていた。
確かな数を数えるものも居ないこの時代、幾つかの幸運が重なったのか、沿岸部に特に多くの人類が生存していた。
太陽光エネルギーで動く人間型アンドロイド(女性型)
捨て去られた洞窟都市の出口に近いビルの一室に崩れた岩石によって左腕と両足を失い、うち捨てられていた。
エネルギーを失い停止してから数十年、メモリーの半分、特にかつての行動記録などが消失、または読み取りエラーを起こしている状態。
一日のうち数時間、日が射すこともあるこの部屋であるが、その光もアンドロイドには届かず、起動することは無かった。
ある日、どこから来たのか赤ん坊を抱え、旅をしてきたのかその女と赤子は寒さと吹雪に耐えきれず、この洞窟のアンドロイドが居る部屋に倒れ込んだ。
泣き叫ぶ赤子の声にも女は身動きせず、赤子を抱いたまま息絶えていた。
数時間が経ち、外の吹雪が止みこの部屋に何日かぶりの日射しが骸となった女と死を間近にした赤子の上に降り注いだ。
母子を包むように射す日射しは、銀色の防寒着を反射して、何十年ぶりかの光を受けたアンドロイド
「ギューン・・・クックッ・・・」と人類から見捨てられた高度な機械、今はただの人形のようなその体から何かの作動音のような響きが静かなこの部屋にかすかに聞こえ始める。
徐々に意識と言えばいいのか、アンドロイドの聴覚センサーが不完全ながら作動し始めた。
「声・・・・?人?・・・・赤ん坊」
センサーからの情報を元に不完全な人工知能が、アンドロイドの本能と言うべき「人間への奉仕」が、今途切れようとする赤子の泣き声と徐々に弱り始めた心音に、最優先の「本能」が、危険を察知した。
「対処法・・・・・」
壊れかけたライブラリーから赤子の生命維持に必要な情報を検索し始めた。
「体温の維持・・・・・カプセル・・・・」
導き出されたデータからアンドロイドは、自らが存在するこの部屋を可能な限り、サーチを開始した。
だが、周りに散乱する物体がこの部屋の天井を貫いて居る岩石と長い歳月で降り積もった埃にまみれ判別が難しかった。
左側の物体の埃を取り除こうとして、左腕にあるはずのセンサーが何の情報も送ってこない・・・・
自らの内部センサーから右腕の破損が確認された。
他にも両足の膝から下が天井からの岩石で挟まれ身動きが取れないことが同時にわかった。
再度、聴覚センサーと赤子に向け状態を調べ始めたが、まだ多少の時間は許されると判断。
更に自分のボディー腹部に内蔵されている蓄電池が人体に近い温度を発生させていることを温度センサーが感知し、赤子の体温保護に有効だと判断された。
未だ全ての機能を起動させられるエネルギーは無い・・・・・
再度、ライブラリーを検索し、自らの型式を探したがメモリーの破損が酷く見つからない。
「類似するデーター・・・・脚部・・・・」
検索を続ける中、アンドロイドの損傷に伴うパーツの自動除去機能を見つけた。
今現在受けている太陽光が設計時の10パーセントとは言え、10分ほど受けた光のエネルギーは、膝下間接部のパージには全て使用されるだろうが、光を受け続けている状態であれば駆動部を最小限に抑えることで、再充電20分で赤子までの距離、5.3メートルの右腕のみの移動は可能と判断した。
予想される赤子の生命危険レベルまで22分・・・・
アンドロイドは、その答えを導き出すと躊躇無く、両足の膝関節部へエネルギーを送り込んだ。
「パキーン!」
金属がはじけ飛ぶような音が、アンドロイドの両足膝関節部から響き渡った。
一瞬のエネルギーロストによる人工知能の停止は幸いにも免れた。
もしこの時点で、人工知能が一時停止し再起動がかかれば、周囲の再確認、赤子の認識に5分を要する為、赤子の生存確率は絶望的だっただろう。
更にアンドロイドは、徐々に充電されるエネルギーを最小限使い赤子の生存率を上げるため、エネルギーの必要量とそれに対する対応を考え始めた。
「太陽光エネルギー吸収型人工皮膚・・・・稼働効率35パーセント・・・・・
背面部受容体・・・・・・・38パーセント・・・・・」
年月によるエネルギー受容体としてのボディを包む人工皮膚の損傷が著しい。
大災害によるロボットおよびアンドロイドの必要性が叫ばれ、人類最後の科学技術全盛期とも言える90年ほど前
エネルギーを太陽光から自動的に得る方法がもっとも多く作られた。
これはまだ核爆弾の地殻変動以前で有ったため、化石燃料はシェルターおよび地下都市など安易で備蓄可能な資源を最優先したため、省電力化や太陽エネルギー受容体の開発が盛んに行われ、軍事、民間を問わず、ロボット・アンドロイドには標準で装備されている。
当初は、燃料電池など複合的なエネルギー供給システムが考案されたが、量産化されるにつれボディー本体の画一化と相まって安価に製造されるようになると一番効率の良い太陽光が都市のエネルギーと相まって多種多様な受容体が開発されていた。
一般的なロボットは形状的にフレーム構造を基本としていたが、人間と共に活動する高度な順応性が必要なロボットは硬質なロボットと言うより、より人間に近い柔軟な素材で製造され、《ドール》と呼ばれ育児、介護、医療など幅広くその活動範囲を広げていた。
このアンドロイドもより人間に近く本来はメインフレームからのデータベースでコントロールされる事が通常だが単体での活動も付加されたモデルと思われる。
「緊急用背面パネル確認・・・・パネル展開により最大稼働率38パーセントから48パーセントへ移行可能。これにより必要エネルギーの確保に300秒程度の短縮が見込まれる。」
緊急用背面パネルとは、最大出力以上のエネルギーの必要性に迫られたとき背中に装備された4枚の受容パネルを展開し短時間でのエネルギー供給が可能となる、主に軍事的使用に装備されることが多い。
しかしこのアンドロイドの背面パネル4枚の内、損傷を受けていないものは一枚のみであり、駆動用エネルギーとしてではなく本来、両腕に装備されるシステムへの供給用である。
アンドロイドは、周囲を見回し赤子に必要となる熱源を確保する方法を残されたライブラリーの中を捜した。
「熱源確保は長期になると推測されるため、平均温度37度を維持可能なカプセル形状が望ましい。」
幸い、アンドロイドが居るこの廃墟と化したこの部屋には生活に使用されていたと思われるポリ製のタンクや食料保存用の小さな保冷庫が確認された。
またかつては窓であった所から吹き貯まった氷雪を見つけ、毎日数時間とは言え日光の当たる赤子の周囲には苔らしきものが微量ではあるが確認できた。
アンドロイドは、エネルギーが確保される時間の中、可能な限り破損したライブラリーを検索し続けもっとも必要と思われる常時必要な熱源の確保、継続的に補給されなければならない水分と栄養素を維持するシステムを考え続けた。
しかしシステムを作るには、圧倒的にエネルギーが不足しており、更に何度となくかけている自動診断プログラムによるボディの稼働状態を考えると、自らのボディを使用した保育器的なものが最適と判断された。
だが、まずは赤子の生命の保全が最優先である。
一秒でも早く、赤子の元へ辿り着き低温状態を脱しなければならない。
そう結論を出したアンドロイドは、動けぬ自身の位置から素早く赤子を移動させ、アンドロイドの充電池が納められている腹部を開き一時的に収容することを選んだ。
その為に必要な残された片腕の状態診断を続けながら赤子確保に必要な工具を捜した。
しかし5メートルほどの距離から赤子を捕獲できるような棒状のものはこの部屋には見つからなかった。
ライブラリーを検索してもそれに必要なデータは確認できない。
アンドロイドは、既に破損して使用不可能となった自らの片腕、両足に使用されているケーブルはフレームなどを解体し繋ぎ合わせる事で可能と判断した。
要するに釣りのように赤子を包む布部分に代用ケーブルを引っかけアンドロイドの居る所まで引き寄せようと言うのである。
これならば自らの損傷状態をフルに使い赤子の所まで移動するより、時間の短縮が出来、最低限のエネルギー効率で作業が開始できるとアンドロイドは判断した。
未だぎこちない動きでは有るが、必要最低限の機能だけを残し、アンドロイドの作業が始まった。
5分ほどで完成したワイヤーのような形状の釣り糸を、早速赤子に向けて投げつけた。
数度の同じ作業が繰り返されたが、何とか赤子の衣服に毛羽立たせたワイヤーの先が絡みつき、ワイヤーを手繰り寄せると赤子の衣服が動いた。
ワイヤーの先が外れないように気をつけながら慎重にワイヤーを手繰り寄せるアンドロイド。
15分ほど経っただろうか?無事赤子はアンドロイドの腕が届く位置まで手繰り寄せることが出来た。
赤子の生体状態を詳しく確認後、アンドロイドは自らの腹部を解体作業で残った金属部品を使い開き始めた。
やがて充電池部分が露出しほんのりと熱源が沸き上がる。
アンドロイドに使用されている充電池は液状の反応液を幾層にも重ねられたパック状のものが使用されていた。
そのパックに直接赤子の体が触れるように衣服を脱がせ、腹部へと収容したアンドロイドの姿は、まるで人間の妊婦の様に見えた。
アンドロイドの適切な判断と対応で、徐々に赤子の体温は上昇し、呼吸も安定してきた。
やがて赤子は母親に抱かれるように安心したのか笑みを浮かべながら眠りについた。
「良かった・・・・」
アンドロイドが誰に聞かせるともなく呟くと、日の光はいつしか途絶え、アンドロイドも最低限の機能を残し眠りについた。
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イラストは頭の中に有るのですが、最近モニターが小さくてイラストを描くと目が疲れ・・・・・
と言うか辛い毎日を小説に叩き込んで憂さ晴らし(ToT)
追加イラスト(2008-12-23)

ジェド=A.D.スタイル(こんな感じの)
プロフィールは次回作で考えます。(^^;
時より頬に当たる湿った風を感じながらまだ生きている自分を認識する・・・・いつもの朝。
冷たいコンクリートの橋桁を塒にしてどれほどの時間が経ったのだろう・・・・
嫌、それ以前にいつから俺は此処にいるのか記憶さえ定かではない。
俺の街・・・・
家を持たず、家族を持たず、俺は一人此処にいる。
どこからともなく朝餉の臭いと、家族を叩き起こす女の声。
鼻をつく悪臭のたまり場と化している川の畔に俺はいつからか塒にするようになった。
「ピッピッ!起きろ!ピッピッ!」」
まだ醒めやらぬ俺の傍らで、いつも決まった時間に叩き起こすコイツ。
どんな時も俺の傍らを離れず、死神のように付きまとうコイツ。
俺にとっては、相棒と言うより、体の一部みたいなもので気にも留めないが、俺に時を告げようとでもするのか
この音だけは俺に現実を呼び覚まさせる。
「うるせ?」
そう言ってコイツの頭をこづく・・・・それが俺とコイツの日課だ。
ジェネレーターの唸りと体温の上昇で俺は徐々に目覚めゆく自分の体を感じながら、どんよりと薄汚れたこの街の住人として今日も俺は立ち上がる。
「行くぞ」
「ピッ!」
ジェネレーターの出力が徐々に平常値に安定するのを感じながら俺と相棒は、街へと続くひび割れたアスファルトの道を歩き出す。
「ジェド、右上腕関節駆動系にひずみ音が聞こえる、直せ」
「あぁ、分かってる」
俺の体をスキャンして分かり切った事を毎朝伝えるコイツに促されるように、俺は駆動系の再調節をする。
俺の体の60パーセントを占めるサイバネティックのメンテがコイツの仕事、と言うかその為に造られたワンマシーンが、俺の相棒でもある。
一つ言っておくが、俺は浮浪者ではない、仕事柄こんな生活をしているが、歴としたこの国の市民権を得て生活している・・・
別に俺が望んで今の生活が有る訳ではないが、只毎日を成り行き任せで生き抜いていたらこうなったと言うのが正しいのかも知れない。。
世間一般では、夢を持ち家族を持ち仕事を持ち経済社会への貢献をすることこそが市民の義務であり、権利だと言うが、物心ついた時から一人だった俺には、今の生活も惰性の産物と言えるかも知れない。
只生きるために、俺が出来ることをしている・・・・と言うのが本当だ。
「ジェド、メッセージが一件入っている。保安局からだ。」
「分かった。」
せかされるように素っ気ない会話のやり取りでいつもの道を歩いている俺とコイツ。
所々に生きているのか死んでいるのか分からない奴らが道を塞いでいるが、俺には関係ない。
ポンと小石でも避けるように隙間を縫って俺たちは喧騒の街に向かっていた。
「よう!ジェド、はいよ!」
「オッス」
ジェドはいつものオープンカフェのホットドッグを受け取ると、今朝の新聞を抱え、いつものカウンター端に座った。
「ジェド、又保安局か?」
「あぁ」
忙しい朝のカフェの中、オーナーのボブがボブ特製のカフェを差し出した。
「なんか最近、やたらと保安局の仕事増えてないか?ジェド」
「あぁ」
「まぁ?アンタには都合が良いんだろうが、少しは奴らで解決しろってんだよな。税金泥棒どもが」
高い市民税を払わされてか、ボブはやたらと威張り散らし、困るとジェドの様な裏家業に頼る保安局にうんざりしていた。
「今じゃ、ジェドの様な奴らが居るからこの街で商売できるんだけどな。物騒な世の中になったもんだよ。」
奴ら呼ばわりするボブの愚痴も毎日聞かされると、ジェドには一日の始まりを感じさせてくれるカフェインの様でも有った。
「じゃ、そろそろ行くわ」
「おぉ!気をつけてな。」
そう言うと、ホットドッグをカフェで口に流し込み、ジェドはボブの店を後にした。
保安局、昔は各地に配備された警察署を束ね、一般市民を守る全国的組織だったが、政情の不安が増し経済の破綻を含むこの国では、犯罪者の捜査、逮捕など実働は、ジェドのような兵士崩れの臨時雇用で補われているのが実情であった。
しかし公僕のメンツというか、学歴を持つ者の砦のように、表立っては”一般市民を犯罪から守る正義”を掲げる組織であり、実質事務処理のみとは言え、ジェドのような人間を統括する公共サービスでも有る。
ジェドのような職業を、この国では”ダストエージェント”、”D.A.”と呼ばれる。
要するに、街のホコリの掃除人って所だろう。
多発する犯罪者に懸賞金を掛け、個人登録による捜査員と言うシステムがこの国の多くの犯罪を解決している。
D.A.の多くは、前大戦の帰還兵や裏社会で戦闘を好む者達で構成されている。
中には企業として組織化しているものも居るが、仕事の性格上、他人と馴れ合うことの出来ないはぐれ者であり、犯罪者崩れも少なくはなかった。
勿論、この退廃した国にも法の元、裁判所もあり、保安局の役割は、殺人などの凶悪な犯罪者限定であり、法規的認可を得て彼らD.A.は合法的に犯罪者を処断していた。
彼らに与えられた仕事は、犯罪者の捕獲もしくは排除。
要するに手配された犯罪者を逮捕しようが殺害しようが彼らの判断に任せる殺人許可書の様なもので、それに伴う危険は彼ら自身の責任であり、保安局は何の保証もせず、成功報酬と殉職時の見舞金だけである。
先の大戦で、多くの帰還兵、得に改造を受け戦闘における精神的病を持つ者への雇用対策として、政府が作り上げた苦肉の政策でもあった。
人道主義に劣ると言われたが、経済社会の恩恵を受け謳歌した者達にとって、大戦で疲弊した社会と経済不安が招いた秩序の復活には、致し方ない事だったのかも知れない。
帰還後、行き場を見失っていた者達にとっては、唯一生き残る手段でもあり、自らの死の恐怖を味わうことでの精神崩壊を癒すには自ら死と隣り合わせの合法的な戦闘が彼らの救いだったのかも知れない。
だが一方で、戦闘マシーンとして兵士を送り出した政府への不振は、見せかけの平和の中で不満となり最悪のペースで凶悪犯罪増加の一途を辿っていた。
Close.↑
旧作品救済計画その1 |
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現在は、ホームページもイラストオンリーのサイトになってますが、以前は色んな事をしてました。(笑)
その一つがオリジナル小説とオリジナルワールド。
小説に関しては、全くの素人なので幼稚な表現が目立つ作品となっております。(爆)
まぁ?キャラクターを考えながら色んな世界を構築するってのが自分の妄想癖なので作っていたんですが、今見ると恥ずかしい部分が90%以上有り、コンテンツ増やしには役不足ですが、載っけるものがない(笑)
まぁ?暇な方だけ覗いてみてくださいな。
尚、初めて書いた長編が「■幽幻戦国絵巻?せぶん」でその後に「志音」になります。
短編は暇つぶしネタ。w
ガイアや志音は世界が繋がったイメージの物語で、未だ完結していませんが機会があったら続きを書きたいと思っています。
そのうち、これらのイラスト作品も掲載予定ですので、イラストを見ながら世界を感じて貰えればと思います。
■Eternal of Symphony ?ガイア |
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![]() ■シュラ・エンマール【火の属性】 エンマール王・リーロンの娘 ![]() ■エンシェ・ルーン【水の属性】 水迷宮・魔笛レアルーンの奏者 ![]() ■ウィンディ・ラクール【風の属性】 ラングランス公国の剣士 ![]() ■ダイム・イーフリート【金の属性】 錬金十祭司族・族長クロムに 造られた獣魔 ![]() ■リーフゴーレム【木の属性】 ラクルースの森の守護獣 ![]() ■シャイロン【光の属性】 天空の大陸・ラクレシアの聖獣 ![]() ■ガイアの伝説【神々の戦い】 最終戦争?光と闇の戦い ![]() ■ガイアエンマール王・リーロン 青炎の竜騎士【火の属性】 ![]() ■エンドメア王・ルシファーレン 暗黒の騎士【闇の属性】 |
■遙か古の時代、まだ混沌が世界を分かつ以前、人々は神と魔物、龍や麒麟、一角獣など神話世界の一員だった遠い昔・・・。 永きに渡って連綿と続いた”均衡”と言う名の細い糸で結ばれた平和に、やがて終焉が訪れる。 この時代、世界はリソースと呼ばれる”理力”によって導かれ育まれて来た文明が出現していた。 水、火、風、金、木、光、闇、7つの理力によって作られたこの世界に満ちるリソースを自らの肉体に取り込み、その力を使い、或る者は戦いに勝利し、或る者は知識を高めそして或る者は平和を導く力としていた。 器となる自らの肉体と精神を鍛えより多くのリソースを得ようと人々は努力を続けていた。 そんな力を基本とするこの世界にもやがて道具を使う事によって、より強いリソースを自由に使え暮らしは豊かになり高い文明も育まれてきたが、その代償と言うべきか戦いも又その激しさを増し人々は戦いと平和を繰り返していた。 そんな世界に闇のリソースを使い部族の繁栄を全世界に広めようとする国家が生まれた。 彼らは戦いにおいて絶大なる力”闇”の凄まじさに心を奪われ、あらゆる文明あらゆる道具をその闇の力へと注ぎ込み戦力の増強のみをむさぼっていた。 やがて世界は闇のリソースを得た絶大な軍団と水、火、風、金、木、光、6つのリソースからなる連合軍とに二分され戦いは激しさと荒廃を増すばかりである。 そんな闇の軍団長アン・デットは5人の錬導師たちに自らのリソースを究極までに高めるため、一つの水晶体、究極の宝玉【魔眼】が造られる。 やがてその魔眼は、戦い敵を倒しリソースを得る事で更なる強大な力をもたらす闇の軍団の力となり連合軍はその絶大な力に押され、もはや滅亡の一途を辿る運命しか残されていなかった。 最後の戦いが近づき、世界が闇に包まれようとしたその時、数え切れないほどのリソースを吸い続けてきた魔眼に異変が起きた。 暴走を始めた魔眼は、敵味方、生死に関わらず周囲のリソースを奪い、主であるはずの闇の軍団長、アン・デットさえその餌食とした。 だがその勢いも衰えはじめ力を失ったかと思ったその瞬間、溜め込んでいた強大なリソース全てを吐き出し始めた。 あまりにも大きく巨大なその悪しき闇のリソースに全ての大地は揺らぎはじめ大気は悲鳴を上げ、空間さえも引き裂こうとしていた。 その場にいた全ての者、恐怖に身を隠していた者、生きている全ての者にその力は絶望的なこの世の終焉を伝えていた。 魔眼から吐き出されたその力は、天空に強大な暗黒の闇を作り全てを飲み込もうとその大きさを増しはじめ、力無き者は一瞬にして飲み込まれ闇へと消えていく。> 膨大な力を持ったその魔眼は、大地や生きる者だけではなく空間さえもその体内に飲み込もうと闇の触手を伸ばし全世界を飲み込み始めた。 だがあまりにも強大で異様な力にも限界が訪れたのか、それとも時空を超えて離散したのかその力は急速に衰え、いつしか元の水晶体へと戻っていた。 静寂が戻ったその世界、強いリソースを持つ者達が立ちつくすその世界は以前の物とは違っていた。 月の無いこの星に、まるで兄弟星の様に天空に浮かんで見えるもう一つの星。 だがその星もやがてその姿を薄め別の空間へと消えていった。 戦いは終わり、世界に又悠久の平和が訪れようとしていたが、魔眼が作り出した暗黒の闇に飲み込まれた人々生き物そして闇の王国・ガイラースが有ったその大地は巨大な海に変わっていた。 戦いの傷跡として・・・・・。 こうしてこの世は、リソースの加護の元、平和を築くガイアの世界とリソースを持たない道具を使う人間界アースと呼ばれる二つの世界が生まれた。 魔眼が作り出した暗黒の闇の後には、時空を繋ぐ空間が口を開け今も近づく物を餌食としている。 やがて強き結界を作り出せる水をリソースにもつ種族、アクアリース族がその空間を封じ込める結界・水迷宮を作り代々守り続けている。 魔眼は、多くの賢者、勇者の手により破壊を試みたが空間さえ歪ませたほどの力を生んだ宝玉は、すでに人間の手で破壊できる存在ではなくなっていた。 やがて世界より選ばれた、火のリソースを持つ3人の賢者の手により、未来永劫、封印されるべくアグニゾート山の火口深く灼熱の溶岩と火の結界によって厳重にその存在を隠された。 そして時は流れ、平和が続くガイアの世界にリソースを元とする文明が栄え、王国が生まれ平和を愛するその王国の国王・初代エンマール王の元、ガイアの世界は悠久の平和を手にしていた。 一方、暗黒の闇に飲み込まれ生まれた星・アースの世界では、リソースの力を持たぬ道具を使った文明が生まれ未だに戦いとひとときの平和を繰り返し、繁栄を続けている。 時折、暗黒に飲み込まれたガイアの住人がアースの世界に現れるが、リソースが極度に薄れたこの世界ではもはや道具を自由に操る人間たちに抗う術もなく、駆逐されるだけだった。 やがてそんなガイアの世界を人々は伝説の中の”魔物”と呼び忌み嫌う存在として記憶に封じ込めていった。 真聖暦5793年。 ガイアを統治する49代エンマール王・リーロンに一報が届けられた。 49代エンマールの王座を賭け、何かと敵対していた、エンドメア率いる闇属性の軍団が封印されていた魔眼を盗み、その力と共にガイア界から姿を消したという知らせであった。 それに呼応するかの様に、水迷宮の封印の神殿・ピュアレースでも暗黒の時空路が天空に浮かぶ銀河のごとく光の時空地図とも言うべき姿に変貌していた。 魔眼がその闇の力を発動した為その動きを知らせるようにピュアレースの時空路が光の粒となって現れた事が賢者たちによって解明された。 それと共に魔眼の力が発動する度に、ピュアレースの時空地図がその大きさを増しその力が水迷宮の結界の力を凌駕した時、この世界がガイアとアースに二分された以上の異変が起こる事が推測された。 時空を渡る事で引き起こされる歴史への介入は時空の歪みを増大させるだけではなく宇宙その物の構造さえ変えかねない重大な事態でも有った。 さらに魔眼の力は、ガイアのリソース自体にも影響をもたらし繁栄を続けてきたガイア世界には天変地異を伴った影響が出始めている。 それに対処すべく世界中からリソースに優れた者達が招集され、ガイアの世界を守るべく結界による防衛が図られた。 だがその対策も一時しのぎに過ぎず、一刻も早く魔眼を探し出し再び封印する以外に残された道は残っていない。 しかし討伐隊を出そうにもリソースの優れた戦士さえ、ガイアの結界を守る為、動員されている今となっては多くの人材を割くわけには行かなかった。 そんな中、エンマール王・リーロンの娘シュラ・エンマール他、5つのリソース属性の部族より3人の戦士と3匹の魔獣が選ばれた。 エンマール王・リーロンの娘、火の属性を持つシュラ・エンマール。 水迷宮・魔笛レアルーンの奏者、水の属性を持つエンシェ・ルーン。 ラングランス公国の剣士・風の属性を持つウインディ・ラクール。 錬金十祭司族・族長クロムに造られた金の属性獣魔、ダイム・イーフリート。 ラクルースの森の守護獣・木の属性を持つリーフゴーレム。 天空の大陸・ラクレシアの聖獣、光の属性を持つシャイロン。 こうしてガイアより選ばれた6人の戦士と獣魔たちは、レアルーンの奏者、エンシェ・ルーンの導きによりエンドメアが持つ魔眼を探して無数に広がる時空を旅し闇の軍団と戦う事となった。 |
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『SEVEN?The Dark?』 |
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資源の無い小さな島国である日本は、最新の技術と高い生産力で国全体を維持するしか方法が無かった。
それ故に技術者としての国民性が大きな資本となり、この国を支え続けていたのである。
多くの日本人が世界の隅々までその高い技術を惜しみなく発揮し、世界が資本主義へと統一されていく中、重要な国家に成ろうとしていた。
だがそんな怏々たる日本に多大なる被害をもたらす天災が訪れた。
この年の夏は、日本の各地で異常とも思える気象の変動がまるで何かの前触れのように列島を包んでいた。
夏も過ぎ、異常気象も治まったかの様な9月、以前から何度も囁かれては訪れなかった関東を中心とする大地震。
誰もが忘れかけていたこの日、突然にそれは訪れた。
9月9日5時03分、地面を這う振動がその唸り声と共に大地を揺るがし大都市東京を中心とする関東一円は小刻みに揺らいでは静寂を繰り返していた。
何度目かの小さな揺れで人々は冷静さを取り戻しつつあったその時、それを打ち砕くように過去最大規模な直下型地震が大都市を走る活断層のうねりと共に関東一円を揺るがした。
都市は至る所で悲鳴を上げ、高層ビルが建ち並ぶこの世界有数の大都市は一瞬でその機能と豊かさを破壊尽くされた。
人的被害もさることながら、世界の中心とでも言うべき、日本の首都・東京はその機能の全てを失った。
やがて関東一円に静寂がもどりはじめる。
動けるものは安らげる場所を求め、傷ついたものは誰彼とも無く助けを求め、自らの生存本能だけを頼りに生き抜こうとしていた。
だが、そんな人々をあざ笑うかのように建物の崩壊した瓦礫から一つ、二つと炎が広がり始め、その炎は、業火となり巨大な熱波は竜巻を起こし見る見るうちに大都市を呑み込んでいく。
かろうじて生きている人々、何処へともなく逃げ惑う人々にも容赦なくその炎は襲い続けた。
あまりの被害の大きさ故、周辺の消防隊や救助部隊の力さえ何の手助けにも成らなかった。
政治経済、全ての機能を集中させていたこの日本では、今、未曾有宇の大災害へと変わりつつある。
確かに地震の被害は大きいが、それ以上にこの国にとって東京を中心とする関東の機能が麻痺すると言うことは、日本全国のライフラインを失ったことに等しいほどそれは重要だった。
地震や火災で失った人命は何にも変えられないが、思ったほど壊滅的ではなかった、それ以上に首都機能を失うと言うことは、政治経済だけではなく、寸断された交通網は全国の流通を麻痺させ金融だけに止まらず、世界に誇る全ての財産・優位性が崩壊するという一面もさらけ出した。
それでも関東の被害を知った周辺諸国、特に米国政府は人道支援を急務と考え国連と共にこの国日本へと大規模な支援部隊を送り出し、同盟国以外でもそれは同じだった。
その時、日本各地の国民は失意の底に有ったが各地に残る報道と情報網から世界の救いの手が我々をこの大災害から助け出してくれると心から信じていた。
膨大な支援がこの国にもたらされ、関東の機能の一部も復興し始めた頃、世界の情勢は別の方向へと傾いていた。
もし、このまま日本を完全復興させたとしても、かつての技術大国・日本は世界にとって必要なのか?
既にかつての大国としての価値は完全に失われている。
世界に点在する最先端を誇ったかつての日本企業も母国とのラインを失い、今では他国の援助なしでは存続さえ危ぶまれる。
当然、他国の資本がその技術と共に財産の全てを呑み込み始めているだろう。
日本の地方都市さえ、海外の援助なしでは生きていくすべさえ無に等しい。
そう考えた世界の資本は、人道的支援から日本が未だに持ち続ける潜在的財産の吸収と搾取へと傾いていた。
それに気づいた新たな日本政府には、かつての日本の様な力は既に無く、無抵抗に等しい。
災害以前からこの国は、バブルと言われる突発的な好景気に呑み込まれ莫大な赤字を内包する綱渡り的な国営をしていた。
そんな国家に災害は、あらゆるものを奪ったのである。
名ばかりの”日本”であり、世界の援助なしでは一日として生きてはいけない弱小国と一変した。
震災後、時は十年を超えていた。
かつての日本の面影はなく、この国を支配しているのは各国の資本家たちであり、政治さえも世界の意向を無視しては立ちゆかない。
闇の世界、裏の世界でもそれは同じだった。
莫大な資金を武器に世界を我がもの顔でその配下に置いていた日本の裏社会も世界マフィアにその全てを奪われ呑み込まれていった。
有数な治安大国と言われた日本は既に無く、各地で治安の悪化、暴力と苦渋を与えられ続ける日本の国民は、只堪え忍ぶしかなかった。
そんな時代の中、古来より伝えられてきた日本特有の力《霊力》が裏社会だけでは無く、各国の軍隊特に闇の世界で高く評価され実際に武器として使われ始めた。
高い霊力者ほど、その影響力は強く武器としての霊能者『ジャッパー』が高額で取引されている。
勿論、自らその力を誇示し多くの報酬を得る者も現れ、その多くは暗殺者として日本のみ成らず世界で動いていた。
そんな日本の関東の一部、かつて東京都庁が君臨していた瓦礫を中心に他国の裏社会さえ手を出す事が出来ない地域が存在する。
「ジャンク」と呼ばれるその地域は震災後、多くの避難民が地下鉄を根城に一つの集落をなしてきた。
国衛の為とはいえ、その広大な地下には災害時の緊急物資もあり、自衛隊が温存していた重火器も至る所に隠されていた。
その物資を元に彼らは諸外国からの干渉を拒み続け、自治さえ行う一つの国家を形成していた。
必要なものは全て力で救援物資の名の下に送り込まれた裏物資を奪い海外に残る日本人資本家達からの援助も与えられ、次第にかつて東京と呼ばれていた地域をほぼ全域その支配下に置いていた。
地方は「統制地域」と呼ばれ、そこから迫害を受けた人々も次第に集まりその中には能力者も数多く「ジャンク」と呼ばれるこの小国家は、闇の世界で宝庫として知れ渡っていた。
だが、そんな時代、世界に散らばっていた能力者を集め闇社会を牛耳ろうとする一団が台頭していた。
世界の軍隊さえその裏では彼らに従わざる終えないほどの影響力を有し、その矛先をついに日本とりわけ「ジャンク」へと向けてきた。
視察と称し部隊を送りいわゆる「能力者狩り」が行われ始めた。
「ジャンク」には元々小さな武闘派集団が存在し、その力を持ってこの地域を納めていたが、闇社会の介入を気に、団結を余儀なくされいていた。
しかし膨大な資金と軍事力を持つ裏社会国家「ゼイス」の力は、能力者を多く抱える「ジャンク」で有っても苦戦を強いられ、次第にその勢力を失いつつあった。
元々、「ジャンク」は保護を望む者は無条件で受け入れ小さな抗争はあっても互いの存在を認め合い助け合う事を第一に成り立っていたところがある。
決して他国の干渉を無為に拒んでいるのではなく、その中に含まれる悪意を嫌って独自に形成された地域なのである。
だがここに至っては只単に「ジャンク」だけの問題ではなく、このまま「ゼイス」が世界を牛耳れば、紛争は絶え間なく世界はかつて戦国の時代さながらに混沌とした秩序のない世界に成ってしまう。
それを感じ取った能力者は世界に数多く目覚め始めている。
「ジャンク」の戦いは、いわばかつての平和を望む人々と、闇社会との戦いへと否応なしに向かって世界を巻き込み始めていく。
今や「ジャンク」は、人々の光の部分であり、能力者にとっての救いの場として存在し続けている。
SEVEN?The Darkメインキャラクタ
![]() ■魁【かい】 俗名・青炎の魁 | ● 魁 かい(18才) 八歳で震災に巻き込まれ、孤児となり同じように孤児となった子供達の集団「青い狼」の一員として育ち、後にリーダーとして彼らを率いる。 彼の力はあらゆる物に霊力を注ぎ込み武器とする能力を持つ。 特に金属パイプなどを好んで武器としている。(霊力を注ぎ込むと青白く炎の様に光る)あまり戦いは好まないが仲間の為なら例えどんなに傷ついても立ち上がり絶対に挫けない。 愛用のバイク「スパロー2000」を乗り回しているため、戦闘服はバイクスーツ。 仲間が「ゼイス」の能力者狩りに合いほとんどが殺された為「ゼイス」への復習と仲間の救出を目的に戦いを始める。 |
![]() ■艶【えん】 俗名・瞬殺の艶月使い | ● 葉月 美咲 はつき みさき(21才) 震災時、叔父に助けられ共に「ジャンク」で暮らしていたが、18才の時病で倒れた叔父を助ける為、裏の仕事を続けて来たが20才の時叔父が死に今は賞金稼ぎの様な暮らしをしている。(金属を自在に操る能力を持つ。) 金で作られた折りたたみ式ブーメラン状のアイテム「艶月」を使い裏の仕事仲間では「瞬殺の艶月使い」の通り名で有名である。 気が強い反面、男に優しくされると弱い。気丈な叔父に育てられた為か魁の一途で誰にも屈しない所に惚れて仲間となる。 裏の事に精通している為、魁にとっては良きアドバザーでもあり姐のような存在。 |
![]() ■剛【ごう】 俗名・剛腕の凶王 | ● 樋崎 灯 ひざき ともる(19才) 震災で左腕を失い義手となるが、救助された後大阪の施設に収容されたが迫害を受けて12才で施設を脱走し「ジャンク」の保護を受ける。 その後、メカ工学を得意とする親友にサイバネティックの義手をもらい「ジャンク」の自警団に入る。 義手に霊力を注ぐことで腕に仕込まれた銃身から霊弾を打つことが出来る様に成った。 戦いで、親友と自警団の仲間を失い今は一人で能力者狩り部隊へテロ活動を続けている。 魁とは始め誤解から敵同士になるが戦いの最中、「ゼイス」の能力者の攻撃を受けたのをきっかけで誤解が解け、今は魁達と行動を共にする。 |
![]() ■滅【めつ】 俗名・滅殺の狙撃手 | ● ダナン ルヒテンブライン (27才) 元、ヨーロッパ統合軍の特殊部隊の狙撃手。日本女性の恋人がいたが震災で恋人を失い失意の末、軍を退役後スナイパーとなり世界を渡り歩いていた。 闇社会の標的が日本に集中している事を知り、かつての恋人の面影を抱き日本に渡る。 彼女が能力者であった為、少なからず能力を使えるようになり標的の気を感じる事が出来る。 「ジャンク」に入り、能力者と接するようになると彼の能力も強さを増し今では愛用のライフルで気弾を撃つ事が出来るようになった。 「ジャンク」の人々の心に触れいつしか「ゼイス」との戦いに身を置くように成った。 |
![]() ■智【ち】 俗名・千手の機械姫 | ● 智鶴 ちづる (11才) 生後まもなく震災に遭い、両親を失う。 泣きじゃくる智鶴を「ジャンク」に避難していた老夫婦が育ての親となる。 老夫婦が営む機械屋で育った為、機械に詳しい。(機械に触るだけでその特性が判る)物の持つ記憶を読み取る事が出来る能力を持ち、そこから知識を得て解体修理が出来る。 戦いで負傷した灯の義手を直す為に立ち寄った機械屋が智鶴の店だったのがきっかけで知り合ったが、後に「ゼイス」の攻撃に巻き込まれて老夫婦が殺され独りぼっちとなり魁たちと行動を共にするようになる。 震災後の「ジャンク」では義手や機械の修理が重要視されていた中、彼女の店は「何でもあっという間に直せる千手の機械姫がいる」と有名であった。 |
![]() ■陣【じん】 俗名・鉄扇の龍 | ● 龍 麒 (15才) 5才の頃中国の天津で中国マフィアに拾われた日系アメリカ人。 徹底的に暗殺術などを覚えさせられて育った為、感情を表に出す事を嫌い人と接しない。 中国系の流れを組む扇を武器として太極拳、八極拳などあらゆる拳法を取得している。 元々が日系でもあり少なからず霊力は持っていたが、中国武術を習得する事で、武具や拳などに気を載せて打ち込む事が出来る。 主に女性が得意とする扇を愛具としたのは、幼い時に生き別れた母を思っての事であり優雅さを選んでいたところもある。 魁たちの暗殺を目的に「ジャンク」へ潜入したが、智鶴との出会いで人と接する事の楽しさを知り、魁との戦いに敗れ自然と魁の心の強さと優しさを知り仲間となる。 |
![]() ■雷【らい】 俗名・ビットマスター | ● ジュン 高瀬 (20才) 10才の時、ニューヨークへ両親と旅行中、震災を知り帰る家を失い両親と共にアメリカで暮らす事になった。だが両親を事故で失い孤児となるがプログラマーである両親の影響か彼女も類い希な才能を買われ15才でシリコンバレーのバイオ研究施設のプログラマとして働くようになる。 その施設(「ゼイス」の資本)の研究が『霊力の増幅』で有る事を知り、のめり込むが自らがその力を持つ事「ゼイス」が闇の結社的存在である事を知り脱走の機会を伺いながら日本への研究員として派遣される。 その後、関東の研究施設が魁たちに破壊された時、共に脱出を申し出、仲間となる。 彼女は研究所が完成させたバイオコンピュータと自らの霊力を使い空中に浮遊する電子を自由に操り雷界結界を張り巡らしたり、電撃を発生させたり出来る。 |
![]() ■氷【ひょう】 俗名・氷帝 | ● ガルド (20才) 「ゼイス」のXナンバー部隊 Xsize(エクサイズ)のメンバーであるが一匹狼の所があり、独断専行型だが冷静な判断力も持ち合わせている。 何よりも群れる事を嫌い他人がどうなろうと無関心、冷徹な性格でもある。 子供の頃、自分の能力で自分の家族を死なせてしまった事が原因で孤独を好む。 絶対零度の技を得意とし、「ゼイス」でも『氷帝』として恐れられている存在。 魁との戦いで顔に傷を付けられてから魁を執拗に狙う。 一見、支配欲は無い様に見えるがその実、心の中では「ゼイス」さえも支配し世界をこの手に握る目論みも持つ。 |
![]() ■炎【えん】 俗名・炎の抱擁 | ● シャノン ロワール(25才) 「ゼイス」のXナンバー部隊 Xsize(エクサイズ)のリーダーでもあり灼熱の両腕を持ち3000度の高熱で全てを焼き尽くす。 性格は至って温厚であるが考え方は至ってシンプルであり「自分に役立つ者には愛を刃向かう者には死を」をそのまま行く自由奔放な性格。 損得で「ゼイス」を選び自ら暗殺者と成ったが、「ゼイス」に義理などの感情は持っていない。 口調や振る舞いは至って温厚であり世話好きな為、誰からも好かれるがその裏の怖さを知る者はあまり近づこうとはしない。 「ゼイス」に於いてはかなり上のランクであり幹部候補と成っているが本人にその気はない。 |
![]() ■素【そ】 俗名・流砂の破壊神 | ● メッシュ (15才) 「ゼイス」のXナンバー部隊 Xsize(エクサイズ)のメンバー。 赤ん坊の頃に「ゼイス」に拾われ、能力者で有った為研究施設で育ちあらゆる訓練を受けた。 素性は一切分からず、子供の頃の記憶も研究施設で消されている。 あらゆる物質を通り抜けたり、粒子の結合を自由に操る事が出来る能力を得意とする。 あまりの力に「ゼイス」では一度抹消されかけたが、記憶を制御することで暗殺部隊Xsizeのメンバーとなる。 記憶の操作の為か感情の起伏が激しく、我を忘れて周りの全てを破壊尽くした為、破壊神と呼ばれるようになった。 今は、暴走したメッシュを止められるXsizeのリーダー、シャノンを母のように慕っている。 |
![]() ■輪【りん】 俗名・死の光輪使い | ● ラナン (16才) 「ゼイス」のXナンバー部隊 Xsize(エクサイズ)のメンバー。 彼女もまたメッシュと同じ研究施設で育てられた。記憶は消されていないが施設の所長を実の父のように慕いほめられる事だけを生き甲斐に「ゼイス」の暗殺者となる。 彼女の能力は霊力を光の輪に具現化し高速で飛ばす事が出来る。 霊力の輪は高速で回転し瞬間的にいくつでも作る事が出来る為、それを武器に防御と攻撃を同時に行う事が出来る。 事の善悪をあまり考えず、行動力はあるが独りよがりなところがある為、相手を全滅させてしまう事もある。時には味方さえ傷つけてしまう。 |
![]() ■幽【ゆう】 俗名・静寂の妖獣使い | ● 寿 麻樹ことぶき まき(17才) 「ゼイス」のXナンバー部隊 Xsize(エクサイズ)のメンバー。 元々は「ゼイス」の研究施設で働いていたが、能力者と接する中で自分の能力に目覚めた。 彼女の能力は想像した物(特に魔物)を実体化させる事が出来る霊能力。 暗殺者と言うより、ラナンやメッシュの監視役もかねて配属されたが、元々が報酬第一主義であり、高収入の暗殺者を選んだ変わり者。 性格はほとんど無頓着であり、ファッションなどには全く興味が無く自分だけの研究に没頭する為の資金作りを目当てに働いている。 自らの研究「魔力と魔法と錬金術」の為か、実体化できるのは魔物が主。 |
■「ゼイス」Zeiss古来から暗殺を生業とする闇の組織。
元来は暗殺業を主に行っていたギルド的存在だったが最新の環境シュミレーション用コンピュータを使い始めた事により政治経済だけではなく、あらゆる分野に進出し始め現在は裏の政府機関を吸収し世界規模の闇政府となった。
「ゼイス」の名称もその資金力で独自開発した自立型コンピュータZeissからとったもの。
少数の幹部はいるが中心的な人物は存在しない、Zeissのシミュレートによって全ての判断を行っている。
能力者に関しても、シミュレートによって導き出された「人類のあり方」によって戦いの一手段として全ては決定される。
「人類のあり方」とは、すなわち戦い続ける事。文明の発展も人類の存在意義も全てが戦いを基本としていると導き出された。
勿論、人類の破滅的行為は決してしないがその観念を基本に世界の改革を行おうとしている。
■Xsize(エクサイズ)
「ゼイス」ではその技能と能力から通常、A?Rまでが一般の暗殺者のランクだがそれ以上のナンバーを持つ者は能力者が大半を占めている。
その中でもXナンバーを持つXsizeの5人は特別部隊として編成された。
Xナンバーは、他の部隊、特に共同任務をさせられないほどの危険人物と言う意味でもあり何処の部署にも当てはまらないという意味合いも含められている。
当然、彼らの行動は幹部からの命令ではなく、Zeiss端末からの命令で任務が決まる。
あらゆる部署にその特権は行使され「ゼイス」内に於いてもその存在を最重要機密とされている。
今現在の任務は、日本、特に「ジャンク」の能力者の実態であり戦闘はなるべく放棄するよう命令されているがその判断も全て彼ら独自に行っている。
■この世界の日本では、戦国絵巻「せぶん」で歴史がかなり変わってしまった日本が舞台です。
それでも世界の情勢やその後の日本が歩む歴史はさほど変化はありません。
只、「せぶん」での戦いを境に日本では、霊力を持つ者が非常に増え、少なからず誰でもがその能力を潜在するように成っています。
それでもその力を武器として使う事を嫌い歴史的にその存在は、あからさまにされないで現在の様な時代を迎えた世界なのです。
勿論、日本人だからその力を持っているのではなく、誰もが持っている力を一番使えるように成っているのがこの世界の日本人という事です。
そして全てを失った日本が立ち直り、世界へ貢献する術として霊力が重要視されているそれがこの「SEVEN」の物語です。
そのため、能力者を俗名もしくはその能力を表す一文字の漢字で表現される事が多いですし万能な能力者と言うのは皆無に等しくそれぞれに固有の力を持ちます。
現実の世界のように科学と相容れない存在ではなく不確かながらその存在と能力は認識され研究されている世界でも有ります。
超能力とは違って、人が本来持つ精神の波長というか固有の脳波振動の種類でそれぞれ違った力を有するというのが基本に成っています。
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■地球防衛少女隊『アリス』【短編】 |
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20XX年。
地球に向かって巨大な宇宙船が一隻長い航海を続けていた。
その姿はまるで(サナダムシ)もとい!!さなぎの様な形をしていた。
永い永い航海をやっと今!終えようとしている。
遙か彼方の故郷の星を離れ、先行の同族の元へと向かっていた。
「ギー!司令官ドン様!只今地球圏1万キロに到着致しました。」
「おー!そうか!やっと着いたか。永い旅だったなぁ?皆のもの! 我々の使命もやっと実るときが来た!本当にめでたい!」
そう言って司令官は部下に特上の祝い食を乗員達全員に配るよう指令を与えた。
「では!我らが使命、先発の我が同胞との再会と、我らゴッキー帝国地球リゾート計画部隊の前途を祈り!」
『ギー!!!!』
その言葉と共に搭乗員全員の手渡された極上のキュウリをもって自らの使命に対して新たな決意をするのであった。
「そろそろ同胞からの迎えが来ても良さそうな距離だがどうだ?」
司令官ドンが通信担当士に向かって現状報告を求めた。
「ドン様!先ほどから先発隊に向けて通信を試みているのですが一向に返事が無いのです!」
「おかしいなぁ?この距離ならレーダー圏内入っているはずだが・・何の電波も受信できんのか?」
「は!それが地球より数種類の電波は届いているのですが、内容が全く理解できない情報なのです。」
「先に連絡があったのはいつだったかな?」
「は!2億年ほど前、先発隊が地球到達した時点で連絡が有りました。」
「我々がコールドスリープ中には連絡は無かったのか?」
「は!記録によると、1億9000年前と1億8000年前に2度連絡が入っております。」
「そうか!読み上げてくれ。」
「ギー!」
『我らゴッキー帝国地球調査部隊より。地球環境は我ら同族に最適と判断。しかし地球には巨大な生物がおり只今コンタクトを試みておりますが、相手は知能程度に問題が有りこれ以上、この種族との交渉は無理かと判断。その後の調査により我らと同族の遺伝子を持つ生物を発見し、これとコンタクトを試みましたが、まだ知能的に未開発と判断し、予定の計画 全域侵略計画、作戦名【手当たり次第】を発動。以後、我ら調査隊は、同族部隊の繁殖を試み、地球規模での侵略を開始します。以上。ゴッキー帝国地球方面調査隊・隊長、ゴマキより。』
「音声と共に一部画像も送られて来ましたが、ノイズが激しく解析不能となっています。」
「2回目の通信内容ですが・・・」
『我らゴッキー帝国地球調査部隊第2期編成隊より。我々同族による地球全域による侵略計画。作戦名【手当たり次第】は尚も継続中。ほとんどの地域で同族の繁殖に成功。尚、繁殖作戦中に若干、遺伝子情報の変更を余儀なくされ只今作業中。しかし作戦には何ら影響は無いものと繁殖部隊より報告あり。繁殖部隊の作戦成功率は98%、後一世代後には作戦完了予定。以後は、本隊到着後に惑星改造計画を発動するべく部隊は待機する。以上。ゴッキー帝国地球方面調査隊・第2期編成隊・フンコロガシより。』
「以上の様な内容であり、以後は報告は記録されておりません。」
「そうか!どうやら作戦は完了し、我ら本隊の到着を待ってリゾート計画を発動すべく、調査隊は待機しているようだな。」
その時、超距離スキャンレーダーによる探査を終えた、調査部主任テントウが司令室へと入ってきた。
「ギー!ドン様!たった今長距離スキャンの結果がでましたのでご報告に参りました。」
「おー!そうか!では報告を聞こう。」
「ギー!生体反応スキャンの結果、我が同族部隊のものと思われる存在が地球全域より確認されました。
しかし異種族の存在も多数確認。鉱物を主とした文明が存在するものと思われます。ただし個体数においては我ら同族が優位かと判明致しました。」
「おー!やはりそうか!どうやら繁殖作戦は成功したようだな。」
「しかし司令官殿!異種族が気にかかるのですが・・・・」
「なに?案ずることはない!恐らくは、報告にあった低能な巨大生物を奴隷と化し文明の発展に使用したのだろう。」
「さすが!司令官殿!私もその様な事では無いかと推測しておりました。」
「はははは?!これで我々の使命も簡単に終わりそうだな。」
「ギー!!!!」
司令官ドンのその笑いによって、船内は歓喜に包まれていた。
あまりにも粗末な彼らの行動にあきれ果てる解説者であった・・・・・・
「うん?今誰か何か言ったか?」
「いえ。私には・・・・空耳でしょう。」
「そうだな。空耳だな。はははははは?」
地球防衛少女隊『アリス』プロローグ【お馬鹿な奴ら】 おわり。
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■『志音(SHION)』【小説】 |
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ユリカ編 Next02.....
日本は幕末からの混乱を経て新しい日本の国作りがようやく一息着こうとしていたが、その反面、外国との技術の差を縮めようと政治、軍事力、貿易などあらゆる面で必死になっていた。
特に軍事面での整備は著しく、海外との外交も盛んに行われ、軍国主義の台頭さえ見え始めるそんな時代でも有った。
そんな中、ここ函館でも近隣諸国、特にロシアとの外交並びに大日本帝国北辺の障壁となす中心的な存在として函館の港は重要な拠点でもある。
維新以来、北海道は新たな新天地として、諸国から開拓民が続々押し寄せ森に覆われた北の大地に新たな主要都市を築く礎として多くの人々が集まって来ていた。
だが、一方でこの土地に古くから住み着いていた人々、アイヌ民族を迫害するという弊害も起きている。
自然と暮らし大地からの恵みを大切に守り共に暮らす、そんな暮らしを国策と言う大義名分の中で一般庶民から奪う行為だったのかも知らない。
古来、彼らアイヌの人々達が語り継いできた《神の住む土地》そう言った神聖な場所さえも土足で踏みにじる行為が繰り広げられていた。
ただ、そんな人々の中にも自然を慈しみ共に暮らす人々を理解しようとする人間も居ないわけでも無い。
龍崎志乃助陸軍函館支部・騎兵隊少尉もそんな一人で有ったが、軍人であるが故の制約からか言動の自由を奪われた存在でもある。
だが今はそんな鬱積した気持ちを和ますひとときを少尉は楽しんでいた。
「ユリカさん。」
「少尉さん!お帰りなさい。今日は随分と早いのですね。」
「えぇ、部隊から転属命令が出まして、一時的に休暇を貰ったものですから。」
「まぁ、転属命令ですか?」
「はい。陸軍本部に配属が決まりました。」
「陸軍本部、それでは昇進ですか?それはおめでとうございます。」
「ありがとう。でも一つだけ気がかりな事が有ります。」
「なんですか?」
「あなたの事です。ユリカさん。」
「私?確かに少尉さんが居なくなるのは寂しいですが、少尉さんのお陰でこうして暮らしていける様になりお仕事まで頂いてなんとお礼を言ったらいいか。」
「いえ。それはユリカさんの人柄ですよ。私は大した事はしていませんよ。」
「そんな事は有りませんよ。記憶を無くし知らない土地で暮らせるのも全て龍崎少尉様のお陰です。」
「そう言っていただければ私はうれしいです。」
そう言いながら二人は和やかな会話の時を過ごしていた。
ユリカは五稜郭で少尉に助けられ、その後少尉のつてで、看護婦となっていた。
元々はユリカの記憶を取り戻す為、函館市内の病院へ赴いた際に、ユリカが転んで怪我をしていた子供を治療した事から、元々知り合いでも有った院長の病院で見習いとして働く事になったのである。
ユリカが記憶を失いながらもその処置が優れていた事も一つのきっかけでも有ったが、それを知った病院の院長が記憶を失う以前、看護に従事していたのでは無いかと言う診断もあり、同じような環境に居れば記憶を取り戻せるきっかけになるだろうとの判断でもあった。
「それにしてもたった三月で病院の勤務に慣れてしまうとは、やはり以前どこかの病院で働いて居たのでは無いかと院長も言っておられましたよ。」
「それが・・・記憶が無いのに体が覚えているようで、何となく出来てしまうんですよ。とっても複雑な気分ですが、でもこうやって体を動かしているとなんだかうれしいんです。」
「ユリカさんにはそうやって体を動かしているのが有っているんでしょうね。なんだか輝いて見えます。」
「少尉さんたら!お上手ですね。いつもそうやって女性を口説くんですか?」
「そっそんな・・・・・」
「冗談ですよ!少尉さん!」
「ひどいなぁ?」
「はははははっ!」
ユリカと少尉はまるで恋人同士のようにお互いを気遣いながらも楽しいひとときを過ごしていた。
「話は変わりますが、あれから何か思い出した事は無いんですか?」
「えぇ・・・・」
「あっ!すいません!私はただ何か思い出せば、ユリカさんの記憶を取り戻す手がかりを見つけられるかと思っただけです。気を悪くしないで下さい。」
「はい。分かって居ます。少尉さんが私のために色々と調べて下さっている事は。私も思い出そうとはしているんですが、思い出そうとすればするほど深い靄が頭の中にかかったようになるんです。」
「そうですか・・・でも!そう焦ることは無いですよ。先生も言って居られました。記憶喪失と言うのは無理に思い出そうとするより焦らずに気持ちを落ち着かせる事が一番だと。それに何かが引き金になって突然思い出すと言うことも有るらしいですから。」
「そうですよね・・・・・でも私は今そんなにめげては居ませんよ。だって!こうして少尉さんが気にかけて来て下さるんですもの。」
「あの?一つお願いが有るんですが・・・・・・」
「なんですか?少尉さん。」
「その少尉と言うのを辞めて貰えませんか?あっ!別に嫌だって言う訳じゃ無いですが、名前で呼んで貰えないかと・・・・」
龍崎少尉は少し照れた様にユリカの目を反らした。
「あっ!ごめんなさい。昇進するんですから、もう少尉さんじゃ無いんですよね。」
「いえ・・・・そう言う事じゃ無くて・・・・・なんと言えば良いか・・・・・」
「ではなんて呼びましょう?龍崎さん?それとも志乃助さん?」
「あっ!どちらでも・・・・・・・」
少尉は顔を真っ赤にしてうつむいていたが、ユリカにはそんな照れた顔をする少尉が可愛いと思った。
「そうだ!ユリカさん!私が陸軍本部へ転属するまで、しばらく休暇を貰ったんで田舎へ帰ろうかと 思っているんです。もし良かったらユリカさんも一緒に気晴らしに行ってみませんか?」
「でもお仕事が有りますから。」
「実は院長から了解は貰っているんです。色んな環境で過ごすのも記憶の手がかりをつかむ良い方法では無いかと。」
「少尉さん!随分手回しが良いんですね。」
そう言うとユリカは少尉をからかうように微笑んだ。
「すっすいません!余計なお世話だったかも知れませんね。」
「いいえ。喜んでご一緒させて頂きます。志乃助さん。」
「えっ?今なんて?」
「はははっ、忘れました。」
「ユリカさん。」
うち解け合い笑い合う二人はいつしかお互いに何かを感じ始めている事に気が付いていた。
ユリカ編 Next03.....
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ユリカ編 Next01.....
「何で4月だって言うのに雪なんて降るんだよ。うぅ?寒い?早く交代の時間にならないかな。」
警備兵は一人でこの寒空の中を巡回する任務にあまりの寒さでぼやき始めた。
「そういやぁ?あいつら今頃、街で飲んだくれているんだろうなぁ?俺も一杯ひっかけたいよ。」
同じ兵舎務めの同僚の話を思い出し益々ぼやきが増してきていた。
そこへ馬に乗った一人の男が兵舎へと近づいてくる。
「何だよ?こんな時間に・・・」
不思議そうに暗闇の中をこちらに向かってくる馬上の男の顔を見た警備兵は慌てて男に向かって敬礼をしていた。
「龍崎少尉殿!このような夜更けにご苦労様であります!」
「そう言う君こそ、この寒空、難儀だな。」
「いえ!任務でありますから。」
「まぁこんな日くらい酒でも飲ませてやりたいがそうもいかんな。」
「お心使い心より感謝いたします。それにしても少尉殿こそこの夜更けにどうなさったので有りますか?」
「いや、明日部隊長に提出する報告書を部屋に忘れたんでな。それに季節はずれの雪の中をこうして馬で散歩もたまには良いかなと思ってな。」
「風流で有りますな。」
「風流かぁ、本当は馬鹿なことだと思っているんじゃないのか?」
「いいえ!決してそんな事は思ってはおりません!少尉は我々の憧れでも有りますから。」
「そうか。それなら良いが。では入るぞ。」
「はっ!」
警備兵の敬礼を受け少尉は兵舎の中へと入っていった。
「やっぱり格好いいよな。俺も少尉の様に騎兵隊に入ればよかったかな?」
夜の兵舎はぽつんと一つ、ガス灯が点り少尉が乗る馬の蹄の音だけが周囲に木霊していた。
兵舎と言ってもここには大部隊は駐屯していない。兵器庫が何棟か並んでおり小さな兵舎が一つ有るだけだった。
やがて報告書を取りに来ていた少尉は報告書と一冊の本を片手に門の方へ戻ってくる。
「ご用はお済みですか?少尉殿。」
「あぁ、済んだよ。では私は宿舎に帰るが明日、私は部隊長の所へ行かねばならんから留守を頼んだぞ。」
「はっ!ではお気をつけて!」
「ありがとう。君も風邪をひかんようにな。」
「ありがとうございます。」
敬礼をする警備兵を後に少尉はゆっくりと雪の中を歩き始めた。
「それにしても良く降るな。この分じゃかなり積もりそうだ。まぁ真っ白な五稜郭も風流か。」
馬の白い息が夜の雪明かりに浮かびまるで絵から飛び出してきた様な馬上の少尉だった。
静まりかえった五稜郭を進む少尉の前方に突然、柔らかい光が白い雪を照らして降りてくる。
「なんだ?あの光は?」
不思議そうに見つめていたがおもむろにその光が舞い降りた所へ馬を進める少尉の目に光に包まれ倒れている人影が見えてきた。
「誰だ?」
その人影は少尉の呼びかけに答える気配はない。
側に寄って馬を下りた少尉は、その人影へと進んでいく。するとそこには見たこともない服を着た少女が倒れている。
「おい!大丈夫か?」
駆け寄りその少女を抱きかかえる少尉は、少女が息をしているのを確認すると頬を軽く叩き声をかけるが気絶しているのか目を開ける気配が無い。
「おい!大丈夫か?どうしたんだ?」
何度か呼びかけていると気を失っていた少女はゆっくりと目を開け何かを呟いている。
「レイ・・・・兄さん・・・・」
そう呟くと少女はまたぐったりと少尉の腕の中で気を失ってしまった。
「このままにして置く訳にもいかん。ひとまず宿舎へ連れて行くか。」
少尉は少女を馬に乗せ自分が寝泊まりしている宿舎へと馬を走らせた。
宿舎へ戻ってきた少尉は人を呼んだが誰の返事もない。
「そうか。明日は久しぶりの休みだから皆、出払っているのか。」
少尉は仕方なしに少女を自分の部屋へと連れて行き自分の布団に寝かせると消してあった
ストーブに薪を入れ火を着けた。
「どうやら日本人の様だが、この様な材質の服は見たことがない・・・
それにしてもどうしてあそこに倒れていたんだ?あの光に当たって倒れたのか?」
少女の額に手を当て熱を見るが、熱は無い。
「どうやら気を失っているだけ見たいだな。それに怪我もないしその内目が覚めるかもしれない少し寝かせておくか。」
少尉は毛布を一枚引っ張り出すと、壁に寄りかかり自分も眠りについた。
やがて朝が眩しい日の光が周囲を照らし始めた。
降り続いていた雪はいつのまにか止み、明るい春の日差しが宿舎の窓からこぼれ始めてくる。
「うっ、」
窓からこぼれる朝日で少女は気が付いたらしい。
「ここは・・・?」
その声が聞こえたのか壁により掛かり眠っていた少尉が目覚め少女の元へと体を寄せた。
「おい。気分はどうだ?どこか痛むところは無いか?」
見知らぬ顔の少尉を見て少女は一瞬身をすくめたが、優しそうな顔でのぞき込む少尉に安心感を覚え言葉を続けた。
「ここは?一体私はどうしたんですか?」
「安心しろ。ここは函館歩兵分隊の寄宿舎だ。君は昨晩、五稜郭で倒れていたんだ。たまたま通りがかった私がここまで運んできた。」
「はこだて・・・・ほへいぶんたい?にほん?」
少女には理解できない地名だった。
「そうだ。ここは日本陸軍函館歩兵分隊の寄宿舎、そして俺は五稜郭兵舎に勤務している龍崎志乃助。君の名前は?どこから来た?」
「私の名前は・・・・ユリカ。どこから?・・・・思い出せない・・・・」
「良いんだ。昨晩の光のせいで一時的に記憶をなくしているんだろう。ゆっくりしていればその内思い出すよ。」
「昨晩の光?って?」
「そうか、覚えていないのか・・・
昨日の夜、10時頃だったか空から光の玉が落ちてきて、たまたま目撃した私がその場所へ行くと君が倒れていたんだ。その光が原因で気を失ったんだろう。外傷はないようだが・・どこか痛むところは有るか?」
「光・・・いいえ。どこも痛むところは有りません。ただ頭の中が霧がかかったようで何も思い出せ無いんです。」
「でも自分の名前は覚えていたようだな。」
「名前・・・ユリカ・・・そう呼ばれていた様な気がして・・・」
「そう言えば、昨日私が見つけた時に、レイとかシオンとか口走っていたが・・・・」
「レイ・・・?シオン・・・??・・何故か懐かしいような・・・・」
「無理しなくても良い。しばらく横になっていれば思い出すかも知れない。」
「でも・・・」
「そうだ!私は任務で出かけなければならないから、賄いのときさんに頼んでおくから食事でもとって少し眠った方が良い。私は夕方には戻るからそしたら又話をしよう。」
少尉はそう言って笑顔を見せると、部屋を出ていった。
一人残されたユリカと名乗った少女は、霧がかかった様な記憶の糸を辿るように考えていた。
「私は一体・・・・どうしたんだろう?」
やがて少女の意識は深い霧の中へと沈んでいった。
Next02..........。
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シオン編 Next 04....
「それにしても本当に寂れた村だな。こんなんじゃお宝どころか食いもんだってろくに無いんじゃないの。あぁ?嫌だ嫌だ、人間落ちぶれたく無いもんだね?。」
「頭、これからどうするんです?」
「ギッツ!村人を集めろ!言うこと聞かないようなら構わなねぇ?から叩きのめせ!」
「分かったぜ!お頭、任せてくれ!」
「おーーーーい!おめえら!よーく聞け!ここにいるギル様がおめぇらに話がある!すぐに一人残らずここに出てきな!すぐに出て来ない場合は俺様が見つけだして叩き切る!わかったか!?」
大きな声で叫ぶギッツに従うかのように6人の怪しげな連中を見つけ、恐る恐る村人達が集まってくる。
「オー!結構居るじゃねぇか!どこに隠れていやがったんだ!」
その時、村の長が彼らの前に歩み寄ってきた。
「旅のお方達、わしらになんの用か分からんがご覧の通りこの村は年寄りばかり、物騒な真似をせんでも食料と水位なら出来る限り用意させる、だから村人に危害を加えんで貰いたい。」
「ほ?う?物分かりの良い爺さんだ!だがなハイそうですかと素直に聞くような俺達じゃ無いんだ。悪いがな。」
「ではどうしろと?」
「だから言ってるじゃねぇか、全員ここに集まれってな!話はそれからだ!ジジイィ!」
村の長はとりあえず村人達に集まるようにそれぞれ指示を与え、やがて百人ほどの村人全員が怯えた表情で出てきた。
「おばちゃん、どうしたの?何でみんな集まってるの?」
ざわついた村の騒ぎにリンは不思議そうにキナに問いかける。
「リンちゃん、あんたはどこか連中に見つからないように隠れておいで。」
「うん、良いけど・・・」
「良いかい、私が呼ぶまで絶対に出てきたら駄目だよ。分かったね。」
キナはそう言うとリンを家の中に隠し扉を閉じた。
「これで村の人間は全部じゃ、わしが代表で話を聞こう。」
「ほう?、本当にジジイィとババアァばかりだな。まさか若い娘とか隠して俺達が居なくなるのを期待してる訳じゃねえよな?もしそんな事を考えているんなら辞めておいた方が良いぜ。」
「そっそんな事は無い。これで村人全部じゃ。」
「本当か??まぁ良いや。どうせ後で分かることだからな。それじゃ本題に入ろうか。見ての通り俺達は砂漠を越えて来たんで腹も空いてるし体も洗いたいそれに疲れているんでな、休めるところがほしい・・・あっと!酒もだ。」
「そのくらいならすぐにでも用意させよう。おい!・・・・」
「おっと!重要な事忘れてたぜ!この村にある金目の物全部ここに集めな!」
「金目の物と言われても・・・・・」
「良いから素直に出せば良いんだよ!」
ギルは困った顔をしている村の長を足蹴にし剣を取り出し村長の喉元にあてた。
「早くしないと一人ずつ殺していくぞ。あんな風にな・・・」
その言葉を合図に、ギッツは無造作に鎖鎌を抜いて村人めがけ投げつけた!
《シュッ!》
「ぎゃぁー!」
無造作に投げつけた鎌に斬りつけられた村人の一人が悲鳴と共に倒れ込んだ。
「何を!何をするんだ!」
「だから言われた通りにしろよ。じゃないと・・・・」
「わっ!分かった!何でも言うことを聞く!だからこれ以上村の衆に手を出さんでくれ!」
「始めっからそう言う素直な態度で居れば殺されなかったものを、あんたのせいだぜ!」
悔しさに身を震わせている村の長をギッツは不適な笑いを浮かべ見下ろしていた。
長の指示で村人達は村にある限りの食料と酒、それに金目の物を集め始める。
「これであんた等がほしい物は全部集めた。泊まる所も提供しよう。だから・・・・」
「だからなんだ?すぐに出ていってくれ?てか。ハハハハハァこれは笑える。」
「こっこれ以上何が望みなんじゃ?儂等にはもう差し出す物なんて・・・・」
長のその言葉を待っていたかの様に、ギッツはぎらついた目を輝かせる。
「あるじゃねえか。俺達は何にもない砂漠を渡って来て少々退屈してるんだ。だからよ!遊ばせてくれねぇか?」
「あっ遊ぶと言ってもこの村には・・・・・」
ギッツの目を見て村長は理解した。
『儂等の・・・・』
「そうだよ!わかりが早いじゃねぇか!はははは!」
「くっ狂ってる・・・・」
ギッツは恐怖で震えている長をあざ笑うかの様に見つめていたが、おもむろに村人に向かって叫び始めた。
「いいか!これから20数える!おめぇらはその間好きに逃げな!それとだ!俺達は6人しか居ない!俺達6人を全員倒したらおめぇらの勝ちだ!分かったか!さぁー!逃げな!!」
何がどうなっているのか状況が掴めない村人達はその場に呆然と立ちすくんでいた。
「皆の衆!逃げるんじゃ!こヤツらは儂等を皆殺しする気じゃ!早く逃げろ!」
突然の長の叫びに、何が始まったのか理解した村人達は一斉にその場を走り出した!
「逃げろ!逃げろ!ハハハハハッ!」
「お前ら!準備は良いか!?」
「へへへへへッ!これは面白いや!久しぶりに狩りができるぜ!」
「俺は酒でも飲んでるから、お前ら楽しんできな!」
「あたいはご免だよ。それより水浴びでもして綺麗にしてくるよ。」
「あぁ、好きにしな。」
「ギッツ!どっちが多く狩るか賭けようぜ!」
「おぉ!良いぜ!」
まるで人殺しを楽しむかの様に六人は各々の目標を定め奇声を上げながら走り出した!
その奇声を合図に村は一瞬で地獄絵図の様な修羅場と化して行く。
一人、又一人と抵抗する事も出来ず、鈍い骨が砕ける音、悲鳴ととも飛び散る血しぶき・・・血走った眼孔を輝かせ、まるで小動物をいたぶって楽しむかのように剣を振り回す野盗・・・・刃物を持ち出し、必死に抵抗しようと試みるが村人達には無駄なあがきでしか無かった・・・村中から聞こえる悲痛な叫びに、隠れていたリンは恐怖を覚えそっと窓の外を覗き見た・・・
その時!
「なんだ??!ガキがこんな所に隠れていたじゃねぇか?」
「・・・・・・?!」
突然扉を蹴破り現れたベアハッグにリンは恐怖で悲鳴さえ上げることが出来ずただ震えている。
『シオン・・・・爺ちゃん・・・・助けて・・・・』
シオン達を乗せたポロルは出しうる限りの力で荷台を引っ張り走り続けていた。
「もう少しだ!がんばれ!そうだ!後少し!!」
村の入り口までやっと辿り着いたポロルは力尽きたのか、その場に倒れ込んだ!
「爺さん!俺は先に行く!」
そう言うとシオンは取る物も取らず、荷台を飛び出した。
丸腰で飛び出したシオンを制止ガオウがガゼルの武器を手渡す。
「これを使え!丸腰じゃ戦えんだろ。それにお前一人じゃ死にに行くような物だ!俺がヤツらを倒す!」
「すまない・・・」
シオンとガオウは、村へと入って行くとそこには静けさを取り戻し物音一つ聞こえない・・・
「なに?!」
「これはひどい・・・」
二人がそこで見た物は、無惨にも殺され、道に折り重なるように倒れている村人達だった。
「何故だ?!何故こんな事が出来る・・・・・・」
「ヤツらには他人の命なんて関係ないのさ。」
「だからって!無抵抗な村人を・・・・・」
その光景を見たシオンは我を忘れて叫び狂っていた。
「出て来い!!人殺し共!!」
シオンの叫びが聞こえたのか、長の家からギッツとザハーンがゆっくりと出てきた。
「なんだ?てめぇ?!?」
「お前が盗賊か!?お前達が村のみんなを殺したのか!?答えろ!!」
「うるせぇなぁ?ぎゃぁぎゃぁと、だったらどうするって言うんだよ。」
「俺がみんなの仇を討つ!!」
「なに言ってんだ!お前??お前一人で俺達を倒すって言うのか?あまりのショックで気でも狂ったか?ギャハハハハ?これは面白い。笑えるよ!てめぇ。なぁ?ザハーン!」
「あぁ、面白すぎて反吐がでりゃ?!!」
「そう言えるかな?ギッツ!ザハーン!」
シオンの後からガオウが剣を握って現れた。
「オッ!おめぇは・・・ガオウ!!なっ!何でここに・・・・」
ガオウを見たギッツとザハーンの顔色が一瞬で変わった。
「かしらー!!大変だー!ガオウが・・・ガオウの野郎が・・・」
「何騒いでいやがるんだ。せっかくの酒が不味くなるじゃねぇか・・・」
酒瓶を片手に現れたギルは、ガオウの姿を見つけると、ニタァ?と不適な笑いを浮かべた。
「これはこれはガオウ、こんな所まで俺達を追いかけてきたのか?しつこいね?そんなんじゃ女にもてないぜ。」
「戯言はそれだけか、ギル!!」
「おー怖!そんな怖い顔するなよな。長いつき合いじゃねぇか。」
「あぁ、腐れ縁もここまでの様だな。ギル。」
「さぁ?それはどうかな?おい!ベアハッグ!そのガキ連れてきな!」
「あぁ」
そう言ってベアハッグは、家の中から小さな子供を連れて出てきた。
「リン!」
「シオン!!!」
「なんだ?お前達知り合いか。このガキが言っていたシオンって言うのはお前の事か。」
「リンを放せ!」
「お前馬鹿か?ハイそうですかって、人質放す奴がどこの世界に居るんだよ。」
「卑怯だぞ!ギル!」
「良いんだぜ?。このガキと一緒に俺をぶった斬ってもよ。」
「ギル、貴様・・・・・」
「やっぱりなぁ?剣闘士一の戦士と言ってもガキが居たんじゃ手も足も出せないってか。」
「なんてやつだ・・・・・」
「儂が変わりに人質になる、だからその子を放してくれ。」
後を追ってきたウナル爺さんが怒りに我を忘れているシオンを制止ギルの前に出てきた。
「ジジイィは引っ込んでろ!人質って奴はな無抵抗でかわいげのあるガキだから価値があるんだよてめぇみたいな老いぼれは利用価値なんざねぇーのさ!」
「爺ちゃん!みんなが・・・」
「リン・・・・・」
「そうだ!爺さんにチャンスをやろう。爺さんとそうだなぁ・・・ギッツ!一対一で戦え。もし爺さんが勝ったらこのガキを返してやるよ。」
「ギル!貴様!」
「おや?せっかく俺が正々堂々とガキを取り戻せるチャンスをやろうと言うのに?俺の優しい心が分かって貰えないのかなぁ?残念だなぁ?」
「分かった。儂が戦おう。リンは儂の大事な孫娘じゃ、命に代えても・・・」
「無理だ!爺さん!爺さんがかなう相手じゃない。」
「俺にやらせてくれ!俺が爺さんの代わりに戦う!」
「シオンとか言ったな。俺は爺さんとギッツの戦いが見たいんだよ。引っ込んでな!」
「しかし・・・・」
「良いんじゃ、どうせこのままじゃ儂等にはどうする事も出来ん!一歩の望みが有るのなら儂は戦う。」
ウナルは持ってきた剣を引き抜き構えて見せた。
「ほう?爺さん!中々どうして!堂に入ってるじゃねぇか。がんばれよ!ギッツ!」
「へへへへっ!多少でも歯ごたえが無いと面白くないもんな。」
ウナルとギッツはお互いの間を計るように距離を取り始めた。
『あの鎖鎌では一瞬が勝負じゃ。どうあがいても体力ではかなわん・・・・』
「どうやら爺さん、かなりの腕の様だな・・・・」
「分かるのか?ガオウ。」
「あぁ、構えを見ればそれなりの力量は分かる。だがギッツの鎖鎌の攻撃を除けられても爺さんの体力で倒せるかどうか・・・・・」
「爺さん・・・・・」
ギッツの鎖鎌の鉄球は今ウナルを狙い円を描いて回りだした。
「へへへっ、俺の鉄球をそんな細い剣で払いのけられるのか?来いよ!かかって来いよ!」
「・・・・・・・」
「どうやら怖くて動けないようだな。ジジイィ!じゃ!こっちから行くぜ!」
《ヒュン!》
ギッツの鉄球がまるで生き物のようにウナルをめがけ飛んでいく!
《キーン!》
ウナルは微動だにせず鉄球をはじき返した。
「ほう?やるじゃねぇーか。」
《ヒュン!ヒュン!》
まるで伸び縮みでもするかのようにギッツの鉄球はウナルをめがけ二度三度と飛んでいく!
「駄目だ!このままじゃ爺さんの体力が持たない・・・・」
ガオウがそう思った瞬間!ウナルはその場にしゃがみ込み一気にギッツの足下をめがけ飛び込んでいった!
「なに?!」
ウナルが放つ切っ先がギッツの足を捉えたかと思ったその時、ギッツの体は宙を飛んでいた。
「へへへ!甘いんだよ!ジジイィ!死ねー!」
渾身の力で切り込んでいたウナルの背中をめがけ、ギッツの鎌が振り下ろされる!
《グサッ!》
「うっ・・・!」
背中に鋭い痛みを感じウナルはその場に倒れた。
「爺さん!!」
「おじいちゃん!」
「なんだ?もっと強えぇ?のかと思ったら以外と弱いでやんの!」
あまりにも拍子抜けしたのか、ギッツは止めを刺さずその場を去ろうとしていたその一瞬!
《グサッ!》
ウナルが背を向けたギッツの足に剣を突き刺していた。
「てめ?!」
ギッツはウナルの剣を引き抜き放り投げると、ウナルの腹をめがけ鎌を突き刺した!
背中と腹に深い傷を負ったウナルは血へどを吐きその場に崩れた。
「爺さん!!」
駆け寄るシオンはウナルの体を抱き寄せ何とか血を止めようとするが深い傷からは止めどなく赤い血が流れていく・・・・
「爺さん!しっかりしてくれ!今薬で・・・・」
「良いんじゃ、シオン・・・もう・・・・」
「駄目だ!死ぬな!死んじゃ駄目だ!」
「シオン・・・すまぬがリンの事・・・」
「あぁ!俺が絶対に助ける!だからまた三人で暮らそう・・・」
「そうじゃな・・・・また三人で・・・・」
ウナルはそう言い残し力尽きて動かなくなってしまった。
「爺さん・・・・・・」
「爺ちゃん!死んじゃやだよー!じいぃちゃ?ん!!!」
「あらら?残念だったな?面白い勝負だと思ったのに。」
「貴様?!許さない・・・・」
「おいおい!これは勝負だぜ。負けたのは爺さんが弱いからじゃねぇか。俺を恨むのは筋違いってもんだろ。」
「痛てて?どうすんだよ!又傷が増えちゃったじゃねぇか!」
「またシュメルに縫って貰えよ。」
「やだよ?!お頭?。またねえさんに革ひもで縫われたくねぇよ!」
「なんだって?!」
「ありゃ!ねぇさん聞いていたのか。」
洗ったばかりの髪を拭いながらシュメルが出てきた。
「せっかく水浴びしてゆったり気分で居たのに何の騒ぎだい?あら?ガオウが居るじゃないのこんな所まで追いかけて来るとは物好きだね。」
「おめぇ?今まで水浴びをしていたのか?」
「良いじゃないのさ!女はね、清潔が一番なんだよ!それにしてもガオウが居るのに何であんた達生きてんの?」
「そりゃ?ねーよ!ねぇさん!」
「なんでもな?このガキが居るとガオウは俺達に手も出せないらしいぜ。」
「へぇ?ガイラース1の剣闘士とも有ろうものが、小娘一人で何も出来ないんだ?こりゃ傑作!」
シュメルのその言葉に盗賊達は笑いが止まらないと言いたげにガオウを挑発していた。
『このままじゃどうする事も出来ない・・・どうする?』
『あの子さえ何とかヤツらから放せれば、俺が飛び込んで一撃を加えられる。』
『そうだ!俺に考えがある。俺の合図でいつでも飛び込めるようにしてくれ。』
「なにコソコソ二人で話しているんだ?このガキを見捨てて俺を斬る気になったか?」
「・・・・・・」
ガオウは剣に手をかけ身構えるだけで、ギルの挑発に乗ろうとはしなかった。
『トレーサー!ポッドの測定用レーザーを出力最大にして指定の座標にセット!』
《了解。測定用レーザーを最大出力で前方の座標に照射準備。・・・・完了。いつでも発射出来ます。》
『照射!!』
その合図と共にポッドからリンを捕まえているベアハッグめがけレーザーが発射された!
〈ピカッ!〉
「うっ!」
ベアハッグは突然右腕に痛みを感じ思わず、リンを捕まえていた手を放した!
「いまだ!」
そのシオンの合図を待っていたかの様に、ガオウがベアハッグめがけ飛び込んでいった!
《ズバッ!》
一瞬の攻撃でガオウはベアハッグの腕を切り飛ばし、返す剣でギッツの胴体を真っ二つにしていた。
「いまだ!リン!走れ!!」
「シオン!!」
あまりにも素早いガオウの動きでギル達は何が起こったのか分からなかった。
「ギル!」
「てめぇ!」
《カキーン!》
ギルはすんでの所でガオウが放つ剣を受け止めた。
リンは無我夢中でシオンが待つその場所を目指し必死に走っている。
「シュメル!そのガキを逃がすな!!」
「あぁ!分かってるよ!このガキ!!」
必死に走るリンをめがけシュメルは鋭い鞭を放つ。
《シュッ!》
「うっ!」
リンは『もう少し頑張れば優しいシオンの元に・・・』そう思った瞬間、彼女の体を鋭い痛みが走りその場に崩れた。
「リン!!」
「しまった!鞭の棘が・・・・」
あまりにも小さなリンの体はシュメルが放った鞭の先に付いている金属の棘に胸を刺され深い傷を負ってしまったのである。
「リーーーーーン!!」
駆け寄るシオンはリンの体を抱き寄せ胸の傷を必死に押さえ血の流れを止めようとしたが押さえても押さえても止めどなく流れる血をどうする事も出来なかった・・・・
「リン・・・・」
「シオン・・・良かった・・・約束通り帰ってきてくれたんだね・・・」
「あぁ、俺はずっとリンの側に居るよ。もう絶対に離れたりしない・・」
「約束だよ・・・シオン・・」
「あぁ、約束だ。」
「あれ?シオン!?どこに行っちゃったの?・・・」
「リン・・・ここに居るよ。」
「シオン・・・なんだか眠くなっちゃった・・・」
「リン!駄目だ!眠っちゃ・・・しっかりしてくれよ。リンが元気になってくれないと俺はひとりで寂しいよ。」
「そうだね・・・・シオンは私が居ないと・・・・なんにも・・・・・・・・・・・」
「リン!目を開けろ!リン!リン!おい!リン・・・・・」
にじむ涙を必死にこらえ、シオンはリンに呼びかけるが、もうすでにリンは動こうとはしなかった・・
段々と冷たくなっていくリンの体・・・・
「何でだよ!何でリンが死ななきゃならないんだ!!リンが何をしたって言うんだ!!
この村の人たちだって誰にでも優しく一生懸命生きていたじゃないか・・・なのに・・・なんで・・」
シオンはリンの体をウナルの元へ運び寝かせると、側に転がっていたウナルの剣を握りしめ立ち上がった。
「貴様らー!!絶対に許さない!たとえこの命に代えても貴様らを殺す!!」
シオンは剣を構えると、一気にシュメルをめがけ切り込んだ!
「あんたみたいな青二才にわたしが殺られるかぁ!」
シュメルは鞭を振り上げシオンめがけ放った!
だがシオンはその鞭の攻撃さえ除けようともせず、まっしぐらにシュメルめがけ剣を突き刺した!
《ザクッ!》
肉を突き刺す鈍い音をさせシュメルが倒れた・・・・
「姉御!!貴様?!」
シュメルが倒れたのを見ていたドムルが巨大な鉄球をシオンめがけ投げつけた。
「危ない!シオン!」
その時!ワームの毒にやられ荷台で寝ていたはずのガゼルがドムルの鉄球を払いのけた。
「貴様の相手は俺だ!!」
「ガゼルかぁ!相手に不足なねぇー!」
「おっと!お前の相手は俺さまがしてやるよ!!」
そう言ってザハーンが鋭い爪をかざしてシオンめがけ斬りかかってくる。
《シュパッ!》
「うっ!」
鋭い爪がシオンの胸元をかすめた。
倒れかかったシオンだったが、怒りで痛みなど感じる事はなかった。
鋭い爪をきらめかせ次の攻撃を仕掛けようとするザハーンを気にも止めようとせず一気にザハーンの喉元をめがけ突進する。
ザハーンも切り込んでくるシオンめがけ鋭い爪を突き刺す!
二人の体はぶつかり合いその場で止まった。
シオンの胸を刺すザハーンの爪・・・
だがシオンの放った一撃はザハーンの喉を突き刺していた。
「なっ・・・なんで・・・・」
そう言い残しザハーンの体は崩れていく。
ザハーンとの一瞬の勝負が終わった時、ガオウそしてガゼルの戦いも終わりを告げていた。
「どうやらこれで俺達の旅も終わりだな。」
「あぁ、長い間済まなかったなガオウ。」
「いや、俺にとってもこいつらは仇同然だ。」
ガオウとガゼルはその場に立ちつくすシオンに目を向けた。
「シオン・・・・・」
だが二人には、最愛の友人達を失ったシオンにかける言葉が見つからなかった・・・
「リン・・・・爺さん・・・・」
リンとウナルが横たわる側へ歩み寄るシオンはそうつぶやくと、止めどなく流れる涙を拭おうともせずいつまでもその場を離れようとはしなかった・・・・・
そんなシオンを見守るガオウとガゼル・・・
「ガオウ、一つ聞いても良いか?」
おもむろにシオンが口を開いた。
「なんだ?シオン。」
「このガイラースは、こんな戦いばかりの世界なのか?」
「あぁ、残念だが、ガイラースでは戦いは大昔から終むことはない・・・」
「何故人は戦い続ける・・・」
「導く者が居ないからだろうな。」
「導くもの・・・・・・・」
「あぁ、このガイラースを治め、人々を導く存在・・・・それが現れたら戦う事も無くなるかもしれないが・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「ガオウ、ガゼル、俺に力を貸してくれないか?」
一瞬、シオンの問いに顔を見合わせる二人だったが・・・
「あぁ、お前に助けられたこの命、俺で良ければお前に全てを与えよう。」
「俺も良いぜ。どうせ俺には行く当ては無いからな。でも何をするつもりだ?」
「戦いを終わらせる・・・・・」
「戦いを・・・・?」
「あぁ、罪もない人がこんな風に死んでいくのを俺は黙っていられない・・・」
「・・・・・・・」
「シオン・・・・」
「あぁ、お前なら出来るかもな。」
そう言って三人はガイラースの空を見つめ熱い思いがこみ上げてくるのを感じていた。
その後、三人は村人達の遺体を丁重に葬り、自ら選んだ運命に向かって旅立っていった。
彼らの行き先は誰にも分からない・・・・・・
ただウタリの村から吹く風は、ガイラースに新しい風を感じさせていた。
第二章「生存?それぞれの刻・シオン編」
fin.
第二章「生存?それぞれの刻・ユリカ編」へ続く........。
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■『志音(SHION)』【小説】 |
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シオン編 Next 03.....
「それは良いがお前さん、来るとき眠っていたのに帰り道が分かるか?」
「あぁ、大丈夫だよ。安心してくれ。」
シオンはそう言うとトレーサーを取り出し装着した。
「なんじゃ?それは?」
「これかい?これは色んな事を教えてくれる便利な道具だよ。」
「まぁ、よく分からんがそう言ってくれるなら儂は寝かせてもらうが、道に迷ったらいつでも起こせば良い。」
「あぁ、そうするよ。」
ウナルは何となく不安げな顔を見せたが、『シオンにはこれも良い経験に成る』と言いながら荷台にその老体を横たえた。
シオンはポッドから送られてくるガイラースの地図を検索してウタリまでの帰り道を表示させながら送られてくるガイラースのデータに目を通していた。
『ガイラースはまるで一つの巨大な大陸の様に見える・・・・ユーラシア大陸に匹敵する大きさの様だな。だがこんな小さな質量で重力も大気も有ると言うことは何かのエネルギーが関与しているのは確かだが、これと言って特異な物が外界に見あたらないとするとガイラース自身が特異なフィールドを形成していることに成るが・・・・・』
シオンは考えられる限りの仮説を立てて見たがどれも想像の域を出ることは無かった。
二人を乗せた荷台を疲れた様子も無く引っ張り続けるポロルはゆっくりとザウの砂漠を進んでいく。
時折、ゆったりとした時間の中シオンがウトウトと眠気に襲われたが、それでもポロルはまるで帰る道を知っているかのようにゆっくりとだが着実にウタリの村を目指していた。
だがそんな眠気もトレーサーからの報告で吹き飛んだ。
《ポッドからの情報で前方1kmに生命反応を二つ関知しました。データーから人間と判断されます。》
「人間?映像は出せるか?」
《いいえ。現在その生命体は、岩陰に隠れている為直接の確認は出来ません。しかし一体の生命体は体温のデーターからかなり衰弱しているものと思われます。》
シオンは考えあぐねたが荷台で眠っているウナルを起こす事にした。
「爺さん起きてくれ。この先に倒れている人がいる様だが、どうする?」
「なんじゃ?こんな砂漠で倒れている者が居る?どこじゃ?」
「この先少し行った所の岩陰に二人居る。一人はかなり衰弱しているようだ。」
「お前さん、何でそこまで分かるんじゃ?・・・・まぁええ。これも何かの縁じゃ。」
シオンはその言葉に自分もウナルの穏やかで人柄の良い性格に命を助けられた事を思い出していた。
やがてシオンの誘導で二人を乗せた荷台は、トレーサーが示す岩陰へと辿り着いた。
「おーい!誰かいるか!儂等は怪しいものじゃない!困っているなら手を貸すがどうだ!」
ウナルがシオンの指さす岩に向かって大声で叫んだが、こちらを伺って居るのか返事は無かった。
「安心しろ!儂等はこの近くに住むウタリのもんじゃ!」
シオンとウナルの姿を確認したのか、岩陰から人影が姿を現した。
「助かる!旅の途中連れが熱を出して困っていたんだ。出来れば水を分けて貰えないか?」
「水だけで良いのか?良ければ儂等の村まで乗せていってもかまわんよ!」
「それは助かる!それじゃ今そちらへ行く、待っていてくれ。」
そう言うとその男は、岩陰に居たもう一人の男を担ぎ荷台に向かってきた。
シオンはその姿をみて少し驚きを覚えた。
はじめに出てきた男も鍛え抜かれた長身の体をしていたが、気を失い担がれているその男もかなり鍛え上げられた男・・・まるでギリシャ神話に出てくる戦士その者だったのである。
男は荷台にもう一人の男を寝かせると、見慣れない出で立ちをしているシオンを見つめた。
「すまん。俺の名はガオウ。それにこいつはガゼル、ある事情があって二人で旅をして居たんだが砂漠でワームに襲われ、ザクを失いどうやらこいつもワームの毒にやられたようなんだ。」
「ワームの毒?それは大変じゃ。村に行けば薬草も有るが今は持ち合わせておらん。様子から見て一刻も早く毒消しを飲ませんと・・・・・村まではどんなに急いでも4目はかかる。」
「いや、良いんだ・・・・これも運命・・・・」
倒れて寝ていたのかと思ったガゼルがたどたどしくも口を開いた。
「すまん。ガゼル・・・」
「お前が謝る事じゃない・・・それにこれは俺の戦士としての力の無さからきた事・・・・」
ガオウにはそれ以上何もガゼルにかける言葉が無かった・・・・・
そんな彼らを見ていたシオンは、シャトルから持ってきた携帯用医療パックを思い出し荷台を探していた。
「ちょっと良いか?俺が持っている薬の中に役立つものが有るかもしれない。俺に具合を見させてくれないか?」
「あぁ、それは構わないが・・・・」
シオンが取り出した医療パックを見てガオウは少しためらったが、一分の望みをかけてその場をシオンに空け渡し心配そうに見守っていた。
『トレーサー。彼の症状をスキャンして有効な対処法を頼む。』
《了解しました。》
じっとガゼルを見つめて何かをつぶやいているシオンを、ガオウとウナルは不思議そうに見守って居る。
《スキャン結果が出ました。サソリに良く似た毒素が検出されましたのでPH286のアンプルが有効かと思われます。》
『分かった。』
シオンはトレーサーが導き出したそのアンプルをパックから取り出し注射ガンに装填するとガゼルの頸動脈へ当てた。
「うっ・・・」
「心配するな、これは直接体の中に薬を入れる機械だ。」
「シオン、お前さんそんな事まで出来るんじゃな。」
「爺さん、これは俺の居た世界ではそんな不思議な事じゃないよ。道具さえ有れば誰にでも作れる。」
「シオンとか言ったが、お前は爺さんの息子じゃ無いのか?」
「あぁ、俺もあんた達とおなじでこのウナル爺さんに倒れていた所を助けられたんだ。」
「それで爺さんと違って変わった服を着ていたんだな。」
「変わった服・・・・あぁ、確かにこのガイラースじゃ見かけない服だろうな。これは俺が居た世界の服なんだ。」
「それじゃ、あんたはガイラースの人間じゃ無いのか!言い伝えでは聞いていたが本当に別の世界が有るんだな。」
「そう言うことだ。だからあんた達が見たこともないこういった物も持っているんだ。」
「オッ!薬が効いてきたようだな。良かった血の気が戻ってきた。」
薬で毒が中和され血の気を失っていたガゼルの体にうっすらと血の気が戻り、熱も下がって来たようだった。
《体温38℃、脈拍70、毒素は完全に中和されました。》
『分かった。』
「どうやら毒は消えた様だ。直に熱も下がるしもう心配無いぞ。」
「すまん。なんと礼を言ったらいいか・・・・」
「いや、良いんだ。困っているときはお互い様だから。」
「本当にすまん・・・この恩は命に代えても返させてもらう。」
「なに言ってんだ!せっかく助けた命を貰ったって俺はうれしく無いぜ。」
「ははっ・・・・それもそうだ・・・・」
ガゼルは毒が消えて楽になったのかそのまま眠りについた。
四人の男達を乗せ重たくなった荷台だったが、小柄なポロルは依然と気にしないかのように又ゆっくりとした足取りでウタリの村へと向かって行った。
「お前さん達、こんな辺境な土地まで何しに来たんじゃ?訳があるなら無理に話さなくても良いが」
「いや、別に隠すような事でも無い。俺達はある盗賊を追ってここまで来たんだ。」
「盗賊?」
「あぁ、ギルと言う奴が引き連れた6人を追っている。砂漠の北にあるムンカの街を襲ってこちらに逃げていったと聞いたんでな。」
「あんた達はその盗賊となにか訳ありなのか?」
「あぁ、奴らはガゼルの村を襲って村人を皆殺しにした、俺はガゼルとは昔、剣闘士仲間でな俺が剣闘士を抜けてからガゼルの村で世話になっていたんだ。しかし俺達が旅に出て久しぶりに戻ってみたら村は廃墟に成っていた。その後村を襲ったのがギルが頭をする盗賊団だと分かってそれから奴らを捜して旅をしていたんだが、やっと見つけたムンカの街で奴らと戦ったんだが、その戦いの中、ヤツらは手下を置いて姿をくらました。色々調べたら7刻ほど前にザウの砂漠を南に向かったと聞いて後を追ってきたんだ。」
「爺さん!村は大丈夫なのか?」
「心配する事もないさ。村にはこれと言って金目のものはなんもないからの。」
「いや!わからん!ヤツらはただの盗賊じゃない。人の命など何とも思わない連中なんだ。
遊びで村人を殺した事もある。」
「それじゃ・・・・」
「あぁ!急いだ方がいいな。」
その話を聞いてウナルはポロルに鞭を打ち込んで急がせた。
のんびり歩いていたポロルだったが突然の鞭で今まで見たこともない早さで必死に走り始めた。
『サーチ!この先の村をポッドで調べてくれ!』
《了解。》
シオンはデータが送られてくる短い時間が、あまりにも長い時間に思えていた。
『リン無事でいてくれ・・・・・・』
ちょうどその頃、村の入り口に近づく6人の人影がザクに跨り村の様子を伺っていた。
「頭。何かちっぽけな村ですぜ。大した金目の物もないみたいで。」
「わからんぜ。結構こういった小さな村ほど、村の宝って言うものを持ってるもんだ。」
「そういうもんかね。あたしには薄汚い村にしか見えないけど。それよりあたしは体を洗いたいよ、砂漠なんて走るから砂で頭までザラザラしていて気持ち悪いったらありゃしないよ。」
「俺は食い物が有ればそれで良いぜ。」
「ドムルは食い物さえ有ればどこでも良いからな。」
「へへへッ!ベアハッグの言うとおり!」
「うるせーなぁ、ギッツ!頭かち割られたいのか!」
「おー!怖!」
「俺は切り刻めりゃそれで良いぜ!」
「ザハーン!殺るのは良いけどよ。仲間まで襲うのはやめろよな!俺はお前のその爪で死にそうに成ったんだからな!」
「そういやぁ、その頭の傷ザハーンにやられたんだっけな。」
「おう!そうよ!滅茶苦茶痛かったんだからな!」
「だからあたしが縫ってやったじゃないの。」
「よく言うよ!姉御!革ひもで縫われちゃザハーンに切られた傷より痛かったんだぜ!」
「良いじゃん!前より男前に見えて。ハハハハハ」
「そうかな?へへへッ」
「馬鹿かおまえは。」
「ひでーなぁ、お頭。」
「それよりギッツ!村の中を見てこい!」
「へい!」
そう言うと小柄なギッツは素早い身のこなしで村の家々を調べ始めた。
「こんな村、堂々と入って行ったら良いじゃないの?どうせまともに戦える奴なんて居ないんだから。」
「用心に越したことは無いって!」
「あーあぁ、40人も居た盗賊の頭が今じゃ用心深くなっちゃってがっかりだよ。」
「うるせえなぁ、俺だってたった二人の剣闘士にやられるとは思って無かったんだよ!」
「あぁ、確かにあいつ等は強かったな。しかし仕方がないぜ。剣闘士一のガオウが相手じゃ、それにガゼルまで居たんじゃ百人居たって同じだったかもな。」
「絶対にこの借りは倍にして返してやるぜ!」
「どうやってあいつ等をやっつけるのさ?」
「わかんねーよ!だがなどんな手を使っても息の根とめてやる!」
そんな中、村の偵察をおわったのかギッツが戻ってきた。
「おぉ!帰ってきたか。でっ、どうだった?」
「お頭ー、この村は駄目ですぜ。大した金目の物もないし、ばばぁやじじいばかりで。」
「だから言ったじゃないの。こんな村堂々と入って言うこと聞かなきゃ殺っちゃえばいいのよ!」
「仕方ねぇ、食料と水だけでも手に入れるとするか。」
「お頭!だったら遊んで良いか?」
「あぁ、好きにしな。」
「へへへへっ!久しぶりに皆殺しにしてみるかな。」
「ありゃりゃーザハーンの目が血走ってるよ。」
今は六人になった盗賊達はまるでこれから楽しいゲームでも始まるかのような不気味な笑いを浮かべ村へと入って行った。
《データが送られてきました。村の近くにウマの様な物に乗った六人を捉えました。》
「なんだって!」
「どうした?シオン。」
「爺さん!盗賊と思える六人が村に向かってる!」
「どうしたら良いんだぁ!」
「シオン、焦っても仕方がない・・・・みんな無事で居てくれる事だけを祈るしか儂等には・・・」
そうは言っては見たが、ウナルも心の動揺を隠せなかった。
『俺達が行くまで無事でいてくれ・・・・』
シオンは唇をかんで焦る気持ちを我慢しようとしたが、益々膨らんでくる不安が体中を駆けめぐって居た・・・・
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■『志音(SHION)』【小説】 |
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シオン編 Next 02....
「あぁ、ザウの砂漠には薬になる薬草や小動物がいるからな。村で必要な時だけ取りに出かける事も有るんじゃ。」
「村にも畑が有ったけど、そこで栽培するとか動物を飼うとかした方が良いと俺には思うんだけど何故そうしないんだ?」
「確かに儂等の先祖もそう思ってやっては見たが、このガイラースの大地ではそこでしか育たないんじゃ、儂等はこのガイラースにはそれぞれの土地に住む精霊がおってその精霊の加護で生かされておると思っているんじゃよ。」
「精霊かぁ、俺には分からないけど、多分何かの力がそれぞれの大地を構成している物質の核になっていると・・・・爺さんには分からないかぁ。」
「難しい事はわからんが、言い伝えでは神がこのガイラースをお造りになった時はじめからその地に住む者達を決めており、その者達が暮らすために必要な物を精霊が与えてくれると言われておるよ。」
「じゃ、他の土地に行ったりはしないのか?」
「いや、それなりの交易は有るし、旅をしながら暮らす人々もちゃんとおる。だが何故か同じ祖先を持つ者は知らず知らずのうちに精霊に導かれそれぞれの土地に集まる様に成っておる。」
「爺さんはこのガイラースには色んな種族が暮らしていると言っていたが、多くの種族が居れば戦いも有るんだろうな。」
「あぁ、儂等が住むウタリの村はガイラースでも田舎じゃから、大きな戦いは起きないがこのガイラースには戦いが絶えないと良く聞くよ。こんな世界に住むんじゃから少しでも良い暮らしをしたいと言うのは分かるがそれが異種族で有るが為に、激しい戦が絶えないらしい。愚かなものじゃて。」
シオンはウナルの話がまるで空想の様に実感がもてなかった。
何故なら、確かに空は一日中夕暮れの様に薄暗く太陽も月も無いが、大地はそれ程自分が良く知る地球と変わらないしウナルの様な人々は地球にも居た。
自然と共に暮らすと言う意味ではシオンが知るその人達よりもずっと人間らしく暮らしている様にしか思えなかったのである。
「実はな、儂の息子夫婦も戦に敗れこの地に逃れてきた者達がウタリの村を襲ったとき戦いに巻き込まれて死んだんじゃ。元々儂等ウタリは戦いを好まんし人を殺める事を何より嫌ってこの地に住み着いた様なもんじゃから、たった3人の荒くれ者に村の若い者が何人も殺されたんじゃ。たとえどんな相手でも武器を持たねば命までは取られんかったものを・・・・」
ウナルは淡々と話して聞かせてくれていたが、その目にうっすらと涙が浮かんでいる様にシオンには思えた。
「シオン、少し休んだ方がええ。まだまだ先は長いからの。それに怪我が治ったと言っても傷が癒えたばかりの体力では少しきつい道行きじゃからの。」
「あぁ、そうさせてもらうよ。」
そう言ってシオンは藁を敷き詰めた荷台と言っても少々体に応える振動を我慢しながらも怪我の後遺症かまだ重く感じる体を横にして浅い眠りについた。
どのくらい眠っていたのか分からないがシオンは体の痛さに絶えかねて起きあがった。
「起きたか。よく眠っておったようじゃが。」
そう言って笑うウナルにシオンは痛む体をさすりながら苦笑いをしていた。
「どのくらい眠っていたんだ?」
「六目くらいかの。そろそろザウの砂漠が見える頃じゃよ。」
「そんなに眠っていたのか・・・・」
「着くまで寝かせておこうと思ったがどうやらシオンには荷台で寝るのはあわん様じゃな。」
確かにシオンは自分にはこういった乗り物は合わないと正直思っていた。
宇宙船やステーションで生きてきた自分にとってあまりにも原始的な乗り物であり体がガイラースに住むにはあまりにも非力な事を思い知らされていた。
「おっ、ザウの砂漠が見えるぞ。あれがザウの砂漠じゃ。」
ウナルが指さす方を見ると、そこには赤っぽい砂だけが広がっている大地がシオンの目に写ってきた。
「あれがザウの砂漠か、自分が思っていた砂漠より意外となだらかな荒野にみえるが・・・」
「確かにザウは砂漠と言うより荒野に近い。だから草も所々に生えておるし動物も暮らしている元々ザウとは、”生きている”と言う意味じゃからな。」
「ガイラースの砂漠はみんなこんな感じなのか?」
「いや、雨が全く降らない砂漠も有るし、大地の熱で灼熱と化している砂漠も有ると旅人から聞いておるよ。ガイラースでは大地の熱がその土地の気候を左右して居るんじゃ。」
「それも精霊が?」
「そう言う事じゃな。」
顔を見合わせて笑う、まるで親子のような二人を乗せた荷台は、ゆっくりとザウの砂漠を進んでいく。
やがて彼らの視界に小高く盛り上がった砂の山に白っぽい金属の様な物が埋まっているのが遠目に見えてきた。
「あれが・・・・・」
「そうじゃ。あそこでお前さんを見つけたんじゃよ。」
シオンは荷台の中で黙ってシャトルが埋まっている小高い砂山を見つめていた。
『どうやらコンテナやエンジン部分は無くなっているようだ。エネルギーサンプルの爆発か何かで吹き飛んだと言うことなのか・・・・』
砂山に到着するとシオンはすかさず荷台から降りてシャトルに覆いかかる砂を除け始めた。
「時間がかかりそうだから儂はしばらくその辺の薬草でも採ってくるよ。半刻ほどで戻って来るからの。」
「ありがとう。爺さん。」
ウナルは疲れた様子もなく又ゆっくりと砂山を後にした。
「それにしても良くこの状態で着陸出来たものだな。砂とは言え大気圏突入ならほとんど焼けこげてひとたまりも無いはずだが・・・・」
シオンがシャトルに覆い被さる砂を除けると、焼けこげた気配すら無いシャトルの先端部分がそこには有った。
だが後部を覗くと操縦室のドアから後部がまるで刃物で切ったような外壁と内壁の断面を露わになった。
「この断面を見ると切り取られたと言うより無くなったとしか思えないほど傷も無ければ熔けた形跡もない・・・・やっぱりあの時の空間の歪みが原因なのか・・・・」
シオンは科学者らしく周囲をこまめにチェックしていた。
工学的な知識を専門としているからこそ導かれる答えだが、どうしても説明が付かないものもある。
シオンがシャトルが滑走したと思われる砂の後を調べると5メートルほどの削られた後が残っては居たが、たとえ操縦席だけとは言えこれだけの質量を持つシャトルが5メートルと言うあまりにも短い滑走だけで止まるだろうか?それが不思議でしようが無かった。
『風や砂嵐で消えたようにも見えない・・・・あの時の速度は確か時速2000キロ以上は有ったはず、それだけの速度で墜落すれば粉々に成るのが普通だが・・・・・
どうやらこのガイラースが有る空間は通常の空間では無いと言うことか・・・・・・』
いくら考えても答えが見つからず、シオンは半開きに成っている操縦席の扉から中へと入っていく。
操縦席の窓からかすかに光が入っているがそれでも薄暗くシオンの目がその明るさに慣れるにはしばらくの時間がかかった。
明るさに慣れてきたシオンの目に映る操縦席は、確かに有る程度の衝撃で散乱しているがそれ程破損した様子もなく、最後に覚えている操縦席の状態とあまり変わっては居なかった。
『確かウナル爺さんの話では、扉のすぐ近くで俺は気を失っていたと聞いたが・・・』
倒れていたと思われるその場所にはシオンが付けていたトレーサーが落ちていた。
『ひょっとしてトレーサーに何か情報でも残っているかもしれない・・・・』
シオンはトレーサーの破損状況を調べたが別段異常は見あたらない。
トレーサーを装着しスイッチを入れるとシオンはトレーサーのシステムチェックとデーターの検索を始める。
「サーチ。地球周回軌道突入時からシステム停止までのデータをグラフ表示。」
トレーサーはシオンの声に反応し蓄えられているデーターを表示し始めた。
『北緯41度46分、東経140度40分・・・これが最終データか。北海道の函館の上空でトレーサーが止まったと言うことに成るな。しかしその時の速度は2754キロ・・待てよその時点でのセンサー数値が急激に上昇しているのはやはりサンプルの影響か・・・』
「サーチ。現在ののユリカ・セツナ及びレイ・ナゼルの座標及び身体データを表示。」
《同時刻、同座標時より一切のデータ送受信なし。トレーサーの故障または装着員によるシステム停止と判断します。その時点での身体データーは緊急回避を要請する音声データが残って居ます。》
『どうやらあの時を最後に違う空間に飛ばされたか、二人は消滅した・・・・・・』
シオンは二人の消息を完全に失った事に落胆する気持ちをグッと押さえ込み尚も検索を続けた。
「推測。最終データ時のセンサー数値で判断しシャトルの状況を判断せよ。」
《センサーの数値から予想される状況は後部シャトル並びにエネルギーサンプル用コンテナの消失、並びにその原因については推測不能と判断します。》
「爆発による消失とは考えられないか?」
《爆発による消失のデータパターンとは、明らかに相違が見受けられます。現在残るデータからはこの原因について推測は不可能です。メインコンピュータでも不能と判断されました。》
「なに!?メインが生きているのか?」
《バックアップシステムが作動していますが、パワー残量が10パーセントを下回っていますのでトレーサーからのアクセスのみメインからのデータを利用できます。》
「分かった。それでは引き続きサーチ。今現在このシャトルに残る装備の状況を表示。」
《検索中・・・・・》
《現在使用可能な装備は、携帯用医療パック3,緊急用サテライトポッド1,マルチ機動ユニット、クロム及びブルーム、船外作業用パイロットスーツ3以上が現在使用可能な装備です。但しマルチ機動ユニット・クロムは船外作業中の衝撃で機能の50パーセントダウン、ブルームは、システムがダウンしている為、再起動の必要が有ります。復旧修理が可能な装備は現在メインコンピュータがパワー不足の為検索出来ません。》
「了解した。」
『ブルームが無事だっただけでも俺には助かるな。しかしエネルギーの補充が出来なければ装備が残っていても使えないと言うことか・・・・』
「推測。現在利用可能なエネルギー補充法を推測。」
《推測中・・・・緊急用サテライトポッドの太陽電池パネルによる補充が考えられますがその為にはエネルギー充填用の受信アンテナを必要とします。その他の方法はデータ不足の為、推測不能です。》
「そうか・・・・ではブルームの再起動は出来るか?」
《再起動には、現在残っているエネルギーの95パーセントを使用する事に成りメインコンピュータを一時停止する必要が有りますが構いませんか?》
「あぁ、再起動後メインはバックアップを取り停止してくれ。」
《了解しました。それではマルチ機動ユニット・ブルームの再起動を開始します。》
すぐにトレーサーからメインコンピュータへの指令でブルームの再起動作業が始まった。
《ブーーン・・・・》
《再起動終了。メインコンピュータを一時停止します。》
「了解。ではブルームに指令。シャトルの残骸及び部品を使いサテライトポッドからのエネルギー受信用アンテナの制作を開始。終了後クロムを収容し補修修理を開始。」
《了解しました。》
そう言うとブルームは、シャトルに残る部品を流用して受信アンテナの制作に入った。
『これで何とかなりそうだな。メインコンピュータさえ復活できれば、シャトル自体の修復の可能性もある・・・・それじゃこのガイラースの情報を集めるか。』
「トレーサー、サテライトポッド放出後、周囲の状況並びにトレースを開始。」
《了解しました。サテライトポッドを発射します。》
シオンの指示に従いサテライトポッドがガイラースの上空めがけ発射された。
《只今、サテライトポッド上空500km迄上昇、2000km到達度データのトレースを開始します。》
ポッドは徐々にブースターの力で2000km上空を目指し上昇していく。
しぱらくして2000メートル上空に達したポッドは太陽電池パネルを展開しデータを集めだした。
『しまった!』シオンはポッドが宇宙空間用であり空中ではブースターの燃料がそれ程の時間、空中に止まっていられない事に気がつき舌打ちした。
「トレーサー!ポッドの燃料はどうなっている?」
《ポッドの燃料残量は0です。しかしこの地域の上空には重力の影響が無く一定座標に固定されて居ます。》
「そうか!良かった・・・・・」
『どうやらガイラースの謎が掴めそうだ。幸運というべきか・・・・』
自分の失態で大事な情報源と成るポッドを失ったかと思ったがガイラースの自然に助けられたとシオンは思っていた。
《サテライトポッドからデータ受信。現在ポッドは2000kmの上空に位置し、大気及び重力を関知できず。尚地上を捉えたカメラからの映像を受信中。この惑星の外周部をセンサーで探索した結果、現在シャトルが着陸している大地は直径1850kmの円球に大気が組成され、その中に平面上の地殻が存在。尚大気の形成に及ぼしているエネルギー反応は関知されません。1850km以上上空では、大気並びに気体物質は無く宇宙空間と酷似している模様。さらにポッドが制止する座標からは恒星、惑星の観測は不能。外部並びに地殻からの電波は受信されず。但し電離層が検出された為、エネルギーの補充は電離層から直接補充が可能現在、ポッドの静電反応からエネルギーの採取を開始。》
「やはりこのガイラースは特殊な空間に存在していると言うことか。」
《ガイラース・・・ガイラースとはこの惑星の事ですか?》
「あぁ、そうらしい」
《ガイラースと言う地名及び惑星はデータには存在しませんが。》
「分かって居る。ここは未知の空間だ、データに無くて当然だ。」
《理解不能ですが、データの採取を続行します。》
「ポッドから送られてきたガイラースの映像を見せてくれ。」
《了解しました。3次元処理を行った映像を表示します。》
トレーサーが映し出したガイラースの3次元映像はまるで球体の中に浮かぶ浮遊大陸の様に写っていた。
「これがガイラースか、まるで空中に浮かぶシャボン玉の様だな・・・・・・そう言えばそろそろウナル爺さんが戻って来る頃だな。」
「プログラム。最優先事項。クロム及びブルームの修復後、エネルギーの補充並びにシャトルのシステム復旧を指示。」
《プログラム設定。クロム及びブルームによるシステム復旧とエネルギー確保を最優先事項とします。尚プログラム完了まで893日を要します。》
「2年半かぁ、かなりの時間自力で生きなければ成らないと言う事か了解した。」
シオンはトレーサーからの回答を聞き携帯用医療パックとトレーサーを持ちシャトルを後にした。
しばらくして約束の時間通りにウナルが薬草を積んで戻ってきた。
「シオン、もう用事は済んだのか?」
「あぁ、とりあえずここはもう良いよ。リンが心配するといけないからそろそろ村へ帰ろう。」
「そうじゃな。村へ帰るとするか。」
ウナルはシオンが村へ帰ると言ってくれた事をうれしそうに笑った。
『しばらくの間、あの村でみんなと一緒に暮らすのも悪く無いなぁ。』
シオンは優しい人々が待つウタリの村が何故か恋しく感じていた。
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■『志音(SHION)』【小説】 |
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シオン編01....
暗い闇の中を彷徨い何かを探し続けている自分が何者なのか目覚めたばかりの彼には何一つ分からなかった。
ボーッとする意識の中、今自分は何をしているのか、自分はどこに居るのかそれ以上に自分が生きているのか、死んでいるのかさえ彼には理解できなかった。
かすかに感じる光の中で考えていた。
《どうしたんだろう?俺は何をして居るんだろう?》
「爺ちゃん!この人動いたよ!」
《誰だ?誰かの声が聞こえる・・・・》
何かを考えようとする意識を何かが阻むように遠のく意識の中、彼はあまりにも無防備だった。
《俺は・・・》
彼はまた深い眠りに意識を飲み込まれていく。
どのくらい寝ていたんだろう?
彼は暗闇から逃れるように深い意識の中から抜け出そうとしていた。
瞼に光が当たっているのか彼はまぶしさを感じながら重たい瞼を開こうとしたがまるで鉛のように重たく閉ざされたまま動かせなかった。
《俺はどうしたんだ?俺の体はどうなって居るんだ?》
彼は自分のものであるはずの体を動かそうとしたが、やはり動かなかった。
「あっ!とうさま!またこの人動いたよ。」
《またあの声だ。俺のすぐそばで誰かが・・・・》
「リン。静かに寝かせて置きなさい。」
「だって?!この人七刻も眠ったままだよ。」
「仕方なかろう。こんだけの怪我をしてるんじゃから。生きているのが不思議なくらいじゃ」
《怪我?俺の事か?》
彼は未だもやの中に居るような意識の中、自分に何が起きているのか必死に考えていた。
《俺は何でここに居るんだ?・・・・》
だが彼には答えを出すことは出来なかった、それよりもそんな意識の中、何か大切な物を探していたようなそんな思いだけがこみ上げてくるのを感じていた。
《なんだ・・・この気持ちは?俺は何か大切な物・・・いや、誰かを捜して居た様な・・》
こみ上げてくるこの思いは彼に耐えきれないほどの悲しさ、苦しいほどの切なさを与えていた。
耐えきれないほどの衝動が彼の瞳に涙をにじませる。
「この人泣いてる・・・痛くて泣いてるのかな?」
「いや、何か辛いことでも有ったんだろう。それを思って泣いてるのかもな。」
その言葉に彼の心はさらに深い悲しみに堕ちていった。
「大丈夫だよ。リンがここにいるからね。」
彼はその言葉に深い悲しみが薄れていくのを感じ声の方へゆっくりと瞼を開こうとする。
あれほど重たく感じていた瞼も今は自然と開いていく。
彼のぼやけた目の前に小さな女の子と年老いた男がにこやかに彼の顔をのぞき込んでいる。
「あっ!目が覚めた!爺ちゃん!目が覚めたよ!」
「おぉ!目が覚めたか!これでもう大丈夫じゃ!」
「あっぁぁ・・・」
「無理しちゃいかん!無理して話そうとしても今は無理じゃ、お前さんは大けがをしてここに運ばれたんじゃから。もう少しゆっくり眠った方がいい。」
彼は必死に声を出そうとしたが、思うように言葉にならなかった。
「心配せんでも良いぞ。ここはわしの家じゃ、なにも心配せんでゆっくり体を治したらええ。」
「そうだよ。リンも側に居てあげるから寂しくないよ。」
ぼやけた視界の中ににっこりと微笑むあどけないその笑顔に彼は安らぎを覚えゆっくりとまた深い眠りの中に堕ちていった。
「シオン!起きた?朝ご飯だよ!」
シオンは無邪気な声で彼の名前を呼ぶこの少女がまるで自分の母親にでもなったかのような錯覚を覚えていた。
「リン、大丈夫だよ、もう一人で・・・」
「なに言ってるの!シオンはまだケガ人なんだから一人じゃ無理でしょ!」
そう言うとリンはシオンの上半身を起こそうと一生懸命で、そんなリンを見てシオンは気持ちが軽くなっていくのを実感していた。
「リンにはかなわないなぁ?」
「これ!シオンが困ってるぞ。」
「良いの!シオンのお世話はリンのお仕事なんだから!」
「良いんですよ、リンとウナルベさんは命の恩人ですから。」
「爺さんで良いよ。わしも息子の様に呼び捨てにしておるんじゃから。」
「息子さんはどうしたんですか?見かけないようですが」
「あぁ・・・」
「とうさまは神様と一緒に天国で狩りに行って居るんだよ!」
「神様と・・・・」
「うん!ねっ!爺ちゃん!」
「あぁ、そうじゃな。」
そう言って無邪気に笑うリンの笑顔の側でウナルベは暗い顔を押し隠そうとしていた。
《そう言うことか・・・・・・》
意識を取り戻したシオンは、彼がザウと言う砂漠で何かの乗り物の中で倒れているのをこの家の老人、ウナルが通りがかりこの家に運んでくれ、ケガの手当をしてくれたことそしてこの地がガイラースと言う名で有ることを教えられた。
ウナルの話では時折、異国の服を着た旅人がこのガイラースにニッネカムィと言ういたずらな神様に連れてこられるという伝説があり、このガイラースに住む者はその人々の子孫だと言う。
さらにウナル達ウタリの一族の祖先は大和の北の大地に住む民族で大和の民に追われて神の穴を通ってこの地へ逃れて来たのだと、そしてウタリの言い伝えではこのガイラースは世界を旅する神の通り道なのだと話してくれた。
シオンには全く理解できなかったが、歴史で習った昔の日本が大和と呼ばれていた事と神の事をカムィと呼ぶ、アイヌ民族が日本の北に住んでいた事をうろ覚えながら覚えておりその民族の子孫ではないかと推測していた。
だがシオンが「今は何年ですか?」とウナルに聞いた時、ウナルには分からなかった。
このガイラースは刻が止まった世界であり、太陽も無く月も無い神の光に覆われその恵みでガイラースの人々は生きていけるのだと言う話だった。
シオンには太陽が無いなどと信じられないことだったが、夜もなく昼もなくただ夕暮れの様な明るさが一日中続いて居ることだけは、家の外から漏れてくる光をみて信じる以外に無かった。
やがてシオンは、リンやウナルの手厚い看護のお陰で起き上がれるだけの体力をつけ片足だが立てるまでに回復していた。
倒れていた時は息はしていたが今にも死にそうで体中を強く打ち付けた様な打撲がひどく昏睡状態が続いたのだそうだ。
シオンは「墜落のショックで打撲を負ったんだろう。」と考えていたが、たとえ最新のシャトルと言えど大気圏突入に耐えうるだけの性能は無い事もシオンには分かっていた。
理解に苦しむ事ばかりだが、今の自分にはそれを調べるだけの力も知識も無いことが一番辛かった。
やがてシオンは傷が癒え、一人でも出歩けるまでに回復したが、相変わらずリンが側を離れず、まるで「リンが居ないとシオンは何にも出来ないんだから!」と言いたそうに世話を焼いていた。
外へ出たシオンはウナルから聞いていたとおり、空には太陽が無く、一日中夕方の様に薄暗く夜も全く訪れる気配すら見あたらなかった。
《本当に太陽も月も無いんだな・・・これでは時間が止まって居るように思えるのも仕方がないかもしれない。だけどここは本当に地球じゃ無いのか?どう見ても地球の大地にしか思えない・・・・シャトルへ行けば何か分かるかもしれないが・・・》
「どうしたのシオン?どこか痛む?」
ふっと我に返るとリンが考え込んでいたシオンの顔を心配そうにのぞき込んでいた。
「いや、何でも無いよ。ちょっと考えて居ただけだよ。ごめん、心配かけて。」
「ならいいんだ!」
そう言ってまた無邪気な笑顔で微笑んでいる。そんなリンの笑顔をみてシオンは子供の頃、シオンの後を楽しそうに付いてくるユリカの姿を思い出していた。
《ユリカ・・・・・・・》
「シオン!また悲しいこと思い出しちゃったの?」
「あっ!ごめん何でも無いよ。」
「リンがずっと一緒に居てあげるから大丈夫!寂しく無いでしょう?」
「うん。寂しくないよ。リンが居てくれれば。」
シオンにはこのリンの笑顔が何よりの救いだった。
「あらっ!リンちゃん!シオンとお出かけかい!?」
「うん!シオンにお外を案内してるの!」
「へぇ?リンちゃんは偉いね?」
「シオンも大分良くなった様だね。良かった良かった。」
「みなさんのお陰です。」
「良いんだよ。助け合うのは当たり前のことさね。」
そう言ってしわくちゃな笑顔でキナと呼ばれる初老の女性が洗濯物を干しながら二人を見送っていた。
《この村の人たちは本当に親切な人たちばかりだな。やっぱり民族性なのか・・・》
シオンがこの村に担ぎ込まれてから色んな人たちがシオンの為に薬草や食べ物などを気軽に分けてくれていた。
よそ者のシオンを敬遠するどころか、自分たちの家族の一員でも有るかのように気さくに接してくれている。
そんな村人達をシオンは心から感謝と共に親密感さえ持っていた。
《いつか自分にも恩返しが出来れば・・・・・》
そう心で感謝するシオンはこの村で安らぎの時をそしてなによりもかけがえのない人々を得たような平穏な日々を過ごしていた。
そんなある日・・・・・・。
「ウナル爺さん、ケガも大分良くなったのでそろそろ自分が倒れていた所を調べて見ようと思うんだけど。」
「そうか・・・そうだな。あそこへ行けばシオンが探してる人の手がかりが見つかるかも知れんし。明日にでも行ってみるか。」
「わがまま言ってすいません。」
「なに?気にする事じゃない。いつかは・・・・・分かって居たことだし・・・」
「シオン!どっか行っちゃうの?やだよ?リン!」
「違うよ!ちょっと調べものするだけだよ。すぐに戻ってくるって!」
「ほんと?」
「あぁ、約束する!すぐに帰るって。」
泣きそうになるリンの顔を見てシオンははっきりとは言えなかった。
シャトルの状態によってはこの先どうなるのか分からないで居る自分が・・・・・
《リン、爺さんごめんよ。分かって居るんだけどこのままじゃ・・・・》
ウナルとシオンはじっと黙ったままだったが、お互い気持ちは分かり合っていた。
それ程までにシオンはこのウナルの家族の一員の様になりこの村の一人となっていたのだ。
翌朝、ウナルとシオンは軽く身支度を済ませ、ポロルと呼ばれるロバに良く似た小型の動物に荷台をくくりつけウナルは言葉少なに準備を整えている。
「少し遠出になるが、まぁ1刻も有れば着けるじゃろ。」
「ウナル爺さん、ちょっと変なこと聞いても良いかな?」
「なんじゃ、改まって。遠慮せんで何でも聞いたらええ。」
シオンは何となくは分かって居た事だが、科学者でもある自分がずっと不思議に思っていた事を少し恥ずかしそうに口に出した。
「ずっと不思議に思っていた事なんだけど、刻って言うのは一日と言うか・・・分かるんだけど、太陽も月も無いこのガイアースでどうやって時間を知るんだ?」
「そう言うことか。わしは太陽とか月は昔話でしか聞いたことは無いが、その長さがどのくらいなのかは話に聞いて知っておるよ。生き物は元々自然から時の長さを知るすべを持っておるお前さんだって腹が空けば食いたくも成るし疲れたら寝るじゃろ。その一回りが刻と言っておるだけじゃよ。」
「そうか。このガイアースにも動物も居れば植物も居る、その鳴き声や移り変わりで時を知るって事なんだ。」
「そうじゃ、生きとし生けるもの皆大地と共に生きて居る以上、自然と分かるようになる。」
「何となく分かった様な気がするよ。」
『同じ星に生まれた物で有れば、体内時計の働きも同じと言うことか。』
シオンは自分がいかに文明という物に毒されて来たのか知った様な気がしていた。
「ウナルじいさん、俺にも分かるように成るかな?」
「あぁ、お前さんも儂等と同じ星の子供じゃから分かるようになるさ。」
そう言ってウナル爺さんはしわくちゃな顔を綻ばせて笑っていた。
「じゃ、りん、ちょっと行って来るがその間家の事は任せたぞ。」
「うん、爺ちゃん達も気をつけてね。」
リンは明るく笑って見せたが、シオンには子供ながらに無理をして寂しい気持ちを押し隠して自分たちを送り出そうとしている事が痛いほど分かって居た。
「じゃ、行って来る。」
「うん・・・」
二人は後ろ髪を引かれる思いで一人見送るリンの姿を後にした。
『シオン、爺ちゃん、無事に帰ってくるよね・・・・』
リンにはこれが最後の別れの様な気がしていた。
ウナルとシオンは、ポロルに引かれた荷台に揺られ、ゆっくりとシオンが倒れていたザウの砂漠をめがけ無限とも思える広大なガイラースの大地を進んでいく。
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「了解した。システムをリンクに設定する。」
ドッキングプログラムとは、宇宙時代の本格的運用が始まってステーションやコロニーなどへのシャトル自動誘導システムである。
宇宙船の減速や姿勢制御、ドッキングなど全ての作業を人の手では無くステーションなどに装備されているコンピュータによって全自動化されパイロットはその難しい作業から解放される。
『プログラム起動を確認しました。それではドッキング完了までごゆっくりどうぞ、少佐。』
「ありがとうエジェル。」
シャトルのシステムをステーションへ委ねた事によって全てのオペレーションを終了した事を三人は実感していた。
「それにしても今回の6ヶ月間は長いようで短い任務だったよな。これで又3人バラバラになると思うと少し寂しいよ。」
「そうだな。シオンが火星支部に配属されてからあまり三人で会う事も無かったし、それぞれの任務に又戻るのかと思うと少し残念な気分だよ。」
「お前達二人は邪魔な俺が居なくなって良かったんじゃないか?」
「兄さんたら・・・・・」
オペレーションの終了が兄とのしばらくの別れで有ることを思うと、今のユリカにはそんな兄の意地悪も何となくうれしい気持ちになれた。
「そうだ!シオン!このオペレーションが終わったらしばらくは休暇が貰えるんだろ?だったら3人でどこか旅行にでも行かないか?」
「そうだな・・・・3人で旅行も良いけど今回はパスするよ。二人でゆっくりしたいだろうから。」
「なんだよ!パスって!シオン!なんか予定でも有るのか?」
「レイ、兄さんは地球で待ってる人が居るからそんな時間ないって!」
「待っている人?」
ユリカのその言葉にレイは理解できなかった。
「待っている人ってどういうことだよ!シオン!俺に報告もなしに誰と付き合ってるんだ!」
「なに言ってるんだよ!メッセージお前にちゃんと送っただろう!」
「何の事だよ!?受け取ってないぜ。」
「えっ?・・・・このオペレーションの前、お前の所にちゃんとメッセージ送ったぞ。」
「このオペレーションの前・・・って!それじゃ俺はアステロイドで飛行訓練受けていたぜ。」
「そうか!じゃ!メッセージ見られる訳ないか。道理でおかしいと思ったんだよ。この六ヶ月間お前がエレシアーヌの事に一つも触れないから。何だそう言うことだったのか。」
「なんだよ!エレシアーヌって・・・・・あっ!エレシアーヌってあの子か!?アカデミー時代に知り合ったあの女の子・・・待てよ!あの子ってまだ子供じゃ・・・」
「おいおい!いつの話してるんだよ。エレシアーヌはもう20歳だぜ!」
「あぁ・・そうだよな。俺はあの頃のエレシアーヌしか知らないから・・・と言うよりいつの間にそう言う関係になったんだ!シオン!」
レイは自分の知らない所で無二の親友に恋人が出来ていた事に少し寂しい気分を感じていた。
「改まって話すのもなんか照れくさいけど・・・まぁいいや!ちゃんと話すよ。」
シオンは今更と言う感じで照れくさそうに話し始める。
そんな兄の姿を見るユリカは微笑ましく思えた。
「そうだな?どこから話そうか・・・・・
え?と去年の創立記念祭パーティーが地球で開かれたの知ってるよな。その時俺は火星支部の代表メンバーに選ばれて式典に出ていたんだ。その時エレシアーヌの兄、ラスターが地球圏統合政府の外交書記官として式典に参加していたんだよ。その時エレシアーヌも一緒に来ていて、俺は全く気が付かなかったんだけどエレシアーヌの方から声をかけられ、実際驚いたよ。あのおチビさんがまるで別人の様に綺麗な令嬢姿だったんでな。
それから連絡し合う様になって・・・・レイにも何度か知らせよと思ったんだけどお前その頃から任務でステーションに居なかっただろう?だからなんか隠し事してる様でそれでオペレーション前に話しておかないとなに言われるか分からないと思ってメッセージ送って置いたんだ。」
「そうか?、あのエレシアーヌがね・・・・」
「ユリカは知っていたんだろ?だったら定時連絡の時でも一言言ってくれれば・・・・」
「だって!兄さんとレイの事だからとっくに話しているだろうなと思って何も言わなかったのよ。それに何!レイはエレシアーヌの事がそんなに気になる訳?」
「いっいや!そんな事はないよ・・・・ただ・・・・」
「ただ何!!」
ユリカの怒った顔を見てレイはこれ以上何も言えなくなっていた。
そんな三人のたわいない時間をあざ笑うかのように突然、緊急アラームがシャトルに鳴り響いた!
《警告!警告!レベル9の太陽フレアが発生!クルーは直ちに緊急避難プログラムに従いコアブロックへ待避!警告!警告!レベル9の・・・・・・・》
突然の緊急アラームに三人は一瞬で現実の時の流れに戻されていた。
「レベル9の太陽フレアかぁ・・・・かなり大きいな。」
「ステーション!これより緊急待避プログラムに沿いコアブロックへと移動する。よってシャトルの全システムのコントロールをそちらでお願いする。」
『了解しました、少佐。これよりシステムをフルリンクに変更します。』
「レベル9と言えばかなりの放射線が襲ってくるわ。サンプルに影響が出なければ良いけど・・・」
「今はそれを考えても俺達にはどうしようもない。」
「そうだけど・・・・・」
頭の中に不安が大きく膨らんでくるのがユリカは感じていたが、今の状況では何も出来ない事も自分自身分かっていた。
三人は太陽フレアの放射線を避けるため、隔壁に守られたコアブロックへと急いで待避する。
巨大な宇宙ステーションなどでは構造自体が人体に有害な宇宙線や放射線から身を守る様になって居るがシャトルや宇宙船では船体自体で完全に防ぐ事が設計上無理な為、こういった非常時に備え専用の隔壁に覆われた避難ブロックを装備している。
避難ブロックを持たない戦闘機や小型の宇宙船では巨大な物体の影に避難するか隕石などの影に隠れ有害な放射線から身を守る必要がこの宇宙では必要不可欠な物であった。
《放射線レベルが許容範囲に戻ったため太陽フレアによる警報を解除します。繰り返します。・・・・》
3分程度の緊迫した時間が過ぎ去ろうとした時、放射線レベルが許容値まで下がったのをセンサーが関知し警告解除のアラームが三人のクルー達に新たな任務の時を伝えた。
「こちらシャトルJ9-1203、これよりシャトル及びエネルギーサンプルコンテナの点検に入ります。それに伴い今後の連絡はトレーサーによって行いますので回路をあけてください。」
『こちらステーションSUG-09。了解しました。メインコントロールへのアクセスをフルオートにします。』
「了解!」
三人は緊急マニュアル通り、レイはシャトルのダメージチェック、シオンは放射線によるシャトル及びコンテナのシステムチェック、ユリカはエネルギーサンプルの制御装置のチェックへとそれぞれ分かれていった。
「こちらユリカ、現在エネルギーサンプルのセンサーをチェック中、熱量異常なし、放射線レベル 0,5パーセント上昇特に問題なし、固定用磁場レベル1,3パーセントダウン、複合センサー・・・?!
複合センサーに異常数値!クオークの大量発生を関知!今現在2500!尚も上昇中!・・・・・
原因は太陽フレアからの膨大な放射線と推測されるが・・・・・分からないわ!熱量、放射線、中性子とも他のセンサーには異常が無いのにクオークだけが発生している・・・・」
「ユリカ!落ち着け!今シャトルのセンサーも確認する。センサーの故障とも考えられるからな。」
「こちらレイ、シャトルの船体には特に異常はない。右舷ブースターへの燃料供給ポンプに一時不安定な現象が見られたが今は通常に戻っている。これより船体チェックを終了しこのままエネルギーサンプル格納コンテナに向かう。」
「了解した。レイ。こちらはクロムにより船体外部の点検作業に入る。サンプルの制御は二人で頼む。それとユリカ!こちらでもクオークを関知した。それによりセンサーの異常では無く確かにクオークのみが大量発生していると確認できた。現在7500尚も上昇・・・・・・こっ!これじゃまるで恒星みたいじゃないか・・・・・」
シオンは自分の目を疑い何度もモニターの数値を確認していた。
「こちらユリカ!今固定用磁場のレベルを上げて見たけど効果は無いわ。凄い勢いでレベルが上昇していく・・・・どうしたら良いと思う?兄さん!」
「そうだな・・・・出来る限り木星大気にフィールドを近づけて見たらどうだ?」
「そうね!それじゃ木星大気組成データを元に再構成してみるわ。これで治まれば良いけど・・・」
「とにかく未知の物質である以上あらゆる手段を試してみる以外方法が無い。
それにクオークの発生メカニズム自体我々には全く分からないんだ。」
「こちらレイ。今コンテナに着いた。これより二人でフィールドの再構築を行う。
シオン!シャトルのセンサーをフル稼働してモニタリングを頼む!」
「了解した。何とかしてレベルの上昇だけでも抑えてくれ。」
「あぁ分かってるよ、何とかやってみる。」
二人は必死にフィールドの調整器を操作し再構築を試みていた。
一方、操縦室でシャトルの外壁をマルチ機動ユニット【クロム】に船外調査させていたシオンはクロムから送られてきたデータにより、右ブースター周辺に亀裂が発生している事を知る。
「こちらユリカ。フィールドの再構築完了、依然クオークの発生は抑えられないけど多少なりとも効果はあったみたい・・・・」
「ユリカ、サンプルはヘリウム3採掘層から発見されたんだからもう少しヘリウム3の濃度を上げてみたらどうだろう?」
「そうね!ヘリウム3と何らかの因果関係が有れば効果は有るかも・・・・」
そう言ってユリカはヘリウム3の濃度を上げた。
「成功だわ!クオークの上昇が治まっていくわ!このまま徐々に下がってくれれば安全よ。」
「やったな!ユリカ。」
「えぇ!」
「レイ!シオンだ!今クロムに船外調査をさせていたんだが、右ブースター周辺に亀裂を発見した!
今、クロムに応急処置をさせているが完全に修復する時間がない!このままでは減速時の衝撃に右ブースターが持つかどうか・・・・」
「了解したシオン!・・・・ステーションSUG-09、エジェル!聞いての通りだ。船体の損傷データをそちらで検討して減速時の衝撃を最小限に抑える設定を頼む。」
『レイ少佐!こちらでも損傷データを元に再計算中です。それによるとこれ以上、衝撃をかけると右ブースターの基底部分が破損する恐れが有ります。ブースターでの減速ではなく船体を反転させメインブースターでの減速を数回に分けて行うと言う方法が最良かと思われますが。』
「分かった。減速作業の手順はそちらに任せる。準備が出来次第報告を頼むよ。」
『分かりました。シオン中佐、ステーションでの減速作業では時間的ずれによる障害が予想されます。こちらでのデーターをシャトルに送りますのでそちらで随時実行してください。』
「こちらシオン!了解した。こちらの準備はOKだ!」
『では減速開始まで30秒。シオン中佐、レイ少佐、準備は良いですね?カウントダウンを続けます。』
「ステーション了解した!」
シャトルはステーションから送られてくるデーターを元に減速作業が行われていく。
姿勢制御スラスターにより船体を反転させ今メインブースターによる一回目の減速が行われる。
《ゴゴゴゴッ・・・・・・・・》
ブースターから小刻みに伝わってくる振動・・・・・・三人のクルーは不安な面もちで成り行きを見守っていた。
『現在シャトルの速度、10パーセント減速終了。』
同じ行程が何度か続けられる中、シャトルの右ブースターでは、マルチ機動ユニット・クロムによる補修作業が行われている・・・・
だがそんな緊迫した作業の中で彼らも知らない危険が徐々に進んでいた。
何度か繰り返されるメインブースターによる減速は亀裂が発見された右ブースター基底部の外壁と内壁の間を走る燃料バルブに微細ながら亀裂を加える結果となっている事を誰も知る由も無かった。
亀裂はさらに大きさを増し燃料の圧力がその亀裂を拡大させついには燃料がまるでメインブースターからの振動に併せるように少しずつ吹き出し始めた。
そんな燃料が充満し始めた事を察知できずクロムは黙々と船体亀裂のレーザー溶接を続けていた。
《ドッドーーーンーーーーー!!!》
突然起こった激しい爆発の衝撃!
「どうした?!今の爆発は?」
「レイ!大変だ!右ブースターの外壁が何かの爆発で吹っ飛んだ!!」
「なんだって!!!???」
「今、船外作業中のクロムのレーザーが何かに引火したようだ!クロムは無事だが外壁が吹き飛んだ衝撃で内壁にまで亀裂が発生した模様だ。今損傷の状態を調べさせている!」
『レイ少佐!今の爆発でシャトルのメインブースターへ送る燃料バルブが破損した様です!これ以上の減速は不可能かと・・・・・
でも減速は50パーセント終わっていますので直接のステーションとのドッキングは出来ませんが一度地球周回軌道コースに入りシャトルの応急処置を行いその上で改めてステーションへのドッキングコースを取る方が得策だと思われます。』
「やむ終えないな。了解した!ステーション、これより地球周回軌道コースを設定、継続して応急処置に入る。」
「参ったな・・・シオン!聞いての通りだ!俺はブルームを連れてメインブースターの燃料バルブ修理に向かう。」
「レイ!了解した!」
「それでエネルギーサンプルの状態はどうだ?」
「あぁ、サンプルの方はクオークの上昇は止まった。今ユリカがフィールドの微調整を行ってレベルを下げようと試みているよ。」
「そうか了解した。それじゃこちらは引き続きクロムに亀裂が走った内壁をどの程度補修できるか再調査させてみる。」
「あぁ、そちらは任せる。」
『シオン中佐。地球の夜の部分に入ってしまうとステーションからの誘導が出来なくなります。詳しいデーターをシャトルのメインコンピュータに送りますのでそちらでコースの再設定をしてください。』
「ステーション了解した。こちらで出来る限りの事はやってみるがサポートはお願いする。」
『はい。こちらでもシャトルを随時トレースしてデーターを送ります。』
ステーションとのドッキングコースから反れ、今シャトルは地球周回軌道へのコースを取り始める。
シャトルは今の速度でも13時間で地球の周回軌道へと入る事になり、三人はその13時間をフルに使ってシャトルの応急修理を行っていた。
「どうだ?シオン!」
「思った以上に内壁のダメージは大きいようだ・・・何とか燃料漏れは止められたが内壁の亀裂を塞ぐには目一杯かかりそうだよ。」
「そうか。内壁さえ補修が済めば何とかメインブースターの衝撃には耐えられるだろうから何とか一安心って所だな。」
「バルブの修理はどの程度かかる?」
「それならメインブースターへの燃料供給パイプを交換するだけだから1時間も有れば終わるよ。」
「ユリカ!そちらはどんな具合だ?」
「今の所レベルの上昇は止まっているわ。今磁場の強度を上げてレベルを下げられるか試して居る所よ。時間はかかるけど何とかなりそうだわ。」
「それなら何とか危機は脱したと言うところだな。」
「あぁ、まずは一安心だが、正直今までの6ヶ月間以上に疲れたよ。」
「あぁ、ほんとだ。」
三人はそれぞれに地球周回軌道到着までの13時間、ひと時も休む事無くシャトルの応急修理に追われていた。
しかし先ほどの爆発の影響か、メインブースター3基のうち2基が破損していたが1基は破損した2基からの部品を流用して何とか使えるまでに修復されていた。
彼らの働きでシャトルは辛うじて減速の準備を整え、今地球の周回軌道へと入っていく。
13時間フルに応急修理に追われ疲れ切った3人にさらなる障害が手ぐすねを引いて待っている事にこの時点では誰も察知する事は出来なかった・・・・・・。
「レイ。そろそろ周回軌道だな。」
「あぁ、何とか修理も終わってこれで帰れそうだな。」
「あぁ・・・・」
疲れ切った体を奮い起こすように最後のミッションへと三人は進んでいく。
シャトルは静かに地球の周回軌道へと入ってきた。
青く輝く地球が彼らを優しく見守るように漆黒の宇宙に浮かんでいる。
その昼と夜の部分は三人に一時の安らぎと平安を与えていた。
「地球かぁ、いつ見ても綺麗だよな。」
「あぁぁ・・・」
シオンとレイがその美しい景色に目を奪われているその時!
「レイ!シオン!大変よ!エネルギーサンプルが・・・・」
「どうした?!ユリカ!」
「サンプルが突然光り出したの!センサーにも測定できない・・・・光・・・・」
「ユリカ!今そっちへ行く!シオン!後は頼んだぞ!」
そう言ってレイは、ユリカの身を案じながらエネルギーサンプルコンテナへと急いた。
「見て!レイ!とっ、突然光り始めたの!今の今までこんな現象は無かったのよ!」
「こっ!これは・・・・・」
「まるで何かに呼応するかの様に光が強まったり弱まったりしているわ。」
「まるで生きているようだ・・・・・外部からの影響なのか?」
「分からないの。シャトルのセンサーにもコンテナのセンサーにも何一つ異常が見あたらない・・でもこうやってサンプルは光を発しているわ。クオークのレベルだって上昇が止まったまま安定している・・・・」
「どうなっているだ・・・・」
二人は呆然とその謎の光に見入るだけだった。
「どうした?ユリカ!レイ!何があったんだ?」
「シオン。分からない・・・一切のセンサーに何も反応が無いのに・・・光だけが・・・」
「待っていろ!俺もすぐそちらへ行く!」
シオンはシャトルのモニターを確認したがそこにも何の異常も検出されていない。
それを確認してシオンは急いで二人が居るコンテナへと向かった。
「何?!歪んでる!くっ空間が・・・・」
「何だ!これは・・・・・ユリカ!離れるんだ!何が起きるか分からない!」
「えぇ・・・・」
「シオン!コンテナが・・・・空間が歪んでいる・・・」
「どうしたレイ!!?」
レイはまるで光に魅了されているかの様に動こうとしないユリカの腕を強く引きコンテナから脱出しようとしたその時!
光り輝くサンプルはまるで昼と夜が一瞬で反転するかの様にその姿を変え暗黒の光で空間を飲み込み始めた・・・・まるでブラックホールの様に・・・・・。
やがてその暗黒の光は周囲を呑み込み今まさに標的をユリカに絞ったか、全身を包み込もうとしている。
「ユリカ!!」
「レイ・・・・・・」
まるで意識を持った様にその暗黒の光はユリカの体を覆い尽くした。
「ユリカ!!」
「シオン!来るな!ここは・・・・」
「どうした?レイ!ユリカ!」
暗黒はユリカの体を呑み込むと、あっという間にレイの姿を捉え、ついにはシャトルをスッポリと被い込むようにその大きさを増していった。
「レイ!ユリカ!」
やがてその暗黒の光は、まるでシャトルを呑み込んで満足でもしたかの様に自らもその暗黒に呑み込まれるように小さくなっていく・・・・・
ちょうどその暗黒が地球の夜の部分にさしかかったその時!
《カッ!!》
極限まで小さくなったかと思った瞬間!
その暗黒はまばゆいばかりの光を放ち、まるで真昼のように夜の大地を照らしだしそして何事も無かったかの様に静寂の中を消えていった。
『こちら宇宙ステーションSUG-09!特別輸送用シャトルJ9-1203応答願います。こちら宇宙ステーションSUG-09!特別輸送用シャトルJ9-1203応答願います。レイ少佐!こちらはSUG-09,エジェル・ガトーです!応答願います!少佐!・・・・・・・』
ステーションからの通信は確かにそこに居たはずのシャトルを探して駆けめぐっている・・・
だがそこには何もない・・・・・
ただ空しく呼びかけるエジェルの声だけがその空間を彷徨っていた・・・・・・。
第一章 『序章?はじまり。』Fin.
第二章 『生存?それぞれの刻・シオン編』へ.....
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■『志音(SHION)』【小説】 |
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人類は重力という鎖を解き放ち、無限の空間が広がる世界へと足を踏み出していた。
人々はその住処を地球だけではなく、地球を中心としたスペースコロニー群そして火星にも同じようにスペースコロニーを含めた火星圏、さらにその先のアステロイドベルト、木星の衛星エウロパにも新たな居住圏を築こうとしている。
とりわけ木星の衛星エウロパには木星の重水素ヘリウム3採掘を主とするエネルギープラントの制御施設などが建設され、地球人の宇宙進出に多大な貢献をしていた。
だが大きな力を持った人類は、その力の独占を図ろうとあらゆる手段で闘争を繰り返し、何度か大きな危機を招いた。
そんな中双方の心ある者達の努力によって力の均衡を図る手段として第3の勢力中立の立場でエネルギー資源を確保、運営する共同機関が設立された。
それがS.U.G.(SPACE UNITED GUARDIANS)。
オープンな組織の運営、人種、職種を問わずあらゆる分野からの人材登用などその働きはめざましく、資源の確保・運営ばかりではなく、地域紛争や疫病災害などあらゆる事態にも対処出来るほどの科学力・技術力を有する組織へと今でも成長を続けている。
そんな中、安定と平和を手に入れた人類に次なる飛躍をもたらせるであろう新しいエネルギーが木星のヘリウム3採掘プラント・JH3-053に於いて木星大気の中から発見された。
そのエネルギー物質はゴルフボールほどの大きさでも、今人類が手にしているエネルギー総量の200年分を賄えるほどすさまじいエネルギーを有していた。
S.U.G.はその物質の研究のため、月軌道上に新たな宇宙ステーションを建造し新しいプロジェクトが組まれ、多くの優秀な科学者が集められた。
まだ未解決な部分が多く研究成果が待たれるこのプロジェクトのため設備不足な木星の衛星エウロパより、1センチ画のサンプルが最新のシャトルにより輸送されることになった。
その搭乗員としてS.U.G.地球支部から精鋭のパイロット、レイ・ナゼル、医療担当ユリカ・セツナ、火星支部からサブパイロット兼エンジニアのシオン・セツナ、三名が選ばれた。
シャトルには最新の医療機器、工学機器、探査機器、防衛機器などが積まれあらゆる事態に対処できる装備が惜しげも無く使われている。
最新の宇宙船とは言え、木星からの輸送には6ヶ月間と言う長期な航行である。
途中、隕石群や宇宙線、太陽フレアなど色々な問題が彼らの航行を妨げたがその難問をくぐり抜け今彼らは最終目的地、月軌道上の宇宙ステーションに2万キロと迫っていた。
「レイ、やっと無事任務を達成できそうだな。」
「あぁ。」
パイロットのレイとサブパイロットのシオン、二人の男同士言葉少ない会話だったが友情と言う名の絆に結ばれた二人にはお互いの安堵の気持ちが伝わっていた。
「しかし6ヶ月も一緒にいるとあの頃を思い出すよな。」
「S.U.G.の寄宿舎だろう。あの頃はお互い同じチームでトップを争って居たっけ。」
「で、お前が最優秀候補生に選ばれ地球支部へ、俺は火星支部。まぁあれはあれで良かった気もするがな。」
「あれは、シオンお前がサバイバル訓練の時、教官の命令を無視したからだろう。まぁチームの一人も脱落者を出したく無かったお前の気持ちはわかるけどな。」
「でも殴ったお陰で俺には違う道が有るって気づいたんだけどな。」
「あぁ、さすがに俺でもお前が火星支部の工学部主任になるとは思っても見なかったよ今じゃ俺より階級が上なんだからな。」
「はははぁ?やっぱり俺の方が一枚上手だって事よ!」
「解った解った、俺の負けだよ。はははははぁ。」
任務の終了間近からくる安堵からか二人のうち解け合った笑いが操縦室を満たしていた。
《グイィーン》
操縦室のドアが開き機器の最終チェックにいっていた3人目の搭乗員、ユリカ・セツナが帰ってきた。
「なにぃ?また任務中に男同士で高笑い。ちょっと不謹慎よ。」
二人の男をからかうかの様にユリカが機器チェックのデータをメインコンピュータにデータ転送している。
このシャトルで彼女は医療担当の他にもエネルギー物質サンプルが格納されているコンテナ制御システムのチェックを主に担当している。
「ユリカ、今日の気分屋さんの状態はどうだ?」
「えぇ、少し機嫌が悪そうだけどちゃんとおとなしく寝てるわ。」
航行中に何度か異常な反応を示していたエネルギーサンプルは宇宙線の影響を受けまるで生き物のような反応を示していた為、シオンはいつも人称で呼んでいた。
そんな兄のシオンの影響か、ユリカもまるで赤子の様にエネルギーサンプルと接している。
「お前達って兄妹だけあって似た性格してるよな。」
「ひどいわ!レイ!私はこんな軽い性格じゃ無いわよ。」
「おいおい!俺をだしにしてこんな所で夫婦喧嘩をするな。はははぁ」
「兄さん!!」
「おい!シオン!!おっ俺はそんな・・・・」
お互いに気があるユリカとレイは、夫婦喧嘩と言われて二人とも真っ赤な顔をしていた。
そんな二人を思ってかさらに追い打ちをかけるシオン・・・・。
「なんだなんだ?お前ら6ヶ月間も一緒に居てまだお互いの気持ち言ってないのか?」
「なに言ってるのよ!これは大事な任務なのよ。個人的な事は任務が終わってから!それにレイだって困ってるじゃない!」
「えっ?今なんて言った?愛の告白は任務が終わってから?えっ?どうなんだ?レイ。」
「もう?!兄さんたら!!」
シオンがユリカをからかうように言うと、レイとユリカは益々顔を真っ赤に染めている。
レイはシオンの言葉をはぐらかす様にコンソールの点検を始めた。
その時、月軌道上の宇宙ステーションから連絡が入ってきた。
『こちらは宇宙ステーションSUG-09。特別輸送シャトルJ9-1203応答せよ。こちらは・・・』
「ステーションからの連絡だ!」
そう言うとすかさずレシーバーを取り応答の準備をするパイロット・レイ。
「こちらは特別輸送シャトルJ9-1203。こちらは特別輸送シャトルJ9-1203。ステーションSUG-09レーザー回線を開く。」
レーザー回線が繋がりメインスクリーンに映像が映し出された。
『了解。J9-1203。私は通信担当官のエジェル・ガトーです。長旅ご苦労様でした。ステーションを代表して貴船の到着を心待ちにしておりました。』
「こちらはJ9-1203メインパイロット、レイ・ナゼル。歓迎のお言葉ありがたく頂きます。」
『ナゼル少佐。ステーションではあなた方の帰還をお祝いしてパーティの準備をしています。家族の方々もステーションに待機して到着を心待ちにしていますよ。』
「ありがとうございます。感謝いたします。」
『ナゼル少佐、ベーグルだ。任務ご苦労。我々司令部も歓迎するよ。』
「これはベーグル司令長官!司令長官直々のお出迎え恐れ入ります。」
「ベーグル司令長官!火星支部工学部主任のシオン・セツナです。私からもお礼を申します。」
『おぉ!セツナ中佐!君の噂は聞いているよ。S.U.G.始まって以来の逸材だとな。』
「恐縮です!ベーグル司令長官殿からそのようなお言葉、直に頂けるとは恐れ入ります。」
『そう言えば紅一点のユリカ君は元気かな?』
「ここにいますよ!司令長官!ユリカ・セツナです。私からも歓迎のお礼を申します。一日も早く長官の定期検診を楽しみにしています。」
『おぉ!ユリカ君!相変わらず手厳しい主治医だな。あはははは。』
「長官は私が言わないと定期検診受けてくれませんからね。」
ユリカは長官をからかいながらクスッと笑って見せた。
『何はともあれこうして無事地球圏まで辿り着いたんだ、無事任務が終わったらユリカ君の言うままにするよ。』
そう言うと強面の司令長官ベーグルのしわくちゃな笑い顔がメインスクリーンに映し出される。
『では歓迎パーティで会おう!諸君。』
「はっ!」
そう言って三人はメインスクリーンの司令長官に敬礼をした。
GO to Next02......
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■『志音(SHION)』【小説】 |
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未だにそれほど売れてはいないが一応これでも小説家である。
今、私は久しぶりに出版社から新作の依頼を受けて執筆中であるが、中々思うようなストーリーが書けず悩んでいる。
そんな時、いつも私は気を紛らわすためにビール片手に小さい頃のアルバムを引っ張り出し、昔を懐かしんでいる。
何度も見開いては、時間の経つのを忘れ、幼い頃の思い出や昔遊んだあの時の事を思い出しては”今”と言う時間を忘れることがこんな時の対処法になっていた。
「おっ!この写真・・・・」
いつもは気にも止めなかった一枚の写真が私を幼かった頃の自分に戻していた。
「そう言えば最近墓参りに行って無いなぁ。おおばあちゃん怒ってるかな?」
その写真には幼い私、10歳くらいだったか、田舎の北海道・上ノ国へ行ったときに父が撮ってくれたおおばあちゃんとの最後の写真だった。
私は子供ながらにそのおおばあちゃんの名前がとても明治生まれとは思えない変わった名前だといつも思っていた。
『志音』と言うそのおおばあちゃんが、私はとても大好きで夏休みと冬休みには家族で上ノ国へ行くのがとても楽しみだったのを覚えている。
89歳と言うその当時では、結構、長寿を全うした明治生まれの優しい志音おおばあちゃんはこの写真を撮った1982年の夏を最後にこの世を去った。
その後も夏になると必ず、おおばあちゃんが眠る上ノ国へ行くのが習慣のようになっていた。
だが、私が大学を卒業後、東京の出版社に就職してからと言うもの、中々長期休暇もとれず毎年恒例の墓参りもおろそかになっていた。
私の実家は北海道は函館にある。
坂が多く昔と今が同居しているようなそんな町であるが、シーズンになると観光客がドッとなだれ込んでくる、夜景が綺麗と評判な『五稜郭』という観光名所がある古い町だ。
父が勤める新聞社が此処にあり、私はこの町で生まれた。
小さい頃から五稜郭公園を遊び場に育ち、高校卒業までこの町でゆったりとした時間の中で育った。
私の話はこの辺にしよう。
『志音』と言う名のおおばあちゃんの話に戻ろうと思う。
志音おおばあちゃんにとって私は曾孫にあたる。
小さい頃、私はおおばあちゃんにとても可愛がられた。
何故かと言うと私がおおばあちゃんの旦那、曾祖父の天馬おおじいさんの小さい時にそっくりなんだそうだ。
曾祖母と曾祖父は、幼なじみで兄弟のように育った為、天馬と言うこれも変わった名前の曾祖父の小さい頃をよく覚えているんだそうだ。
そんなこともあり、休みに必ず里帰りをする私たち家族をとても楽しみにしていてくれた。
私はそんなおおばあちゃんがとても大好きで、里帰りをするとおおばあちゃんの後を犬のようにくっついていた。
そして寝るときに決まっておおばあちゃんが色々な昔話や不思議な話を聞かせてくれるのがとても楽しみでも有った。
そんなことが影響したのか、私はいつしか小説家になることが夢になって、こうして何とか実現できた。
そんなおおばあちゃんが、この写真を撮ったその夏、志音おおばあちゃんの父と母の形見、龍を象った金のペンダントと青く輝く石がはまっているブローチ、そしておおばあちゃんが生まれた時に撮った一枚の写真を見せてくれた。
明治に撮ったはずのその写真は、色が抜けてはいるが紛れもないカラーの写真だった。
今考えるとどこで撮ったのかとても不思議だ。
その形見を見せながら、私に話して聞かせてくれた昔話はとても変わった不思議な話だった。
子供だった私は本当の話だと思って聞いていたが、今思えばまるでSF小説のような話だ。
おおばあちゃんが亡くなってからその話を思い出すことは無かったが、今になってその不思議な話を小説にしてみようと私はワープロに向かった、が、ふっとその形見を曾祖母が亡くなってから私が譲り受けていたことを思い出し、押入の中を2時間かけて探し回った。
やっとの思いで小さな木箱に入れたその形見を見つけ、何十年ぶりかで開いたその木箱にはあの時と変わらぬ光を放つ龍のペンダントと青い石のブローチ、そして色あせた一枚のカラー写真。
子供の頃には気がつかなかったが、曾祖母の母の形見と言われる青い石のペンダントの中に文字が刻まれている事に気がついた。
「S.U.G・・・・SPACE UNITED GUARDIANS.」
確かに英文字で書かれていたその文字はそう読めた。
私は改めてそのブローチの存在に驚き始めていた。
「そんな・・・」
明治の頃にそんな組織が有るはずもなく、ましてやその文字の意味する言葉自体その当時の人には思い浮かばないもので有るのは確かである。
「これって作り物かな?子供の自分を喜ばせようと思っておおばあちゃんがどこかで買って来たものなんじゃ・・」
そんな憎めないいたずらを良くするおおばあちゃんだったから、私はその想像に納得しかけた。
「えっ!?」
私は写真に写る曾祖母の母、百合香と言う名の女性の胸に同じブローチが写っていることに気がつき仰天した。
「うっ!嘘だろう・・・・」
何度見比べても同じものだった。
色あせては居たがその写真に写っているブローチと、今私の手に持つブローチはどう見ても同じものとしか思えなかった。
そのブローチをよく見ると、青い石の中にまるで大陸でも象ったかのような模様さえある。
その事実にぶちあたった私は、必死に一度だけ聞かせてくれたSFとも思える不思議な話を思い出していた。
そう・・・・その昔話はこんな不思議な物語だった・・・・・・・。
プロローグ「不思議な昔話」終わり。
第一章「序章?はじまり。」へ...
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■幽幻戦国絵巻?せぶん |
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■絵巻その七【終焉?そして命】
磁気を帯びた金属が多く土壌に含まれるため方位磁石も役には立たない。
深い森に覆われたこの地の地中深く、今人々の運命を決める戦いが行われて居るとは誰も思わないだろう。
だが、その戦いも静かに終わりを告げようとしていた。
いくつもの苦難を乗り越え、友の命と引き替えにここまで辿り着いた六人の戦士が今最後の鬼・信長が教えてくれた真実を知る者と会い対峙するために六人は頑強な岩に囲まれたその部屋へと入っていく。
部屋はカタカタとけたたましい音を響かせながら暗闇に覆い隠されていた。
「ここはいったい何の部屋なんだ?」
誰もいないその部屋に入ったあまめがつぶやいた。
「この部屋にはなんの気配も感じませんが・・・・」
気を探していたジュハは鬼の気配はおろか生き物の気配すら感じられないこの部屋がなんの為の部屋なのか全く想像も出来なかった。
その時六人の前に突然光が扇状に広がるとその光の中に、一つの人影が現れた。
「良くここまで辿り着きましたね。あなた方の戦い全て拝見させて頂きました。」
その光の中に居る人影はおぼろげな姿からはっきりとした姿へと変わっていた。
「貴様が鬼たちが命を懸けて守っていた親玉か!?」
今にも斬りかかろうとする京が、紫炎を抜いたときその人影が制した。
「私の名は、アクア。この姿は私が作り出した映像に過ぎません。攻撃をしても無駄です。」
「映像?幻影の様な物か?」
聞き慣れない言葉を聞いて京がアクアと名乗る映像に問いかける。
「確かに幻影と同じようなものです。あなた方と話すためには都合がいいかとこの姿を創りました。」
アクアと名乗るその幻影は、無表情で話を続ける。
「あなた方がここへ来たと言うことは、私を倒すことが目的だと判断しますが?」
咲耶はその問いには答えずこの部屋に入ってからずっと気になっていた事を聞き始めた。
「その前にあなたには気と言う物が全く感じられませんが、ここには居ないと言うことですか?それとも私たちの力を封じるような力を持つと言うことですか?」
アクアは無表情なまま咲耶の問いに答え始めた。
「ここに居る方は私の気を感じることが出来ず、当惑しているようですが、私は確かにあなた方の目の前に居ます。あなた方の力を封じる事は私には出来ません。
生ける者の力を封じる事は同じく生ける者のみです。」
「ではあなたは死んでいるとでも言うのですか?」
咲耶がアクアの言うことが良く理解できなかった。
「いいえ。私には”死”と言う物はありません。私は生物では無く機械だからです。」
『きかい?』
聞いたことのない言葉に咲耶達はどう理解すれば良いのか分からなくなっていた。
「きかい、とはなんなのです?」
「この時代の言葉で言えば、からくりを極限まで精密にした物、それを機械と言います。」
「ではあなたはからくりで創られていると言うのですか?」
「からくりと言われては私も少しは反感がありますが、そう言う事になります。
しかしあなた方が考えるからくり以上に精密に創られた機械であることには変わりません。」
「それでは私たちはからくりであるあなたと戦っていたと言うことですか!?」
「確かにあなた方が想像した禍々しい鬼にはほど遠いですね。私は。」
咲耶が今頭の中に浮かんだ鬼と言う言葉を、まるで読まれた様な気がして咲耶は少し驚いた。
「驚く事はありません。あなた方が考えることは私には読めます。」
その言葉にはみんなが驚いた。
「先ほど私の質問にあなたは答えていませんが、その答えはこれから私が話す事を聞いて頂いた上でもう一度お聞きします。」
咲耶だけでは無くここにいる六人には全く想像さえ出来ない敵の正体。
「分かりました。アクアと言いましたね。あなたのお話を聞いた上で私たちは答えましょう。」
「ありがとう御座います。私は決してあなた方や人間達に敵意を持っている訳ではありません、それだけは分かってほしいと思います。」
京は心の中で思っていた。『敵意がないだと!鬼を使って我々を苦しめて置いて!』
「京さん、あなたのお怒りもごもっともだと思いますが、再度言いますが私にはあなた方に対する敵意は全くありません。しかし全て私の判断で鬼たちを操っていた事には変わりありませんが。」
「京さん、まずはこの者の話を聞きましょう。全てはそれから。」
咲耶が京を制しアクアの話を聞き出そうとしていた。
「では、私の存在からお話しいたします。
私が創られたのは、今から1000年後の未来。あなた方の子孫の手で創られた人工A.I人工知能とも言われる存在です。人間の様に考え話し、想像できる機械とでも言えば理解していただけるでしょう。言葉で言うより映像で見ていただいた方が良いようですね。」
そう言うとアクアは、真っ暗な空間に一つの星を映し出した。
「これがあなた方が今居る未来では”地球”と呼ばれる惑星です。この惑星には120億もの人間が住んでいます。」
『ちきゅう?こんな小さな物に私たちが住んでいる・・・・』
咲耶の意識を読みとりアクアは映像を拡大し始めた。
「これはあくまで実際の大きさではありません。この陸地、ここがあなた方が日の本と呼ぶ所です。しかし今映し出されてる映像は、今現在ではなく、私が創られた1000年後の世界、地球です。」
まるでそこにあるように浮いている映像を見ながら咲耶達は只ただ見入るだけだった。
「千年後この地球は、人間の手によって環境破壊が進み温暖化、天変地異など想像も出来ない程環境が悪化しました。科学の進歩の名の下に無秩序に自然を破壊したために人間達は自ら苦しむ環境に変えてしまったのです。
それに気がついた科学者と呼ばれる者達がその対策を研究しある解決策を見いだしました。その為に膨大なデータを処理するために、わたしA.Iと呼ばれる人工知能が創られたのです。私はアクア”AQA”と名付けられ、私の計算を元に環境を改善するための大がかりな機械が創られそれに私も搭載されました。この地球の周りを回っている物がその機械《テラリバース》です。地球の環境を改善するために創られた機械です。」
アクアの話は見たこともない映像と共に咲耶達の目の前で繰り広げられていた。
理解を深めるため、アクアはイメージと共に直接、咲耶達の脳にアクセスし話を続けた。
「全てはここから始まりました。
地球を取り巻く温暖化物質、二酸化炭素と言うあなた方生物が出す息の様な物が大量に空気の中に存在しています。その為に地球は平均気温の上昇と共に深刻な異常気象を引き起こす原因ともなっています。
他にも太陽から降り注ぐ有害な光線を遮る役目をしていたオゾン層も破壊が進み、人々はその影響で思うように外に出ることも出来ない程に悪化させてしまいました。
その環境を改善する方法として、ナノプローブによる有害物質の除去とプラズマによるオゾンの修復作業が計画されたのです。
しかし悲劇はここから始まりました。
一部の政治家と呼ばれる人々が計画による早期の改善結果を求め研究者に対し圧力をかけたのです。その為、一気にオゾン層を復旧させるために無理な計画が提案されました。
私が計算したシュミレーションでは、65%の確率しか無い危険な計画でもありました。でも彼ら研究者は政治家からの執拗な圧力の為、100%の成功率の計画を待つよりも65%の低い確率に掛けるしか無かったのです。そしてその計画は進められました。私の忠告も無視され、実行されたのです。
あなた方が今見ている物がプラズマとナノプローブを利用したオゾン層復元の為に急遽創られた未完成の機械です。全て私が搭載されている《テラリバース》で造られ私の管理で計画は行われる筈でした。
しかし低い確率での実行を望まない私は実行に拒否しました。研究者達は、その為私から全ての回路を遮断しその計画を実行したのです。結果はこの映像の様に一瞬にして地表は火の海と化し計画は失敗したのです。
更に私の管理を離れたテラリバースは軌道をそれ、燃えさかる大気圏へと落下していきました。
その時、隔壁に亀裂が走りプラズマ反応炉は暴走しました。全てがプラズマに覆われた時、時空間にひずみが生じ私は百年前のこの時代に飛ばされました。しかし落下は止めることが出来ず、3つに分散されたテラリバースはこの日の本三カ所に落下しプラズマ爆発を起こしそこに居た人々を巻き込みました。
コア部分に納められた私は、落下の衝撃で一部の回路は損傷しましたがナノプローブ製造部が軽傷だったため自己修復にかかりその間、小型の偵察用プローブを使い現状の解析と調査を続け、爆発に巻き込んでしまった人々が私が知る歴史に必要な人間であることを知り彼らを再生するために新たなナノマシーンを造り彼らに与えました。
それがあなた方が呼ぶ鬼と言われる者達です。しかし、歴史は変わってしまった。
私には歴史を元に戻す事など出来ないのです。そして私は考えました。千年後に訪れる地球的規模の災害を起こさないで済む新しい歴史を作ろうと。
使える機能は全て使いその新たな歴史を作るために私は何度もシュミレーションしました。しかしどのシュミレーションも一つのファクター《人間》が科学技術を持つことを前提にすると必ず破滅と言う結果になってしまいました。そして私は一つの結論を出したのです。
人間の機械による進歩を阻害し別の形での進歩を目指すこと。それが私の結論でした。そして私は実行に移しました。私の為に運命を変えられた人々の体を使い人類にこの時代の戦いをさせ進歩を遅らせること。そして別の進化を探しました。そして見つけたのです。あなた方が持つ”気”と言う物の存在を。
本来生物なら必ず持つその”気”はあらゆる可能性を私に見せてくれました。だからこそその気を強めるために、人間に苦痛を与え気を高めるための戦いを起こしたのです。気を持たない私には気と言う物がどれほどの物なのか分かりません。しかし本質は分からなくても事実として”気”は存在していました。そして気が一番効率よく発達するためには、自己の防衛本能が不可欠と言うことです。死の危険を乗り越えるためにその”気”は無限の強さを持つのです。そしてあなた方はそれを実証して見せた。
これからも私が人間を管理すると共に、新たな歴史と人類の進歩を私が導くのです!私はとてもうれしい気持ちです!私が正しかった事が証明されたのですから。」
咲耶達はアクアが見せた映像と脳に直接送られてくる情報を只驚きの中で見ていた。
あまりの衝撃的な事実に六人は呆然としていた。
だが咲耶はその情報を見せられても釈然としない何かを感じていた。
「今あなたは自分が管理し新たな歴史を造ると言いましたよね。それはこれからも同じように人間を支配し戦わせ、そして人間の進歩を導くと。」
「確かに言いました。人間は誰かの管理を受けなければ自滅をするだけです。いずれは私が居た歴史と同じようにこの地球を破壊しそして全ての生き物を道連れにするのです。だからこそ私の管理が必要なのです!」
「ふざけるな!」
京がその言葉を聞いて怒りを感じアクアに言い放った。
「確かにお前の言うとおり人は戦いの中で進歩するのかも知れない!だが!その巻き添えをくらって無惨にも死んでいく者達はどうなる!?見捨てろ!とでも言うのか!」
「その通りです。進歩というのは犠牲を伴うのです!人間が戦いを好む以上仕方の無いこと。」
「そんなのおかしいよ!誰だって平和に暮らしたい!生きたいって思ってるよ!」
希望がアクアに訴えた。
「確かに今の時代では苦しみを伴う事の方が多いでしょう。
しかしあなた方の様な能力を持った人たちが増える事で人類の未来はより良い物になるのです。この時代の人間は自然と共に暮らすことを当たり前の様に受け入れています。だからこそこの時代で進歩することが重要なのです。」
「それがあなたの出した答えなのですね。」
咲耶が悲しそうな目をアクアに向けていた。
「何故その様に悲しむのです?すばらしい未来はすぐそこにあるのですよ!ほんの少し我慢するだけで手に入るのです!悲しむより喜ぶべきでしょう!?」
「やっぱり貴様は只のからくりにすぎん!」
京も咲耶と同じようにアクアを見つめる。
そしてそこにいた六人全てが同じように見つめていた。
「やはりあなた方も他の人間と同じなのですね。他人の幸せより自分の幸せを優先する。」
「違います!あなたは私たちの考えが分かるはず!」
「あなた方の考え?・・・・・」
六人の脳をスキャンしたアクアは、理解した。
「そうですか。残念です。あなた方は困難な方を選んだ。と言うことですね。」
「例え困難な道だとしても自分が信じた道を行くことこそが歴史を作ると言うことでは無いのですか?例え遠回りしたとしても。」
「何故ですか!?私という優れた力をあなた方は手に出来るのですよ!」
「違うでしょう!あなたは人間を管理することを望んでいる!人は自由に生きる事を望むのです!その為ならどんな努力もいとわない!それが人間なのです!」
「それが破滅への道と分かっていてもですか?」
「いいえ。それは私たちが決めるのではありません。未来の子供達が決めることです!この力は親から子へ子から孫へと自然と伝わっていく物。誰かに無理矢理与えられる物では無いはず!」
「分かりました。これ以上あなた方と話しても無駄と言うことですね。しかし一つだけ分かってほしい。私は人類を滅ぼすために造られた訳じゃない。この地球を守り、人類を守るために造られたと言うことだけは。」
アクアがその言葉を言うと突然この部屋自体が揺れ始めた!
「なに!?」
「アクア!何をした!?」
「私は今この本丸に仕掛けた時限装置を作動させました。後、一時間でこの一体は吹き飛びます!」
「なに!?」
「あなた方が私を必要としない以上、この時代には私は必要が無いと言うことです。あなた方自身が選んだ未来をどう切り開いていくか見せていただきましょう。だが私を拒否した以上、最後の試練をあなた方に与えます。」
「危ない!みんなすぐにここから出るんだ!!」
京のその言葉と共に六人は必死に走り出した。
本丸を飛び出し関門があったその道へと向かった。
だが、その道は揺れが始まった為に崩れようとしている。
「心眼の館の方がまだ残っている!そっちへ行こう!」
京が先頭に立って全員を誘導するが、必死になって走る六人の頭上から崩れた岩がまるで狙うように落ちてくる!
その時!あまめをめがけて一つの岩が落ちてきた!
「あまめ!危ない!!」
ジュハはあまめを助けるためにあまめの体を思いっきりはねとばした!
(ドーーーーン!)
跳ね飛ばされながらもあまめはジュハの姿を探した!
「ジュハ!!!!」
ジュハはあまめの代わりに岩に足を挟まれている。
「大丈夫か!ジュハ!」
「良いから!先に行って!!」
ジュハが自分の足が岩に潰されてこれ以上動けないことを知っていた。
「ジュハ!やだよ!!一緒に逃げるんだ!!!!」
あまめは泣きながら必死に岩を退けようとするがびくともしない。
阿砂がそれに気づき火薬を使い岩を吹き飛ばした!
「急ごう!」
そう言って阿砂はあまめとジュハを抱き寄せたが、ジュハの両足はすでに無くなっていた。
「私はもう助からない。あまめ!逃げて!」
「あまめ!」
阿砂があまめに声を掛けるが、あまめは阿砂に首を振った。
「俺はジュハとここに残る!先に行ってくれ!」
その声に咲耶達も気がつくが、どんどん落ちてくる岩が邪魔をしてどうすることも出来ない。
「俺達は後から行く!だからみんなは先に行ってくれ!!」
そのあまめの言葉が嘘だと咲耶達には分かっていた。
だがこのまま立ち止まっていては全員が生き埋めになる。
そう思った京は無理矢理咲耶と希望の体を捕まえ出口へと急いだ!
「あまめ!どうして逃げないの!」
両足を失ったジュハを背負いながらあまめは必死に岩を避けていた。
「言ったろう!俺はジュハの力になりたくて付いて来たんだって!」
「あまめ・・・・」
ジュハはあまめの背中で自分を大切に思ってくれているあまめの気持ちがうれしくて仕方なかった。
だが!無惨にも二人の行く手に巨大な岩が道を塞いでしまった。
「どうやらここまでの様だな。」
そう言ってあまめは大岩の影に腰掛けジュハを見つめていた。
「ごめんな。助けてあげられなくて。」
「あまめ・・・・・」
京、咲耶、希望、阿砂の四人は、残してきた仲間を思い必死に走っていた。
その間にも大岩が次々と四人をめがけ襲ってくる!
だが突然、阿砂が足を止めた。
「どうした!阿砂!」
阿砂は京たちの方を向くと笑顔を見せた。
「やっぱり私は、青燕達を残して帰れない。」
「なに言ってる!青燕はお前を助けるために命を懸けたんじゃ無いのか!」
「分かってる!でも青燕が居ない里に帰っても仕方ないから。」
そう言って阿砂は青燕が眠るからくりの館を目指し戻っていった。
「阿砂!!!!」
「咲耶!希望!わたしらだけでも生きて帰らないとな!」
咲耶は京が言いたいことが解っていた。
『一人でも生き延びなければ、死んでいった人たちの事を覚えていてあげられない。』
そう言いたかったのだと。
三人は振り返るのを辞め全力で走った。
遠くに出口の明かりが見える!
三人は助かった!と思ったその時!
目の前の大岩が砕け洞窟を塞ぐようにして倒れてきた!
『まずい!!!』
そう思った京はとっさにその岩の下に入った。
「京さん!!!」
京が崩れた岩の下敷きになったと思ったその時。
二人の目の前に大岩を必死に支える京の姿が映った!
「二人とも早く!!」
京が二人を通そうと大岩の衝撃で傷つきながらも必死に支えている!
「京ちゃん!!」
咲耶と希望は何とか京が作った隙間から大岩を通り抜けた。
「京ちゃんも一緒に!」
「良いから先に行け!」
「だって!京ちゃんだけ置いていけないよ!!」
咲耶と希望は必死に京が支える岩を除けようとするがびくともしない。
「京さん!何でよ!なんで・・・・」
咲耶と希望は泣きながらびくともしない岩を懸命に砕こうとしている。
「良いから先に行け!!」
今にも崩れそうな出口を前に自分を助けようとする咲耶と希望に厳しく怒鳴る。
「おまえ達まで死んだら私がしてきたことが全部無駄になるんだぞ!良いから行け!!」
「でも京さん!!」
「京ちゃん!!!」
二人は京のその言葉を聞いて崩れていく出口を目指し走り始めた。
出口に向かって走る咲耶と希望の姿を見ながら京は二人と出会った事に感謝していた。
「ありがとうよ。」
そして無惨にも京の体は洞窟自体が崩れ見えなくなってしまった。
二人は必死に走る。
京や紅蓮、あまめやジュハ、阿砂、自分たちと一緒に旅をし戦った仲間を思いながら流れ続ける涙を拭い必死に出口を目指していた。
揺れが激しくなり出口が崩れてゆく。
その時!咲耶と希望は崩れる岩を除けながらやっとの思いで外に飛び出した。
外へ出た二人だが、安心は出来なかった。
この森一帯が吹き飛ぶとアクアは言っていた。
『出来るだけ遠くに逃げなければ!』そう思い咲耶と希望は必死に走った。
道など無いこの森を方向もわからなぬまま二人は必死に森を駆け抜ける。
その時!凄まじい閃光と爆風が後方で轟音を立てて二人をめがけ襲ってくる。
後ろを振り返った咲耶は絶句した。
『このままでは二人とも爆風に飲み込まれてしまう』
ついに爆風が二人を捉えたその時!咲耶は希望の体をかばうように抱き寄せた!
爆風は二人を飲み込みあたりの木々もなぎ倒し一瞬にしてあたりを瓦礫の山へと変えていた。
どのくらい経ったのだろう。
爆風が収まりあたりに静けさが戻ってくる。
「うっ!ここは・・・・」
体中に激痛が走りながらも希望はあたりを見回した。
あたりには草も木もなにも無かった。
瓦礫の下敷きになって何とか助かった希望。
「さっちゃん・・・」
あたりを探すが咲耶の姿は何処にも無い。
痛みをこらえ必死に瓦礫の中から這い出た希望は必死に咲耶の姿を探した。
「さっちゃん!!!」
「さっちゃん!!!何処なの!!!」
「返事してよ!!!!」
何度呼んでも咲耶の返事は無い。
それでも希望は必死に咲耶を探す。
瓦礫を除けたり、岩の透き間を探したり、痛む体をかばおうともせず必死に探していた。
だが日は落ち暗闇が希望を覆った。
それでも希望はあきらめきれなくて何度も何度も瓦礫を除けては咲耶の姿を探した。
何日も必死に探すが見つからない・・・途方に暮れる希望。
『あの時さっちゃんが私を抱いてかばってくれた・・・・』
そう思った時、希望の目に涙が溢れてくる。
拭いても拭いても溢れる涙。
あまめ、ジュハ、阿砂、紅蓮、京、そして咲耶まで。
希望をたった一人残し死んでいった仲間の顔をいつまでも思い出し止めどなく流れる涙を何度も何度も拭きながらその場にたたずんでいた。
それから何日経ったのだろう。
出雲の国では、八家衆達が悪しき気が消え、戦いが終わりを告げたことを悟っていた。
人々は咲耶達の戦いが勝利したことを知り祝っていた。
だが、咲耶達からはなんの連絡も無い。
一週間待っても一月待っても二人は戻って来ない。
そして二ヶ月が過ぎ三ヶ月が過ぎても二人は戻っては来なかった。
半年が過ぎ人々は日々の暮らしの中に戻っていく。
田を耕し種をまきその収穫に汗を流し日々の暮らしを精一杯生きていた。
世の中は戦も減り、ひとときの平和を楽しむかのように毎日を暮らしていた。
そんなある日八雲のはずれ、米の収穫に人々が汗を流していた。
「おいっ!あれなんだぁ?」
作治がなにげに、一本道の向こうに小さな人影がゆっくりこちらに向かってくるのを見つけた。
「おい!あれ、子供じゃないのか?」
作治は隣で汗を流して稲を刈る平次を捕まえて指さした。
「おう!ほんとだな?しっかし!汚い服着たわっぱじゃのう!」
二人が見つめていると、その子供の様な人影はその場で倒れた。
「おい!倒れちまったぞ!」
「作治!黙ってないで水でも持ってこい!!」
「おう!」
そう言って作治は水をくみ、平次と共にその倒れた子供の所へ駆け寄った。
「おい!しっかりしろ!ほれ!水じゃ!」
平次が柄杓でその子供に水を飲ませてやると、その子供は平次に向かってにっこり笑った。
その子供の服はぼろぼろに破れ、色あせ、靴も片方だけ両足には豆がつぶれ血が出ていた。
「おい!大丈夫か!?おまえ!名前なんて言うんだ!?」
平次が子供を抱きかかえ心配そうに顔を覗くと子供は又にっこりと笑顔を見せた。
子供は安心したのか平次の腕の中で眠っている。
その子供の顔を見ながら平次がつぶやいた。
「それにしてもかわいい笑顔だな。まるでお人形さんのようだで!」
平次はそのままその子供を抱いて、村はずれにある神社へと向かった。
その平次の腕の中で子供がつぶやく。
「さっちゃん・・・・」
幽幻戦国絵巻?せぶん?完。
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■幽幻戦国絵巻?せぶん |
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■絵巻その六【最後の鬼?そして真実】
「どうやら儂の仕掛けた罠にはまったようだな。」
「信長様!奴らをどのように始末致しましょう?」
脇に従えていた蘭丸が信長の仕掛けた罠にはまる咲耶一行を面白そうに見ていた。
「そう焦るな。蘭丸。これは奴らに対して、儂からの贈り物じゃ。それにこんな罠で全滅されても儂が退屈して困る。」
信長は自分が仕掛けた罠に何人が突破して来るのかが楽しみだった。
「それにしても少々遊びが過ぎるかと。」
「百年もこんな所で待ち続けたのじゃ!多少のわがままくらいお許しになってくれるわ!」
「しかし、三人の戦鬼が破れた今、あの方をお守りするのは信長様、ただ一人。あの方の愁いを考えると一刻も早く、始末してみせるが肝要かと。」
「蘭丸。いつからそなた、儂に意見出来る立場になったのだ?」
静かにそう言う信長の眼孔には鋭い物が見て取れた。
「御意!!」
京は暗闇の中、考えていた。
『これは幻術の様だな。バラバラにすることで一人ずつ倒して行くつもりだろう。
鬼が考えそうな姑息な罠。しかしこのままではどうすることも出来ない・・』
目をつぶって周囲の気配を探っているが、京でさえ全く分からなかった。
その時、前の方から何者かの気配を感じ、京は身構える。
「誰だ!」
「・・・・・」
なにも言わずその人影らしき者は京の目の前に来ると剣を抜いた。
「なに!?」
暗闇に慣れその相手の顔を見て京は驚いた。
「父上?!」
京がそう呼ぶ目の前で剣を構えるその者はじっと京を見ている。
「何故?!」
幼き頃より父と共に旅を続け、腕を磨き諸国を旅した思い出がよみがえる。
しかし京はこれが幻影だと悟っていた。
「どうやら父の姿をした貴様を倒さねばここから出ることは出来ないと言うことらしいな。」
京は父の姿をした敵に対して覚悟を決めたかのように魔剣《紫炎》を抜いた。
それを待っていたかのように父の幻が、京めがけ切り込んでくる。
(カキーン!)
かろうじて受け止めた京だったが、今放った太刀筋は京が知っている物だった。
『どう言うことだ!?』
父の姿をした敵とばかり思っていた京が、今受けた太刀筋が紛れもなく父の物であることを京が一番良く知っている。
その攻撃は続く。
京は理解に苦しんでいた。
今は亡き父、それは十分理解していたが今自分が知る父と全く同じ太刀筋を持って自分に斬りかかる父の姿をした敵?!
「良かろう!そなたが例え真の父だとしても、今は敵!全力で戦ってやる!」
そう言うと京は攻撃へと転じる。
だが、その攻撃も京が知る父の様に交わされてしまう。
何度と無く剣を交える内に、京は例え幻だとしてもうれしかった。
自分に剣豪としての全てを残し今は亡き父。
父を越える剣豪になるため、ずっと一人で旅をしてきた京にとって、例え敵の罠としても今の京にはうれしかった。
だが、すでに父を越えて居た京には勝敗は見えていた。
『父上・・・・』
その瞬間、京は父の幻影を倒していた。
勝敗を決した瞬間、京は父の幻影が優しい顔で笑った様な気がした。
『父上・・・・』
その頃、希望も最も愛する者と暗闇の中にいた。
「母上・・・」
そうつぶやく希望を優しい目で見つめる今は亡き母の姿。
抱きついて泣きたい気持ちを必死に押さえ、今は亡き母の姿をした敵をじっと見つめる。
だがそんな母の姿をした敵も優しい姿のまま、希望に襲いかかってくる。
敵の攻撃を交わしながらも、希望は止めどなく流れる涙を必死にこらえていた。
『母上・・・』
幼い頃、希望は病弱の母にと、毎日の様に花を摘んで母の部屋へ届けていた自分。
母の前では決して涙を見せず、笑顔で母を元気づけていた日々。
走馬燈の様によみがえる母との思い出を巡らしながら希望は母の姿をした幻影と戦っていた。
『いつまでもこうして居たい・・・』だが今の自分には大切な仲間がいる。
その仲間の為にも一刻も早くここを突破しなければならない。
そう思いながら希望は龍金闘に力を込め、母の幻影へと全ての力を込め一撃を加える。
その一撃が母の幻影を捉えた時、暗黒に包まれていた周りは消え去り、今入ってきた洞窟の中に希望はたたずんでいた。
『母上・・・・』
その側に同じようにたたずむ京。
信長の仕掛けた罠、それは彼らの最も愛する者と戦いそれを倒した者だけが先に進める。
だがその罠を越えることが出来ない者も居た。
異国の地に残してきた家族の幻影と戦う仏教僧達。
敵が作り出した幻影と分かっていても、自分が最も愛する者に刃を向けることが出来なかった。
戦い慣れした者ならいざ知らず、人々の平和を祈り修行に励んできた者にとってその罠は卑劣だが最も有効な手段でもあった。
戦いに勝利した者達が、暗闇の中から生き残った仲間の元に現れる。
京、希望、ジュハ、あまめ、そして伊賀忍・青燕、阿砂、飛炎。
皆、愛する者との戦いで涙していた。
そんな思いを断ち切るかの様に彼らは生き残った仲間の姿を確認しあった。
「咲耶は?咲耶はどうした?」
京が咲耶の姿が無いのを知り動揺していた。
「まさか?!咲耶様が・・・・」
ジュハのその言葉に希望が怒ったように言う。
「さっちゃんが幻影なんかに負ける分けないよ!」
だが、何処を探しても咲耶の姿は無かった。
そんな彼らの前に突如暗闇から何者かが現れた。
「鬼か!」
そう叫ぶ彼らの前に、薄笑いをしながら蘭丸が現れた。
「私の名は蘭丸。如何でしたか?我が殿、信長様の贈り物は。」
その言葉に、京がいつもの様に冷静に答えた。
「ああぁ、楽しい余興だったよ。随分と楽しませて貰った。この礼は直に返させて貰うと貴様の殿に伝えてくれ。」
「ほう!気に入って頂けたとは、信長様も喜ばれる事でしょう。」
少年のような姿をした蘭丸が得意げな顔をして笑っている。
「あっ!そうそう!あなた方のお仲間、咲耶様と言われましたか、その方は特別に私の配下の者がお相手させて頂いております。ご安心下さい。」
「なんだと!貴様!咲耶をどうする気だ!」
咲耶の名を聞いて、京が剣に手をかけた。
「これはこれは心外ですね。わたくしとしては最高のお持てなしをさせて頂いているつもりですが、その様にお怒りになるとは。」
蘭丸と言う鬼は、京達を嘲笑うかの様に、さっと飛び退き笑って見せた。
「わたくしの役目は、信長様があなた方の為に特別ご用意致しましたここから先の関門についてお知らせする為、殿より仰せつかりました。」
「なんだと!わざわざ手の内を教えるだと!ふざけるな!」
「ふざけてなどおりません。信長様は嘘が一番嫌いでして、それに弱い者と戦うおつもりも御座いません。」
その言葉に青燕が口を開いた。
「要するにその全ての関門をくぐり抜ければ、最後の鬼・信長と戦えると言うことだな?」
「さようで御座います。更に一人でも信長様の元へ辿り着いたならば、咲耶様もお返し致します。」
みんなの答えは決まっていた。
「良かろう!その招待喜んでお受けしよう。」
青燕がそう答えると、蘭丸はニヤッと笑い話を続けた。
「ではこの先の関門についてですが、関門は全部で三つ。
第一の関門は、からくりの館、
第二の関門は、魔鏡の館、
第三の関門は、心眼の館で御座います。
全員で一つずつくぐり抜けるも良し、三つそれぞれに向かうも良しとのこと。
まぁ詳しいことについてはわたくしも、知らされておりませんので着いてからのお楽しみと言うことに。
全ての関門をくぐり終えた時、本丸への門が現れます。それではわたくしも、準備が御座いますゆえこれにて!では。」
そう言い終わると蘭丸は闇へと消えていった。
「信長という鬼、よほど自身があるのか、それとも我らを遊びの一つとしか考えて居ないように思われます。」
もっと激しい攻防戦を覚悟していた、一行にとって拍子抜けする思いだった。
「だが、咲耶が無事だと言うことは分かった。」
一行にはそれだけでもうれしい事である。例えどのような形であれ。
「しかし信用出来るのでしょうか?」
青燕のその疑問に京が答えた。
「信用するしかなかろう。騙すつもりならこの様な手の込んだ事はしない筈。」
「ではどのような策で関門に向かうかですが・・・・」
そう言って考え込む一行だが、すでに一行のリーダーともなっていた京の考えを待っていた。
「恐らくは三つの関門にはそれぞれ特徴があるように思える。館の名前が示す通り、第一の関門・からくりの館は、おそらく罠や仕掛けを施した物と思われる。
第二の関門・魔鏡の館は、幻術か何かを使ってつくられていると思う。
第三の関門・心眼の館は、霊力などを試すものと思える。
それぞれにあった者が三つに分かれ進むべきかと思うが。」
「しかし全員で当たる方が、確実だと思いますが。」
「確かに全員一緒の方が無難の様な気がするが、それぞれの力を見極める目的があるように私には感じられる。だとしたら不慣れな分野の者が居たのではそれをかばうため、十分に力を出せなくなる。」
「確かにわざわざ関門に名前など付ける以上、それなりの思惑があって当然。 我々の様に霊的な力を持たない者にとって、その様な敵に対しては足手まといになるは必定。」
「では、それぞれ得意だと思う分野を選び、三方に分かれて戦う。更に先に突破した者は残りの関門へ向かい加勢する。それで良いな。」
一行はそれぞれ得意な分野と今までの戦いで得たものなどを考え結論を出した。
第一の関門・からくりの館へは、伊賀の忍び、青燕、阿砂、飛炎。
第二の関門・魔鏡の館へは、ジュハとあまめ。
第三の関門・心眼の館には、京と希望。
一行はそれぞれ組を作り先へと進んだ。
しばらく歩くと、三方に分かれた断崖絶壁の向こうに三つの館が見える。
「ご丁寧に道しるべまであるとは、私たちもなめられたものですね。」
「まぁ、わざわざ探る手間も省けて良いでは無いか。」
京がそう言うと、《心眼の館》とかかれた矢印にしたがい歩き始めた。
それと共に一行はそれぞれの差し示す館へと向かった。
「ほう!やはり三方に分かれたか。三人の戦鬼を倒しここまで来ただけのことはある。」
そう言うと、信長はこれから始まる見世物に目を輝かせていた。
第一の関門・からくりの館へと着いた、青燕、阿砂、飛炎は近づくに連れてその巨大さに驚いた。
まるで自分たちが小人にでもなったかの様な錯覚さえ覚える。
「なんというでかさだ!この分ではそう簡単には抜けられそうにも無いな。」
三人は周囲を確かめたが、館の周りは完全に切り立った断崖絶壁になっていた。
「やはりこの門から入るしか無いようだな。」
彼らの前に入り口と思われる扉は、ゆうに20メートルはあるだろう。
「しかしどうやって中に入ればいいのか・・・」
閉じられたままの扉を前に三人は困り果てていた。
力で空けようとしてもびくともしない。
「どこかに門を空ける仕掛けがあるはず、それを探そう。」
青燕達は手分けして探したが中々見つからない。
必死に探す阿砂が、扉にかかれた文字を見つけた。
「青燕!ここに文字が書かれている。」
早速、三人はその文字の解読を試みた。
「【天にそびえ立つ命の糸をたぐり寄せよ!】そう書かれているが、天にそびえ立つ命の糸とは?」
「天にそびえ立つと言うのはこの館にあるあの天守閣だとは思うが、命の糸とは・・」
からくりの館にある天守閣にはまるで天を突き刺すかのように鉄塔らしき物が何処までも上に向かって伸びていた。
だがその鉄塔を見つめていた、青燕が何かに気がついた。
「あの鉄塔何か光の糸の様な物を出していないか?」
阿砂と飛炎は青燕が指さす鉄塔の部分に、かすかだが赤い糸の様な光が真っ直ぐに三人の後ろに伸びて居るのを見つけた。
「あの光の落ちる所、そこに何かがあるに違いない。」
そう言うと三人はその光の糸を追って、元来た道を戻り始めた。
「青燕!光はこの石に当たっている。」
さらに目を凝らして見ると、その光は石に当たって跳ね返すように扉へと向かっていた。
「この光が指すところに何かがあるのでは?」
三人はその光の糸を辿って、又門の前へとやってくる。
その細い光の糸は、門に描かれた十字架の様な紋章の真ん中に当たっていた。
「あの紋章に秘密があると言うことか?どう見てもただ門にかかれた絵に思える。」
「青燕!あれを見ろ!十字の紋章の一番上!小さな赤い点がある!
【糸をたぐり寄せよ!】とは、光をあの赤い点に当てろと言うことでは?」
三人は光が当たっている石を動かそうとしたが、びくともしない。
「ならば!」
そう言うと青燕は剣を抜き、光が通る所にかざし光の角度を変えてみた。
幾度か試みて何とか、小さな赤い点に光が当たった瞬間!
(ゴーーーーーーー!)
扉は自ら三人を迎え入れるように動き出した。
「やはり!」
開いた扉の向こうは、暗闇で何も見えない。
だが三人は臆することなく館へと入っていった。
すると中に入ったのを確認するかの様に、その重い扉は轟音と共に閉まり始める。
「扉が!!」
「気にするな!我らには戻る道など無い!ここを無事抜けることだけを考えるんだ!」
青燕の言葉に阿砂と飛炎は決意を新たに閉まり行く扉から目を背けた。
真っ暗闇となった部屋は以外と広い様だった。
あたりを見回すと、異国の鎧や彫刻など物珍しい物が並んでいる。
その時!光を浴びて一体の操り人形が、三人の前に姿を現した。
驚く三人を笑うかのように、その道化師風の操り人形は話し出した。
「ようこそ!からくりの館へ!今宵はあなた様方に心ゆくまで楽しんで頂きたく我らが最高のお持てなしをさせて頂きます!」
そう言って手を広げた操り人形の周りには、暗闇に紛れていた人形達の姿があった。
「どうやらおまえ達操り人形が我々の相手らしいな。」
青燕のその言葉に、操り人形達は表情を変えず、ケラケラと笑いだした。
「さて?あなた方のお力、まずは試させていただきましょう。」
道化師の操り人形が手を差し伸べると、一体の甲冑を着た人形が三人の前に躍り出た。
西洋の甲冑を身につけた操り人形はゆっくりと三人に向かってくる。
「阿砂!飛炎!所詮奴らは糸で操られている人形にすぎん!その糸をねらえ!」
青燕の合図と共に二人は人形の手足から伸びる細い糸をめがけ斬りかかった!
(シュッ!)
糸を切られた人形は支えを失ったようにその場に崩れる。
「造作もない!」
阿砂があまりにも簡単な結末に呆れて人形に近づいた、その時!
倒れた人形が、すっ!と立ち上がった。
「ホホホホホッ!まさかあなた達!我々が糸で操られた人形だとでも思ったのですか?」
道化師がそう言って笑い出すと、周りにいた全ての人形達が笑い始めた。
「どう言うことだ?!」
思惑がはずれた青燕達は、戸惑っていた。
ただ呆然と立ちつくす三人に先ほどの人形が洋刀を持って襲いかかる!
その動きはそれ程素早くは無いが、確実に三人をめがけ襲ってくる。
「ならば!」
意を決して斬りかかる青燕!
(カキーン!)
「何!?剣が効かぬ!」
何度と無く斬りかかる三人の攻撃が全く効かない!
「なんと堅い鎧!」
「ならば!」
青燕は手裏剣に火薬を仕込み人形めがけ投げつけた。
(ドーーーン!)
火薬の爆発で操り人形ははねとばされた。が!
何事も無かったように立ち上がる。
「ならばもう一度!!!」
三人は同時に火薬を仕込んだ手裏剣を人形めがけ投げつけた!
(ドドドーーーーン!!!)
さすがの甲冑を着た人形もその火薬の勢いに動きを止めた。
所々に亀裂が走り甲冑が割れている。
「あれは?!からくり仕掛け?」
驚く三人が呆然と動きを止めた人形の姿に見入っていたその時!?
「さすがにここまで来ただけの事はありますね。」
先ほどの道化師がまだにやけた顔をして笑っている。
「それでこそ!この館にふさわしい人間!それでは誠心誠意お持てなしをさせて頂きましょう!」
そう言うと道化師を除き、周りにいた全ての人形が一斉に三人めがけ襲いかかってきた!
「まずい!動きを止めていたのでは、奴らにねらい打ちされる!」
青燕のその声と共に阿砂と飛炎、三人は三方に分かれ戦い始めた。
素早い動きの者、巨体を持って突進してくる者、武器を持って襲ってくる者、操り人形達はまるで戦いを楽しむかのように、ケラケラ笑い声を立てて向かってくる。
三人は持てるだけの火薬を使い、一体、又一体と倒していくがその数は中々減らない。
「さて?何処まで持ちますかね。その火薬。」
道化師が必死に戦う三人を面白そうに見ながら笑っている。
「青燕!このままでは火薬がもたん!」
阿砂と飛炎の火薬はもう残り少なかった。
その時!青燕が部屋の真ん中に立ちまるで人形を誘うように怒鳴り始めた。
「人形どもよ!お前らごとき俺一人で十分!倒せるものなら倒して見よ!!」
その言葉に反応したのか人形達は一斉に青燕めがけ飛びかかってきた。
「秘術!青炎爆裂煙!!!」
青燕のその声と共に、青燕の体から一気に青い炎と共に火薬の爆風が周囲に向かって伸びていく。
強烈な熱と爆風に、青燕めがけ突進してきた人形達はその炎に焼かれ爆風に飛ばされる!
あたりは火薬と人形が焼けこげる匂いで一杯になった。
「どうだ!これが我が秘術!青炎爆裂煙!!!」
周囲には動けなくなった人形が幾体も重なり合って倒れている。
「ほーーーーーー!さすがにこれだけの人形を倒すとは、凄い!凄い!」
道化師はほとんどの人形を倒されながらも尚、笑っている。
「何がおかしい!残りは貴様一体のみ!」
青燕が勝ち誇るように道化師に向かって叫んだ!
その時!
(シュバッ!)
道化師の指が一瞬にして伸びたかと思ったその時、飛炎が胸を貫かれ倒れた。
「飛炎!!」
「馬鹿な人間!お前たちが倒したのはただの操り人形ですよ!はははははっ!」
道化師は倒された人形を指さし、笑いながら罵声を浴びせた。
青燕が倒れて燃えている人形を見ると、ほとんどが木で出来たただの操り人形だった!
「貴様!貴様が全ての人形を動かしていたのか!」
「今頃気がついたのですか?本当にあなた方人間はおろかですね?」
そう言っていつまでもにやけている道化師を見て青燕と阿砂は怒りに震えていた。
「仕方ありませんね?馬鹿なあなた達に教えてあげましょう。このからくりの館の意味!
この館は私の為だけにある私の部屋なんですよ!
周りにいるのは私が集めた、ただの人形!この私が楽しむためのね!!」
そう言って道化師は腹を抱えて笑い始めた。
「要するに貴様だけ倒せば良いと言うことなんだな。」
馬鹿にされながらも飛炎を殺された憎しみが青燕の体を震わせて居た。
「やっと分かったんですかぁ?やれやれ。でも?一つだけ教えておきますがあなた方のその剣では私は切れませんよ。せっかくの火薬ももう無いでしょう。ほんと!馬鹿ですね?!」
「それはどうかな?」
「おや?まだお持ちでしたか。でもあなたの秘術、もう私には通用しませんよ。
私はあなたに近づかなくてもこの通り!攻撃できますから。」
道化師はまるで勝ち誇ったように飛炎の体に指した指を引き抜き冷たい笑いを見せていた。
「貴様!」
怒りに我を忘れ、青燕が道化師めがけ斬りかかった。
(ドカッ!)
斬りかかった青燕だったが道化師の伸びた手がいともたやすく青燕を壁に叩きつけた。
「やれやれ。無駄だって教えたでしょう。本当に人間って馬鹿ですね?」
壁に叩きつけられ気絶している青燕を見て阿砂は押さえていた怒りを爆発させた!
「おのれ?!」
阿砂は道化師めがけ斬りつける。
だがその切っ先は道化師に届かず逆に伸びてきた指で胸を一撃される!
(ドカッ!)
貫いたと思った道化師の指は、阿砂の身につけていた甲冑にさえぎられた。
「何?」
道化師は自分の指が貫けなかった事に驚いているようだった。
飛ばされながらも阿砂はきびすを返し、道化師をめがけ斬りかかる。
素早い動きで斬りかかってくる阿砂に道化師は遊ぶように次々と阿砂の剣を交わしていく。
「やれやれ。その程度の動きで私を倒せるとでも思っているのですか?」
そんな道化師の言葉など耳に入らぬかの様に阿砂は疲れた体とぼろぼろになった剣で尚、斬りつけていく。
だが、その阿砂を道化師は一気に払い飛ばした。
剣もろとも壁に叩きつけられる阿砂。
「なんだか面白く無くなりました?そろそろお仲間の所へ送って差し上げましょう。」
道化師は薄ら笑いを辞め、壁に叩きつけられ倒れた阿砂めがけ全ての指を伸ばした時!
「うっ!?」
道化師の体が止まった。
「何?」
後ろから青燕が道化師の体を押さえ込んだ!
「阿砂!逃げろ!」
その青燕の動きを見て阿砂は自爆覚悟で道化師の動きを止めたことを悟った!
「青燕!!!」
「人形野郎!貴様も至近距離で火薬を使われちゃ防ぎようも無いよな!」
「人間!放せ!放せ?!」
後ろから羽交い締めにあっているさすがの道化師も身動きとれず焦りを感じている。
「阿砂!みんなに宜しくな!!」
「青燕!!!!」
その瞬間!青燕が最後の青炎爆裂煙を使い道化師もろとも自爆した!
(ドーーーーーーン!)
凄まじいほどの衝撃があたりを吹き飛ばしていた。
「青燕!!!!!!」
むなしく響く阿砂の声。
しかし、もうこの館には動くものは居なかった。
阿砂の他には・・・・・。
その頃、第二の関門・魔鏡の館の中では、ジュハとあまめが苦戦していた。
至る所に鏡が張り巡らされ、出口の見えない迷路に迷い込んでいた。
「ジュハ、このままでは敵を倒すどころか、この通路からも抜け出せないぞ!」
「あまめ!落ち着いて。必ずどこかに出口はあるわ!」
「でもなんか俺達、同じ所をぐるぐる回ってないか?」
二人は、至るどころにある鏡のせいで、完全に方向を失っていた。
「もう!我慢できない!こんな鏡割ってやる!」
そう言うとあまめは自分の銛で鏡を割り始めた。
しかしいくら割っても鏡は何処までも続いている。
「ジュハ!お前のバジュラで何とかならないのか?!」
ジュハも何処までも続く鏡に絶えきれず、バジュラを使って鏡を割り始めた。
その時どこからともなく声が聞こえた。
「愚かな人間ども!わらわの魔鏡、いくら割っても無駄な事よ!」
「貴様?!こそこそ隠れてないで出てこい!!」
「ほほほほほ?!わらわは逃げも隠れもせん!」
突然、鏡に映し出された女!
妖艶なその白き顔に真っ赤な一文字の口を歪ませて笑っている。
「てめぇ?!」
あまめがその女めがけ銛を投げつけるが、鏡が割れるだけだった。
何度も何度も繰り返すが、ただ鏡が砕ける音が響くだけ。
「おやおや、もうお終いかえ?」
その言葉に踊らされあまめは力任せに鏡を割っていく。
だが、いくら割っても鏡は減らない。むしろ増えている様にも感じていた。
「あまめ!待って!」
ジュハのその声にあまめは動きを止めた。
「このままでは埒があかないわ。」
「じゃ!どうすりゃいいんだ!!」
「もう終わりかえ?ならばわらわの方から行くぞえ!」
そう言うと、粉々になり地面に散らばっていた破片がフワッと宙に浮いた。
「ジュハ!気をつけろ!」
その時!宙に浮いた鏡の破片は、二人に向かって襲ってくる!
「危ない!」
その破片をかろうじてよけた二人だったが、交わした鏡の破片は別の鏡に当たりその鏡を割った。
更に破片の数は増え、二人めがけ飛んでくる!
何度と無く交わすが、その都度破片は鏡を割りその数をドンドン増やしていくだけ。
「ちきしょう?!どうすりゃ良いんだぁ?!!!」
逃げまどう二人を、無数に増えて行く鏡の破片が襲う!
「逃げても無駄なこと!無数の破片に切り刻まれここで死ぬが良い!!」
妖艶な白き顔の女は益々真っ赤な口を歪ませ笑っている。
「てめぇ?!姿を現して戦ったらどうなんだ!!この?卑怯者!!」
あまめの罵声に、くっ!と口を歪ませ、女は突如二人の前に現れた。
「下素なおんな!わらわを卑怯者呼ばわりするとはゆるさぬぞ!!」
「へっ!鏡に隠れてこそこそしてるてめぇ?なんざ!弱虫の卑怯もんよ!!」
あまめの口の悪さにさすがの女も鬼の様な形相になり怒りを露わにしていた。
「その侮辱!ただではすまんぞ!!」
怒りに狂った女は、鏡の破片を剣の様に変化させ、あまめめがけ斬りかかってきた。
(カキーーーン!)
その剣をあまめは銛で受け止めた!
「ジュハ!今だ!」
その合図で、ジュハはバジュラの力を女に向けた!
「はっ!」
バジュラの光は女めがけ飛んでいく、が!!
光は女を通り抜けた!!
「何?!」
折角の二人の作戦もこの女には通用しなかった!
「ほほほほほ?!そんなものでわらわが倒せるとでもおもったか!!」
困惑する二人を、鏡の剣が襲う!
「てやっ!」
「はっ!」
「ほほほほ?どんなに交わしてもお主らの力が尽きるまでその剣は追いかけるぞ!」
勝ち誇ったように女はその真っ赤な口を益々歪ませて笑っている。
どんなに交わしても跳ね返しても襲ってくる鏡の剣に二人とも疲れが見えてきた。
『どうすれば・・・どうすれば・・・・』
襲ってくる剣を交わしながらジュハは考えていた。
『どんな敵であろうとも必ず弱点はあるはず。しかし・・・・』
「あまめ!お願い!少しの間私を守って!」
ジュハには何か考えがあると、あまめには分かった。
「よっしゃー!」
印を結び真言を唱え始めたジュハを、あまめは必死に守る。
「ほほほほ?一人でいつまで持つかな?どんな事をしても無駄なこと!素直にやられておしまい!!」
「うるせ?!このくそババァ?!!」
「くっ!くそババァ?!?!!!この?小娘め!!」
ジュハは気を追っていた。
『飛び交う鏡の剣はどこかに居る女の念で動かしている!その念を追えば・・・』
「そこかー!!」
ジュハは念の集まる一点、一枚の鏡に向かってバジュラを投げつけた!
「ぎゃーーーー!!」
その声と共に、あまめの前に居る女がバジュラを受け苦しみだした。
「あまめ!その女の本体はあの鏡よ!あの鏡の女を狙って!!」
「分かった!ジュハ!!」
あまめはジュハが指さす女が写っている鏡に向かって銛を力一杯投げつけた!
(ズバッ!)
あまめの銛は女の腹を突き刺した!
「おっ・・・おのれ人間・・・・・」
そのとたん!その鏡は粉々に割れ、目の前の女も粉々に砕け散った。
女が倒された為、崩れ行く鏡の館を二人は後にした。
こうして二つの関門は、二人の命を失いながらも突破する事が出来た。
残るはただ一つ。京と希望が向かった《心眼の館》のみ。
だが、その心眼の館では、京と希望の二人は、暗闇の中に居た。
暗闇の中を只ひたすら歩いていた。
何処まで行っても何もない暗闇。
外から見たときはそれ程大きく感じなかった心眼の館。
扉にもなんの仕掛けもなく、まるで二人を受け入れるかの様に扉が開き二人は中へ入った。
扉が閉まると、真っ暗な闇が何処までも何処までも続いていた。
「京ちゃん!どう言うことなんだろう?何処にも敵らしき奴も居ないし何処まで行っても出口、見あたんないよ!」
「私にも検討がつかない。なんの気配もなく、只暗闇が続くだけだ。」
京は精神を集中して周囲の気を探っていた。
だが、何一つ感じられない。悪しき気配もこの暗闇には存在しない。
そう!ただ暗闇が二人を覆っているだけ。
全く方向さえ分からない状態に二人は居た。
『どうすればここから出られる?何が目的でこの館はつくられて居るんだ。』
京は心の中でずっと考えていた。
希望はそんな京に只ついて歩くだけ。
ふっと立ち止まり、何かを思いつき京は紫炎を抜いた。
「希望、少し下がっていろ。」
希望は京の言うがまま少し距離をおいた。
なにやら剣に念を込め始めた京は、貯め込んだ念を一気に放つよう魔剣を振りかざした。
「はっ!」
魔剣《紫炎》から凄まじいほどの紫の光となって京の念が飛んでいく。
だが、その紫の光も暗闇に飲み込まれ、何も無かったかの様に静まりかえる。
京は続けざまに魔剣を振りかざし、四方に念を飛ばした。
だが、京の試みもむなしく、紫炎の光は暗闇に吸い込まれていくだけ。
「な?んも、おきないね?」
希望の退屈そうな声を聞いて、京も落ち込む自分を感じていた。
「京ちゃん!そうガッカリした顔しないでがんばろう!」
希望の自分を励ますその言葉に京は、はっと、する。
「お前!今私のガッカリした顔と言ったな?」
希望は京の言葉を不思議そうに聞いている。
「うん、言ったよ。だってガッカリした顔したじゃん!」
京は思った!
『何故気がつかなかった!光の無いところで何故お互いの姿が見える!?
普通なら真っ暗な中お互いの姿さえ見えぬはずでは無いか!』
「希望!お前この暗闇で何故、私の姿が見えると思う?」
京のその質問に希望は戸惑った。
「何故って言われても見えるんだもん!それにずっと京ちゃんの気も感じていたし」
『そうか!』
京は希望のその言葉で何となく理解した!
『この館は存在そのものに疑いもなく受け入れる者だけが見ることの出来る世界・・・』
「希望!ここには敵は居ない!居るのは私とお前だけだ!」
「えっ?!どう言うこと?」
「つまりはじめからお前と二人だけがここにいる。そしてここが闇だと思って居るからいつまでも闇の中なんだ!要は心から信じている事だけが見える世界。」
「良くわかんない?」
「じゃ、良いか、目の前に出口があると思え!一切の疑いを捨てて出口の存在を信じろ!」
「・・・・う?ん??わかんないけどやってみる!」
そう言うと京と希望は目をつぶり出口を探すのではなく、目の前にあると信じる様に心から思い目を開けた。
「あっ!」
二人の前に今まで暗闇だけしか無かった空間に出口が見えた!
「行くぞ!」
「うん!」
二人がその扉を開けて外に出ると、館があったその場所には只歩いてきた道だけがあった。
「よくぞ関門をくぐり抜けてきたな。」
信長はその様子を見て、笑っていた。
「信長様?」
蘭丸には分からなかった。信長の考えが・・・・・・。
「ジュハ!あまめ!それに阿砂!」
三人の姿を見つけた京は、阿砂と共に入ったはずの青燕、飛炎の姿がないことを知ると何も言わず、阿砂の肩を抱いた。
ジュハ、あまめ、希望もその姿を見て又大事な仲間を失ったことを知った。
だが、彼女らには立ち止まっている事は出来ない。
死んでいった仲間達の為にも進まなければならないこと誰もが知っている。
「進もう。」
京のその言葉に従い今は先を目指す五人だった。
五人は、一本に繋がった道を歩き始めると一つの扉に行き着いた。
「ここが最後の鬼・信長が待つ本丸か。」
扉は五人が開こうと手を添えると、自ら開き始めた。
「ようこそ!我が城本丸へ!」
信長が五人の戦士を石で出来た玉座に座り、待ちわびたかのようにこちらを見ている。
「貴様が信長か?!」
信長を前にして五人は構えた。
「そう構えることもない!儂は戦うつもりなど無いぞ!」
「どういうおつもりですか?!」
蘭丸がその言葉に呆気にとられ信長を問いただす。
「貴様!どう言うことだ!」
京も又、蘭丸のように信長の言葉に耳を疑った。
「儂は百年待った。この本丸に辿り着く人間を。そしてやっとおまえ達が辿り着いた。」
「待って居ただと!?」
「そうだ!儂はこの百年、おまえ達のような心を持った者達をな。」
「信長様!まさかあなたはあのお方を裏切るおつもりですか!?」
蘭丸は信長の信じられない言葉に思わず刀に手をかけた。
それを見た信長は、氷の様に冷たい目で蘭丸をにらみつける。
「話を続ける前に、約束通り娘を帰そう。蘭丸!」
蘭丸は不服そうな顔をしながらどこかへ消えていった。
その間、信長は静かに目をつぶり咲耶が来るのを待っている。
『どう言うことだ!?この信長と言う鬼、まるで邪気が感じられない・・』
ジュハも京と同じように信長からは、悪しき気を感じることが出来ず当惑していた。
すると蘭丸が二人の人間を連れて戻ってきた。
「紅蓮ちゃん!!」
希望は咲耶と共に居る鬼の姿をした紅蓮を見て何がなんだか分からなくなっていた。
「希望!お前の知っている奴か?」
「うん!京ちゃんと出会ったあの峠で、私とさっちゃんを逃がすために一人死人に向かって行ったの。」
「みんな!」
咲耶が京や希望、ジュハ、あまめ、阿砂の姿を見つけ駆け寄ろうとした。
だが、蘭丸に腕を捕まれ身動き出来なくなってしまった。
「蘭丸!その娘を離してやれ!」
「しかし!殿!・・・」
信長のその言葉に蘭丸は逆らえない。
蘭丸が手を離すと咲耶は五人の元に駆け寄った。
「みんな!」
「咲耶!」
「さっちゃん!」
「咲耶様!」
「咲耶!」
「咲耶殿!」
五人が自分の名を呼ぶのが咲耶にとって何よりもうれしかった。
その光景を眺めていた信長が口を開いた。
「では話そう!」
そう言って信長はおもむろに立ち上がる。
「儂はこの百年、おまえ達のような人間が来るのをずっと待っていた。」
京がその言葉を疑うように信長を凝視している。
「そう!わしはずっとこの日の来るのを待ちわびていた。永遠の命を持ちながら儂にはもはやなんの望みも無い。ただじっと己の無限とも言える時を待つだけだった。」
鬼神とまで言われた信長のその言葉に、蘭丸は自分が悪い夢でも見ているかの様に呆然と立ちすくみ信長のその声を聞いていた。
「待っていた?!この世を戦と疫病で民衆を苦しめ我々を自滅の道へ導いていた貴様ら鬼が待って居ただと!!ふざけるな!!」
京の鋭い眼光が信長をじっと見つめ今にも斬りかかろうとしている。
信長は京の鋭い眼光に臆することなく話を続ける。
「鬼か・・・・確かに我々は貴様らから見れば人を食らう鬼に見えるだろう。
だが、われわれ鬼とて元々は貴様らと同じ人間だった。確かに百年もの長い時を戦いに明け暮れていた。全ての人間を巻き込んでな。
戦いを望み、ある方からこの力を授かった時から我々は自ら鬼への道を進んで居た。
確かに我々は人間を操り、戦わせた事もある。だが人間は自らも戦いを望み、その戦いが次の戦いを呼び、まるでわしら鬼のように人を殺すことなど何とも思わぬそんな人間も居る。そんな人間とわれわれ鬼と何が違う!」
その言葉に咲耶達は言葉を失った。
「人間は戦いを繰り返しそして今の歴史を作ってきた。戦いとは人間にとって必要不可欠でありその戦いが文明を築いてきた。そうはおもわんか?」
「確かにわれら鬼には人間が持たぬ力がある。だが人間にも貴様達のように鬼以上の力を持つ者とて居るではないか!そんな人間と鬼、何が違うと言うのだ!」
その信長の言葉を聞いていた咲耶はきっぱりと答えた。
「違います!確かに人間も戦いを好む者、殺しを望む者も居ます!でもそんな人の中にも平和を望み日々の暮らしを精一杯生きている者だって居るのです!だからこそ私たちは戦ってきた!先の見えぬ戦いを終わらせるため!」
咲耶のその言葉を聞きながら信長は、笑顔を見せて聞いていた。
「そうだ!その通り!人間には戦いを好まぬ者もいる!だがそんな事も分からず我々は只ひたすらこの百年、戦いを繰り返し戦いを広めてきた。 なんの為だと思う?ただ戦いが好きだからだと思うか?人間を支配するためだと思うか?
支配するためなら簡単な事だ。
百年もかからず世界を支配することくらい簡単な程我々には力がある!」
信長の言葉は戦いだけを好む鬼の言葉では無かった。
「では!なんのため我々人間を苦しめる!」
信長はため息の様な物を吐き話を続ける。
「では聞こう!おまえ達のその力どこから得た!?」
信長の突然のその問いに咲耶達は答えることが出来ず只信長を見つめていた。
「おまえ達のその力、人を思いやり人を信じそして自らを犠牲にしてまで戦ってきたその中から生まれたのでは無いのか!」
その答えに咲耶達は絶句した!
『確かに多少の霊力は持っていたとは言え、今ほどの力を持ったのはこの旅を通し戦いの中から得たもの。戦いが無ければ今の自分たちのような力も無かった。』
咲耶達はそれぞれ自分が戦ってきた苦しい旅を思い出していた。
信長は尚も話を続ける。
「おまえ達が呼ぶ悪しき気、それとて我々の力では無い!人間同士の戦いから生まれそしてこの世を覆っていたのだ。人を憎み戦いを続けた人間達が自ら作り出したもの。われわれ鬼は只、その力を利用したに過ぎない。」
あまりの信長の言葉に咲耶達だけでは無く、蘭丸さえも驚愕していた。
「では人間は自ら招いた悪しき気と戦っていただけだと?」
「そうだ!だからこそ終わらせることが出来るのも人間!われわれ鬼には自らの命を絶つことなど出来ぬ!そう創られた!だからこそ貴様らの様な者達を、わしはずっと待っていた!」
その話をじっと傍らで聞いていた蘭丸が剣を抜く!
「信長様ともあろうお方がその様な戯言を申すとは、ご乱心遊ばせたに相違ありません!
ならばあの方の為、この蘭丸の手で葬るが主君への忠義!!」
そう言うと蘭丸は信長めざし斬りかかった!
(ドスッ!)
信長は全くよけようとせず、蘭丸の剣に身を任せた。
「信長!!」
突然のことに咲耶達は動けなかった!
「馬鹿な蘭丸よ。そなたはわしが創った只の人形にすぎん!わしが死ねばそなたも消え失せるのだぞ。」
だが、信長は蘭丸に殺されることを望んでいたかのように微笑んでいた。
「貴様ら!良く聞け!わしはもうすぐ消え失せる。だがわしが消えてもまだあのお方がおまえ達を待って居る!行け!この玉座を壊し真の敵と会うが良い!」
「信長!!」
信長は石で出来た玉座を指さし消えゆく体で咲耶達に言った。
「未来はそこにある・・・・・」
そう言って信長と蘭丸は消えていった。
その瞬間、傍らにずっと人形の様に立ちつくしていた紅蓮はその力を失いその場に倒れた。
「紅蓮!!!」
咲耶と希望は倒れ行く紅蓮の元へと走った。
「紅蓮!!」
咲耶に抱かれ意識が薄らぐ中で紅蓮は、正気を取り戻していた。
「咲耶様。希望様。ご無事で何よりです。これで安心して兄の元へ行けます。」
「何を言うの!気をしっかり持って!」
「紅蓮ちゃん!約束忘れたの!」
薄れ行く意識の中紅蓮が二人にほほえみかける。
「希望様。泣かないでください。泣かれては私は兄の元へ行けませぬ。」
鬼として生き返った紅蓮は、信長の死と共にその力を失い消えて行くのみだった。
泣きじゃくる希望と咲耶は消えゆく紅蓮の体を必死にとどめようとしていたがそれは無駄な事だった。
「姫様達。紅蓮はすでに死んだ身。最後に涙では無くいつもの笑顔を見せて貰えませんか・・」
紅蓮の最後の望みを叶えようと咲耶と希望は必死に笑顔を作るが止めどなく流れる涙はどうしようも無かった。
その時!咲耶の持つ宝玉《癒す星》が光を放ち砕け散り紅蓮の体を包んでゆく。
鬼として生まれ変わった体が徐々に人間の姿に戻って行く。
「姫様・・・」そうつぶやく紅蓮の顔は紛れもなく、咲耶と希望が知る優しく自分たちを守っていてくれた紅蓮その者だった。
だが紅蓮は静かに目を閉じ、深い眠りについた。
泣きじゃくり紅蓮の体にすがりつく咲耶と希望を残し。
そっと咲耶と希望の肩を抱き京が声をかける。
「最後に彼女は人として死んだんだ。そんな彼女を静かに見送ってやれ。」
二人は京の胸で泣いた。
「紅蓮。ありがとう・・・・。」
「紅蓮ちゃん・・・・・。」
二人は安らかな顔で眠る紅蓮に別れを告げ立ち上がった。
今この場にいる6人、いや!今は安らかに眠る紅蓮を含め7人!
全員の念を込めた最後の一撃が玉座に向けられる。
(はーーーーーーーっ!!!!!!)
全員のかけ声と共に念は一つとなり、石で出来た玉座もろともその後ろに隠された扉を吹き飛ばした。
「ここに全ての秘密があるのか・・・・・」
そう言って生き残った6人の戦士は全ての謎を知る【あの方】と呼ばれるものが待つ部屋へと歩き出した。
絵巻その六「最後の鬼?そして真実」終わり。
絵巻その七「終焉?そして・・・」へ続く。
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■幽幻戦国絵巻?せぶん |
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■絵巻その五【決戦?そして集結】
八百比丘尼は総本山・八主真殿、霊堂で気の流れを読んでいた。
清き心の波動が、紫の光となって魔を払うイメージとなり比丘尼の脳裏に映し出される。
咲耶達が尾張で敵を倒したことにより、魔の本拠地とも言える魔の森を隠していた関東一円に広がる悪しき気の流れが消え去り、今は比丘尼の霊波動がその存在を確かな物と認めていた。
尾張は魔の本拠地を隠すべく作られた霊的結界の役目を果たしていた。
今その結界が咲耶達の活躍により破られ、その姿を現す事となったのだ。
「これで我々にも影ながら力を貸すことが出来ますね。」
八家衆当主らは、自らの使命を全うすべき陣形をとり比丘尼の命を待っている。
「今我々に出来ることは、我らの念を一つの念とし敵の本拠地に向け放ちその力を出来る限り弱める事だけです。我らの命が続く限り。」
八家衆当主らは、己の使命を全うすべく座に着いた。
「それでは参る!」
「御意!」
比丘尼の号令と共に八家衆奥義・《破剛の陣》がとられた。
その念は、魔の森へと向かい何度と無く念の雷光となり悪しき力を打ち破らんとしていた。
だが、悪しき力は強く攻撃の全てをまるであざ笑うかの様に黒き闇を震わせていた。
「あれは?」
普通の人間には見えないその戦いを目にし、希望がつぶやいた。
「八家衆・破剛の陣、八家衆当主らの攻撃が始まった様です。」
魔の森を前にしてその光景を見た咲耶が一行に説明していた。
「しかしその力を持ってしても払うどころか、全く弱まる気配さえしないとは・・・」
その凄まじき念を目のあたりにして、仏教国の一団は敵の力が自分たちの想像を超えた計り知れない力であることを改めて思い知らされた。
「我々の力で倒すことなど出来るのでしょうか?」
仏教国一団のその言葉に、咲耶は想像しがたいその戦いを前に自らの覚悟を言葉にした。
「私たちがやらなければならないのです。」
「咲耶さんの言う通り、我らの命を懸けても倒さねばならない敵なのです。」
そう言うとジュハは咲耶同様、自らの運命を受け入れ気持ちを新たにしていた。
「ここからはどんな敵が現れるか分かりません。秀吉以上の力を持った魔が待ち受けて居ると思われます。心して進みましょう。」
青燕のその言葉と共に咲耶、希望、京、ジュハ、あまめ、仏教国一団そして伊賀忍、総勢25名の戦士が魔の森と化した甲府と呼ばれている森の入り口へと進み始めた。
「猿め!口ほどにもない!」
甲府の鬼が吐き捨てるように秀吉の一部始終を見ていた。
「しかし、あの娘の力、侮れませんな。」
「戦鬼ともあろう物が、たかが人間の娘一人に臆したか。所詮貴様も猿同様、小心ものぞ!」
「なんだと!力任せしか知らぬ甲府の山猿の分際でその言葉無礼であろう!」
千鬼を率いる今川義元が甲府の鬼の侮辱を受け、目をつり上げて怒りに震えていた。
「いや、義元の言うことにも一理あるな。」
何処からか声がしたと思うと、もう一人の戦鬼が二人の鬼を前にその姿を現した。
「これはこれは、お珍しい。さては自分の部下の失態を恥じて鬼神とまで言われたそなたが直々に姿を現すとは。ホホホホホ」
義元のあざ笑うかの様な嘲笑を受け、鋭い眼光でにらみ返す鬼神がそこに居た。
「まぁよいわ!我が領土に入って来たからには、我が甲府の力で蹴散らしてくれようぞ!」
甲府の鬼がその巨体をうち振るわせ高笑いを響かせながら闇へと消えていく。
「まぁ、良かろう。甲斐の力、得と見せてもらおうぞ!」
そう言うと二人の戦鬼も闇へと消えていった。
咲耶ら一行は周囲を警戒しつつ徐々に魔の森へと分け入った。
「それにしても凄まじいまでの邪気ですね。」
体の周りをはいずり回るようなその邪気を浴びて、さすがの伊賀忍達もたまりかねていた。
「確かにこれだけの邪気を浴びてまともで居られる者などそうそう居ないでしょう。」
咲耶のその言葉にジュハも同様に感じていた。
「あまめ、大丈夫ですか?」
伊賀忍と同じように苦しそうにしている、あまめを見てジュハが心配そうに話しかける。
「あぁ、何とか大丈夫だよ。みんなと居るせいか、威圧感は感じるが我慢出来ない程でも無いよ。」
何度と無く海の上で困難を乗り越えてきた、あまめにも強い霊力が養われているのだとジュハは感じていた。
このままでは邪気の威圧感だけでも体力を奪われると思い、仏教国一団が周囲を固め不動明王の真言を唱え始めた。
「ナゥマクサンマンダバザラダンカン!・・・・・・・・」
仏教僧らの真言が効いたのか、粘り着くようにまとわりついていた邪気が、すっと軽くなりあまめや伊賀忍達は、体の悪気から解き放たれていた。
ジュハもバジュラ(金剛鈷)に念を込め、前方を塞ぐように渦巻く悪しき気を払いのけ一行は前進を続けていた。
その時、甲府の鬼・甲斐の武田が彼らを待ち受けるように、小高い丘に布陣を敷いていた。
先鋒に獣魔となった獣たちを配し、その後方に甲斐の武将らが悪しき気を纏い鬼の形相で咲耶達が来るのを待っていた。
京は自分たちの前方に広がる鬼達の気配を戦いの中で培われた、感とも言うべき物で捉えていた。
「前方に強い殺気を持って待ち構える物が居るようだな」
伊賀忍・青燕も同じようにその気を感じていた。
「どうします?この敵は真っ向からの戦いを望んでいるようですが。」
「このまま進むしかあるまい。下手な動きをすれば、悪しき気が邪魔をしてこちらが不利になる。」
「それに伊賀の忍びといえども、この気をまともに受けながら戦うのは自らの首を絞めるような物
幸い我らには仏教僧の念によって守られている。その形を崩さず中央を突破するのが一番と考えるが。」
伊賀忍以上の修羅場をくぐり抜けてきた戦いの感とも言うべき物を持つ京の眼力を信じるしか今の一行には術が無かった。
「分かりました。京殿の戦法でこの場を切り抜けましょう。では我々は仏教僧の方々と組を作り周囲を固めます。」
青燕がそう言うと一瞬にして伊賀忍らは各々配置につき戦いに備えた。
その動きを待っていたかのように、甲斐の武田、信玄が動いた。
「獣たちよ!行け!」
「グワォー!!」
獣たちは我先にと咲耶達一行へと突進していく。
「来たぞ!気をつけろ!」
その動きを察知し京が全員に声をかける。
あっという間に一行は魔の獣と化した魔獣達に周囲を囲まれた。
だが、魔獣と言えど、仏教僧が張る念の壁に阻まれ襲いかかっても跳ね返されてしまう。
その念を通してジュハのバジュラが炸裂する。
バジュラの攻撃を受け、さすがの魔獣も次々と倒されていく。
だが、その数は一向に減らない。
次々と突進してくる魔獣達、倒されても倒されても次々と新しい魔獣が攻撃を繰り返す。
一進一退を繰り返す、その戦いに業を煮やした信玄は、配下の武将達に号令をかける。
「えっぇっいぃ!!!!怯むな!」
その声に反応したのか魔獣達の攻撃が益々激しさを増していく。
「このままでは僧達の体力が持ちません。策は無いのですか?!」
仏教僧の疲れを察したのか、咲耶は京に訴えかける。
「分かった!私が突破口を開く!その後に続け!」
そう言って飛び出そうとする京を青燕が止めに入った。
「一人では危険です!私も同行致します!」
先ほどまで青炎弾で応戦していた、青燕が自ら名乗りを上げた。
「じゃ!私も行く!!」
二人の会話を耳にして希望が龍金闘を身構えていた。
「お前・・・・」
「私だって八家衆が一人!十分戦えるよ!」
真剣な希望の顔を見てさすがに京も『だめだ!』とは言えなかった。
「分かった!三人で道をつくる!その後に他の者は陣形を保ちながら続け!」
全ての者がうなずくのを見て、三人は素早い動きで結界の外へと飛び出し前方を塞ぐ魔獣達に向かっていった。
(シュッ!)
京の魔剣の一振りで、何十と言う魔獣らが倒れた。
「はっ!」
青燕が青炎爆裂煙を身に纏い周囲に近づく魔獣を焼き尽くす。
「はっ!おりゃ!てやっ!」
希望も負けじと龍金闘を振り回し魔獣を蹴散らす。
三人はまるで獲物をかる野獣の様に凄まじい勢いで前方の魔を払っていく。
「凄い!京さんと言い、青燕様と言い、まるで初めてあった時とは別人の様に霊力が強くなっている」
その凄まじいまでの力を目のあたりにして咲耶は驚愕していた。
それにも増して驚きを覚えたのは、希望の戦いであった。
希望が操る龍金闘がまるで、生き物の様に凄まじい程の霊気を帯び、魔を払っている。
『秀吉との戦いが、霊力を一気に高めたとしか考えられないわ。まるで桁が違う。』
咲耶は見違えるほどの霊力を見せている三人を見て、ただただ驚くばかりであった。
「ならば私の霊力も高まっているはず。今なら破剛の術を仕えるかも知れない・・・」
そう言うと、咲耶は印を組み、真言を唱え始めた。
「臨!兵!闘!者!皆!陣!裂!在!前!破邪!!!!」
その瞬間!咲耶の周囲に金色の光が発したと思うと、一瞬にその光は印を結ぶ咲耶の両手に集まり、光の固まりとなって前方の魔獣めがけて飛んでいった。
(ぴかっ!)
光は魔獣に命中すると光はまるで魔獣を飲み込むように大きさを増し周囲の魔獣達を一瞬にして消し去っていた。
「すっ!凄い!」
その攻撃を見ていたジュハがあまりの凄まじさに唖然としていた。
それは皆も同じ思いだった。
今まで戦いには不向きと感じていた咲耶が、今まで倒してきた魔獣の数さえ問題にならないほどの敵を一瞬にして消し去ってしまったのだから。
咲耶自身もその力に驚いていた。
「こっ!これが私の力??」
自分に備わった戦う力に驚愕しながらも、戦いに加わることが出来た事に咲耶はうれしさを覚えていた。
『これでみんなの力になれる!』そう心で叫びながら、咲耶は又印を組み真言を唱える。
「臨!兵!闘!者!皆!陣!裂!在!前!破邪!!!!」
咲耶の放つ気の力は次々に敵を打ち払い圧倒的な力を見せていた。
「なんと言うことだ!あんな小娘にあのような力が・・・・」
あまりの事に信玄も苦渋の色を隠せなかった。
「えっぇっいぃ!こうなれば野獣どもに任せてはおけん!我が真の力見せてくれようぞ!!」
どっしりと山の様に構えていた甲府の鬼・武田信玄も配下の者が倒れていく姿に全軍を持って倒すべき強敵と認めざる負えなくなっていた。
「幸隆!!真田幸隆はいるか!!」
信玄が叫ぶとまるで闇の中に紛れる影の様に、真田幸隆と呼ばれる一人の鬼が姿を現した。
「御意!真田幸隆ここにおりまする!」
「幸隆!そなたの力借りるぞ!」
「御意!お館様の御心のまま!!」
そう言って真田幸隆は暗闇に消えていった。
咲耶一行と野獣の戦いは終わりを告げようとしていた。
京、青燕、希望三人の働きとそれ以上に咲耶の力が圧倒的に野獣らを上回っていた。
ほとんどの野獣どもを蹴散らし一行に気のゆるみが生じたその時!
(シュッ!シュッ!)
何かが飛び交う音がする。
(シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!)
どこからともなく聞こえる何かが飛び交う音。
「うっ!動けん!」
仏教僧達が突然動きを止めた。
「どうした!?ジャハムド!!」
そう言って振り向いたジュハの体も突然何かに縛られたように動けなくなっていた。
その時、どこからともなく動きを止めた仏教僧めがけ、何かが飛んでくる。
(バシュッ!)
その音と共に動きを封じられていた仏教僧の一人の体が一瞬にして切り刻まれていた。
「なに!??」
その異変に気がついた、阿砂は青燕に自らの疑問を投げかけた。
「これは?!甲賀の・・・・」
青燕は阿砂の言葉に全てを察していた。
「これは甲賀の忍術・糸妖の術!!何故甲賀の術が・・・」
その時どこからともなく何者かの声が聞こえた。
「フフフッ!青燕!まさかこんな所で出会うとはな。」
聞き覚えのある声に青燕は自分の耳を疑った。
「甲賀の柳戒!何故お前が!?」
「フフフッ!確かにそんな名前の忍びが居たなぁ?青燕よ。」
「柳戒!貴様!敵に寝返ったのか!?」
「寝返った?我々は強い者を選んだだけの事!戦国の世に生きる者として当然の事をしたまでよ!」
「貴様ほどの者が魔に寝返ったとでも言うのか!柳戒!」
「問答無用!!!」
そう言うと甲賀の忍び、今は甲府の鬼の配下となった甲賀衆が一斉にその刃を咲耶一行に向けた。
(シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!)
(シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!)
四方八方から飛んでくる見えない攻撃。
だが、その攻撃は仏教僧達を狙って確実に動きを封じていく。
「ぐはっ!」
その叫びとも悲鳴ともとれぬ声を上げ、又一人又一人と仏教僧の体を切り刻んでいく。
「このままではやられる!走れ!」
仏教僧の悲鳴を聞きながら残った者は必死にその場を離れた。
逃げる一行を執拗に追いかける甲賀の攻撃。
又一人、又一人とその術中にはまり命を落としていく。
「このままではらちがあかない!阿砂!打って出るぞ!」
その青燕の言葉に伊賀忍達は四方へと散り、森の中から攻撃してくる甲賀の姿を探した。
「はっ!」
阿砂の手裏剣が宙を切る!
伊賀忍達も必死に気配のする闇に向けて手裏剣を飛ばす。
だが、甲賀もそう簡単には姿を現さない。
忍びと忍びの技が魔の森を駆けめぐる。
忍者同士の戦いが続く中、咲耶達も残りわずかとなった魔獣と戦っていた。
『このままでは離ればなれになってしまう』そう思った青燕は、伊賀の忍び達を呼び寄せ円陣を組み、自ら甲賀の的となるべく策をとった。
『馬鹿め!わざわざ標的になるとは。ならば望み通り一気に片を付けてやる!』
甲賀の柳戒は嘲笑うかの様に青燕達を包囲した。
「今だ!」
青燕はその時を待っていた。
青燕の合図で、伊賀忍衆による火炎封殺の術が放たれた。
周囲の森を一瞬にして火の海と化し、暗闇に隠れていた甲賀の姿を照らした。
その一瞬にかけ伊賀忍達は一斉にその姿を見つけ攻撃に転じた。
その戦法は成功したかに見えたが、斬られ地面に落ちた甲賀衆は、まるで何事も無かったように立ち上がる!
「なに!?」
伊賀忍達はその成り行きを見て悟った。
彼らも又死人となり、魔物となっていたのだ。
その時!京が魔剣《紫炎》を使い死人を倒していく。
「おまえ達では無理だ!後は任せろ!!」
そう言うと京は伊賀忍の攻撃を受け地面に落ちてくる死人と化した甲賀衆を魔剣の力で倒していった。
「かたじけない!」
だが、死人とは言え、甲賀衆も伊賀忍に引けを取らない強者揃い。
両者の戦いは五分と五分。
その戦いの行方は誰にも分からなかった。
影と影の戦いは、時折見せる剣と剣がはじける火花と剣音のみ。
だが勝敗は決したようだ。
魔の森に静けさが戻り、魔獣との戦いを終えた咲耶達の元へ伊賀忍達が戻ってきた。
だがその勝利には多くの仲間の命という代償を払っていた。
魔獣との戦い、甲賀衆との戦い、その戦いに残ったのは咲耶、京、希望、ジュハ、あまめそして仏教僧3名、伊賀忍青燕、阿砂、飛炎、総勢十一名。
あまりにも大きな代償だった。
「なんだと!?真田率いる甲賀衆がやられた?!」
信玄はあまりにも不甲斐ない配下に対し怒りに狂いながらも、咲耶一行の力を見くびっていた己の愚かさに戦鬼としてでは無く、元武将、武田信玄としての己を恥じていた。
「この期に及んでは生き恥をさらすより、我が手で奴らの息の根、とめてくれようぞ!!」
甲府の鬼は、両脇に従えた四匹の鬼と共に、ゆっくりとその歩を咲耶らの居る森に向けていた。
その大きな悪しき気を持った鬼の存在を悟っている咲耶達一行も又、無言のまま鬼の待つ魔の森を進んでいった。
「我こそは甲府の鬼と言われ、甲斐の武田と恐れられた戦鬼が一人!信玄! 羅刹の森を守る我が甲府の軍勢を倒しよくぞ我が元に辿り着いた!誉めてやる! だが!この先一歩たりとも通すわけにはいかん!我が手によってその体八つ裂きにしてくれるわ!!」
そう言うと仁王の如き眼孔を見開き、咲耶一行をにらみつける。
「豊臣秀吉の次は甲斐の武田だと!悪しき気に操られし亡霊よ!この紫炎で成仏させてくれるわ!」
いつにも増して強敵を前に、京の持つ紫炎の光がますのを咲耶はじっと見つめていた。
「京殿!一対一では不利だ!力を合わせた方が・・・・」
青燕の言葉を京が遮った。
「いや、もはやこの鬼・信玄は、鬼と言うより一武将としての戦いを望んでいる。その願い叶えてやることこそが、剣の道を志す者の務め。」
「よくぞ申した!女の身でありながら、その志!見上げた者よ!誉めてやる!」
そう言うと戦鬼・信玄は悪しき気に操られた信玄では無く、一人の武将としてそこにいた。
四匹の鬼と咲耶一行は、京と戦鬼・信玄の一騎打ちを自らの使命を忘れ、固唾を飲んで見守っていた。
「ほぉおー、一騎打ちとは又古風な。奴らしいなぁ」
闇の中からこの戦いを一匹の戦鬼がまるで面白い物でも見るかのように見つめていた。
「愚かな山猿め、人間相手に何を考えて居る!」
苛立ちながら戦いを見ていたもう一人が戦鬼、今川義元もそこにいた。
「そう言うな。今川殿、奴とて武将としての誇りが残って居るんだろう。好きに戦わせてやってはどうだ。」
「ふん!くだらん!」
そう言って義元はどこかへ消えていった。
「奴め、戦鬼となって武将の心など忘れてしまったと見える。まぁ、百年前から奴には誇りなど無かったがな。」
そう言って鬼は不敵な笑いを見せた。
まるで時が止まったように、二人の戦いは剣を構えたまま、微動だにしなかった。
だが、その二人の周りには激しい気の渦が荒らしの様に渦巻いていた。
「どうやらこの戦い一瞬で決まりますね」
多くの戦いを見てきた青燕は直感でその戦いの行方を悟っていた。
二人の戦いは益々激しさを増し、動かぬ剣とは違い、気の戦いによってお互いの体を凄まじい気が斬りつけている。
だが、それでも二人は一瞬の刻を待つように身構えたままだった。
『なんという気の強さ、見ているだけでもはじき飛ばされそうな凄まじさ』咲耶は初めて知った鬼の中にある人間の武将の心を見た気がした。
そんな戦いを嘲笑うかのように咲耶達を狙う鬼の集団が集まり始めている。
しかし咲耶らは今決しようとする二人の戦いに全てを奪われその動きに気がつく者は居なかった。
その鬼達を束ねる戦鬼・義元が京に向けて矢を構えた。
『ふふっ、儂がお前らの下らぬ戦いに決着をつけてやる。』
グッと、今にも京めがけて矢を放とうとする義元に、あまめが気がついた。
『あのやろう?!』
あまめは二人の戦いを邪魔しようとする鬼に近づき、銛を取り出し構えた。
その時!義元の矢は京の頭をめがけ放たれた!
『しまった!』
あまめが義元めがけ銛を射かけたが間に合わず、矢は京の頭をめがけまっしぐらに飛んでいく。
その時!信玄が動いた!
それにあわせるように京も又信玄めがけ紫炎を振りかざす!
(ズバッ!)
それはまさしく一瞬の出来事だった。
信玄の刀は京の胴をかすめ、京の切っ先は紫の光と共に、信玄の首をかすめていた。
『相打ち?!』咲耶がそう思った瞬間、信玄の首は京が持つ紫炎から伸びた紫の炎によって斬られていた。
(ぐはっ!)
信玄の体は、首を失いその場に倒れた!
信玄が先に動いたことによって、その勝敗は決まって居た。
「女・・・儂の負けじゃ・・・そなたの名は?」
京は斬られても尚、未だ生きている信玄の首を覗きその問いに答えた。
「京。・・・・」
「そなた・・・女にしておくにはもったいないな。」
そう言うと信玄の首はにこりと笑った。
「貴様、何故先に動いた?先に動いた方が負けることくらい分かって居ただろうに。」
「いくら鬼に成ったとは言え、儂とて天下を夢見た武将、愚か者に邪魔されたくはなくての。」
「そうか・・・・」
鬼であったその武将・武田信玄は笑みを浮かべながら黄泉の国へと旅だった。
それを見届けた京は、きびすを返すとこの戦いに水を差した義元に斬りかかった。
「外道がー!」
だが、その動きを察した義元は、周りを取り囲む鬼ども、死人衆を差し向けた。
京の怒り狂ったその形相はまさに鬼!
自らの義をかけた真剣勝負を邪魔され、凄まじいまでの怒りの気を放ち義元を追いかける。
京の一振りは、義元を守ろうとする死人を一気に葬り、じりじりと義元を追いつめる。
「にっ人間ごとき虫けらが・・・・」
さすがの戦鬼・義元も京の怒りの形相に恐怖さえ覚えていた。
「なっ何をしておる!我が死人衆ども!我を守らんか!!」
だが、死人衆は咲耶らの攻撃を受け、更に京の放つ紫炎の炎にその数を減らしていた。
「貴様だけはーーー!!!」
そう言って、斬りつけた京の紫炎は、京の霊力を吹い義元の体を一瞬にして葬り去った。
義元を失った死人衆は、まるでその役目を終えたかの様に骨と化し消え去っていく。
甲府の鬼との戦いはこうして幕を閉じた。
信玄に仕えていた四人の鬼も信玄の死を見届けるとどこかへと消えていった。
「せっかく面白い所を邪魔しおって!義元め!」
もう一人、義元の為に余興を潰され怒る戦鬼が暗闇から一部始終を見ていた。
「やっと儂の出番が来たと言うところか。人間どもよ!早く来い!この信長が最高の舞台を用意してやる!」
そう言うと戦鬼は暗闇に消えていった。
甲府の鬼、信玄が破れたため、今この魔の森《羅刹の森》は、悪しき気を薄め徐々に元の姿を取り戻していた。
「咲耶さん、悪しき気の流れが又変わりましたね。」
ジュハが気の流れを感じて居たときすでに咲耶は、一つの今まで以上に強い鬼の存在を感じ鬼が住む次なる敵陣を見つめていた。
その先に見えるのは霊峰富士。
その裾野に広がる今も尚、悪しき気が渦巻く青木ヶ原。
一行は、疲れた体を引きずりながら次なる戦いへと歩み始めた。
その頃、世界中で異変が起きていた。
と、言ってもそれを知ることの出来る者は少ない。
闇が消え、人々を戦いへと導く力が徐々に消えていく。
疫病に苦しむ人々の数は徐々に収まりつつあった。
世界中を包んでいた悪しき気は、一点を目指し集まっている。
海の彼方、蓬莱の国へと。
「信長様、お呼びですか?」
「おう!蘭丸か!お前、義元が連れてきた人形何処に居るか知ってるか?」
「御意!只今お方様のお力を借りて、鬼としての手術をうけておりまする」
「ほう!さすが蘭丸!儂の考えはお見通しの様だな。」
「滅相も御座いません。少しでも信長様の手助けをと思い浅はかな蘭丸めの考えで御座います。」
「まぁ良い!その人形すぐにでも使うやも知れん!」
「まだ時間がかかるかと存じますが。」
「不完全でもかまわん!どうせ余興の一つ。」
「それでは早速用意いたします。では。」
そう言うと蘭丸はどこかへと消えていった。
「さて、どう出るか?」
最後の戦鬼・信長は咲耶達との戦いを楽しむ様に策略を巡らせていた。
信玄との戦いに疲れ切っているはずの咲耶達は、最後の戦いを前に決めかねていた。
「どうなさいますか?この広い森を敵を探して動き回るのは無謀と思われます。」
青燕は咲耶達を思い、この地で休むことを提案した。
「しかし、今至るところから悪しき気が集まって居ます。恐らくは私たちを迎え撃つため全ての気を集めているのに違いありません。
時が経てばそれだけ、私たちの戦いは不利に成ると思います。それに残る鬼は、ただ一人。今なら我々に勝ち目もあるかと。」
「我々にはよく分かりませんが、咲耶様が言われるとおり、倒すべき鬼がただ一人だとしても疲れ切った体で何処まで戦えるか・・・」
咲耶も解っていた。だが最後の敵を前にして、居ても立っても居られない自分の気持ちを押さえられないで居たのだった。
「さっちゃん!みんなの力を信じて!例え全ての悪しき気が集まったとしても私たちだけじゃない。出雲のみんなだって力を貸してくれるんだよ。」
咲耶は希望のその言葉に自分が忘れていたことを悟った。
自分は一人じゃない!ここに居る者だけじゃなく、世界中の人が私たちの勝利を祈っている自分よりもずっと子供だと思っていた希望が自分より、大人に見えた瞬間だった。
「そうね。私何を急いでいたんだろう。これは私たちだけの戦いじゃない!
この世の中全ての人たちの未来がかかっている戦いなのよね。」
そう言うと、戦いの中で忘れていた微笑みを咲耶が久しぶりに見せた。
「では、今夜はここで明日に備えましょう。」
咲耶の周りには、笑顔で見つめるみんなが居た。
その夜、ここが魔の森だったとは思えぬほど、穏やかな森に成っていた。
一行に久しぶりに笑顔が戻り、戦いを忘れ冗談を言ったり、ふざけあったりしている。
そんな人々を見つめる咲耶は思った。
『世界中の人たちが同じように笑える世の中に出来たらどんなにすばらしいか・・・』
「咲耶。」
京が咲耶を心配そうに横に座った。
「京さん」
「咲耶、大丈夫か?」
「はい。」
「なら良いんだけど。・・・咲耶、なんか不思議だな。」
「どうしたんですか?京さん」
いつもと違う京の優しい物腰に咲耶はうれしさ以上の何かを感じた。
「ついこの間まで、私は誰一人寄せ付けず、人の為とかそんな物どうでも良かった。
でもなぁ、希望や咲耶達と出会い何となく仲間と呼べる者が居ることも悪くないかなぁそんな風に思うようになった。そしてずっと一緒に旅が出来たら良いなぁなんて。」
「私もそうです。ここまで来たのも運命の様な気がします。生まれる前から知っていてそんな仲間が今ここに集まっているんじゃないかって思います。」
「そうかも知れないな。だとしたら生まれ変わっても又出会えるかも知れないな。」
「ええぇ、きっと。」
そう言って二人は久しぶりに見る夜空に輝く星達を眺めていた。
いつしか咲耶達は疲れた体を癒すかの様に眠りについていた。
《さくやさま・・・・咲耶様・・・・・》
夢の中なのかそれとも幻か、咲耶は聞き覚えのある声を聞いた。
《咲耶様・・・ここですよ・・・・》
『誰?私を呼ぶのは?』
《咲耶様・・・私です・・・・》
『紅蓮?紅蓮なの?』
《はい。紅蓮です・・・咲耶様》
咲耶は暗闇に紅蓮の姿を探した。
『紅蓮!何処に居るの?姿を見せて?』
《私はここにいます・・・・咲耶様》
その声を追っていく咲耶の目の前に、今は懐かしい紅蓮の姿があった。
『生きていたのね。良かった。本当に良かった。』
咲耶は溢れんばかりの涙を流し紅蓮の姿を追った。
『紅蓮!何処に行くの?一緒に居てくれるんじゃないの?』
《・・・・咲耶様・・・・》
咲耶が近づこうとすると、離れていってしまう紅蓮。
咲耶は必死に成って追おうとするが、どんどん遠ざかる紅蓮。
『待って!何処にも行かないで!』
その時咲耶の周りにもやがかかったようになり、紅蓮の姿が消えてしまった。
《咲耶様・・・・・》
『紅蓮・・・・・』
涙に濡れた目をこすりながら咲耶は夢から覚めた。
『紅蓮・・・・』
やがて夜が明けてゆく。
日の光で目を覚ます咲耶達一行。
咲耶は昨晩の夢を思い出して居た。
『紅蓮・・・』
その日の空は、まるで彼らを祝福するかのように真っ青な空が広がっていた。
だが、霊峰富士の麓、樹海が広がるその場所には昨日にも増して悪しき気が渦巻く漆黒の闇が彼らを待ち構えていた。
「では、行きましょうか。」
青燕がみんなの支度を待って声をかけた。
青燕を先頭に一行は、樹海の森へと入っていく。
「咲耶様、鬼の気配を感じますか?」
青燕の問いかけに咲耶はうなずいた。
「はい。昨日よりずっとはっきり感じます。」
ジュハも京も同じだった。
「鬼の気配は、この森の下から強く感じます。」
「地下ですか?」
「はい。地下深く強い気が集まっています。」
「確かにこの樹海には、人がまだ入ったことのない洞窟が広がって居ると言われています。
恐らくはそのどこかに本拠地がつくられている可能性もありますね。」
その時、どこからともなく地を這うように音が聞こえた。
「あの音は?」
「まるで我々を誘っているかの様ですね。」
確かにその音は、咲耶達を呼ぶかの様に響いて居る。
「行ってみましょう。」
「罠かも知れません。」
「例え、罠だとしても今の私たちには大事な手がかりになります。」
青燕の心配をよそに咲耶はその音がする方へと歩き出した。
「確かに罠かもしれんが、我々の存在はすでに知られているはず。ならばその罠に乗ってやっても同じ事。探す手間が省けると考えた方が良いのではないか?」
京が青燕の心配を吹き消す様に言った。
「確かに今更逃げ隠れしても始まりませんね。寝込みを襲わなかった敵ですから何を考えているか分かりませんが・・・・」
罠と分かって居ながら向かうことに多少の不安はあったが今の自分たちにはそれに乗るしか近道は無かった。
音を頼りに一行が進むと、目の前にぽっかりと口を開けた風穴が見えてきた。
「どうやらあの穴から音が聞こえるようです。」
近づいてみると中は以外と深く続いている。
「確かにここから強い気の流れを感じます。」
一行は周囲に細心の注意を払い風穴堂の中へと入っていく。
松明をつくり青燕、阿砂、飛炎が先頭を歩きその後に咲耶達が続いた。
「咲耶殿!先が二つに分かれています。どちらに入りますか?」
咲耶が手をかざし悪しき気の強い方を探している。
「こちらの方から強い霊気が感じられます。こちらへ行きましょう。」
咲耶が示した方の穴に一行が順番に入っていく。
少し穴は狭くなり、一人一人続いて入るのがやっとだった。
「咲耶様、どうやらこの先は広がって居るようですね。」
青燕がそう言いながら振り向くと、後ろに居たはずの咲耶の姿が無い!
「青燕殿!何処へ行ったのですか?」
急に視界が暗くなり咲耶は、自分が遅れたと思った。
「京さん!」
振り向くと自分の後に続いていたはずの京の姿がない!
『え?!』
まるで自分を残し全員が姿を消したように、咲耶の周りには暗闇が広がっていた。
「みんな!何処なの!」
必死に叫ぶ咲耶だったが、全く返事が無い。
「咲耶!何処だ!」
京も又、前に居たはずの咲耶の姿も、後ろに居たはずの希望の姿も見えなくなっていた。
一行は全員が同じように仲間を見失っていた。
咲耶は焦った。
罠と分かっていたにも関わらず、まんまとその罠にはまってしまった自分に。
《さくやさま・・・・》
『え?!』
咲耶は驚いた!
『まさか?!』
《さくやさま・・・・咲耶様・・・》
『まさか?!紅蓮・・・・そんなあれは夢だった。』
だが今咲耶は確かに聞いた。
あの懐かしい声を。
「紅蓮!紅蓮なの?」
《咲耶様・・・・こちらです。》
『やっぱり紅蓮だ!確かに紅蓮の声!』
咲耶は昨日の夢の様に必死に紅蓮の姿を探した。
「紅蓮!何処なの?紅蓮!!!」
「咲耶様。こちらです。」
今、はっきりと近くに聞こえた紅蓮の声。
咲耶は岩に足を取られながら必死にその声に向かって走っていた。
「紅蓮!生きていたのね!」
「咲耶様!!」
「紅蓮!!」
咲耶の目の前に今、懐かしい紅蓮が居る!
自分たちを逃がすため必死に戦ってくれた紅蓮が生きていた!
咲耶は紅蓮の姿を見つけ、大粒の涙を流し抱きついた。
「咲耶様!!」
「紅蓮!!!!」
絵巻その五「決戦?そして集結」終わり。
絵巻その六「最後の鬼?そして真実」へ続く。
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■幽幻戦国絵巻?せぶん |
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■絵巻その四【罠?そして魔の森】
まるで陸の孤島の様に、外部と遮断された様に一つの部族がひっそりとその暮らしを営んでる伊賀の里。
何処にでも有る日常のように洗濯をし、子供をあやし、男たちは田を耕しある者は何かの道具の手入れをしている。
そんな一見普通の何処にでも有る村の風景でもある。
そんな極ありふれたそんな村に、黒っぽい衣装に身を包みこれも又この村には似つかわない旅の者と思われる一行がやってきた。
そんな彼らを待ちわびたかのように、子供たちが群がりはじめそれを見た大人たちもその一行に目を向ける。
大人たちの一人が黒っぽい衣装のリーダーと思われる者の合図を受けどこかへと向かった。
「青燕!そやつらは・・・・」
一人の男が、問いただすように青燕と呼ばれる黒っぽい衣装のリーダーにそう言うと青燕はその言葉を制し、三人にこの場で待つように指示をする。
先ほどの村人がこの村の長老と思われる者を連れて戻ってくる。
青燕は、その長老の前に歩み出ると、何かを話し始めた。
「親方様、この者達は私の判断で親方様に会わせたく思い連れて参りました。」
「お前が認めたからにはお前にも考えが合っての事とは思うが、この里に直接つれて来る必要が有ったのか?」
「私も直接この里に連れてくることには、ためらいも御座いましたが、先日の異国の者と何らかの関わりが有るらしく、それについても親方様と直接会わせた方が無難かと思いこうして連れて参りました。独断では有りますがお許し下さい。」
そう言うと青燕は深く頭を下げた。
「まぁ?お前ほどの者が認めた旅人。むげに追い返す訳にもいかんな。」
そう言うと、長老は一つの家を差し、三人をそこへ通す様命じた。
長老は、先ほどより臆することなくこの成り行きを見守る咲耶を見て何かを感じていた。
三人は長老が指示した一つの家へと通されると、少し広めの部屋で待つように指示された。
咲耶達は今は指示に従うのが一番と思いこの部屋で静かに待っていた。
しばらくすると、村の長たちと思われる五人の男が長老と共にこの部屋に入ってきた。
そのまま上座へと座ると長老は咲耶の顔をじっと見つめるとゆっくりと話しはじめる。
「青燕から事の成り行きは聞いた。そなたたちを見る限り、我らに危害を加える輩とは思えんが、どのような理由でこの森へ入ってきたか今一度そなたたちの言葉で伺いたい。」
咲耶はこの長老が、未だ三人を計りかねている事に気がつき旅の目的を事細かに話し始めた。
「私は出雲の守護職・八家衆がひとり、真宮咲耶と申します。
私たちは八家衆宗家・八百比丘尼様の命により、日の本にはびこる悪気の探索を目的に関東を目指し旅をしております。
その途中、私たちは何者かの奇襲を受け、合流すべく仏教国の方々と堺で落ち合うはずでおりましたが、間に合わず先に出立した仏教国の方々を追いこの森を目指して参りました。
先ほど青燕様とお話を致しましたが、先日この森で異国の一行を捉えたと聞き、こうして青燕様にご案内頂き親方様にお目通り願いたく参上致しました。」
長老たちは咲耶の口上や身なりを、まるで品定めでもするように注意深く聞き入っていた。
「咲耶と申したな。そなたの申すことあい分かった。」
そう言うと長老は控えていた配下の者になにやら指示を与えた。
「どうやら我々は警戒のあまり、判断を見誤って居たようですな。」
そう言って長老は目を閉じ何かを考えて居るようだ。
「咲耶殿、そなたら八家衆が悪気の探索とは言え、そなたのような巫女を直接送って来るとは我々が考える以上にこの日の本に危機が及んでいると言うことの様じゃな。」
「はい。事はこの日の本だけではなく、他国にまで及んでおります。他国を含めこの日の本でも戦乱が続き、人々は疲弊しきっており、それ故心ある者達がこうして関東を目指し行動を起こしております。」
咲耶は長老やこの村の長らを前に、ひるむことなく自らの心境を話して聞かせた。
「今までにも何度と無く、私たちの様に探索を目的に関東を目指した者たちがおりますが未だに誰一人戻らず、悪しき気の詳しい所在など、全てが未だ謎のままです。
しかしその悪しき気も益々強くなるばかり。一刻もその真意を確かめ良き方向へと導き平安を取り戻すことこそが我らに託された役目と思っております。」
長老は咲耶のその真剣な眼差しに、彼女に託された運命とも言うべき物を感じ取っていた。
「確かに諸国を始め、ここ伊賀の森にも悪しき気配が渦巻いていることは知っておったが我々が考える以上に逼迫した状況とは。」
「しかし、いかにそなたらと言えど、関東へ到着する事さえままならぬほどここより北は悪しき気が集中しておる。例え異国の者達が加勢したと言え、無事に到達出来るかどうかわからん。それでも尚、進むと言うのか?そなたは。」
長老のその言葉にも臆することなく、咲耶はきっぱりと答えた。
「無論で御座います。
出雲より旅立った時から命に代えてもこの役目は重要だと認識しております。」
怯むことなく、言い放つ咲耶を見て、長老は決断した。
「分かり申した。そなたの決意、決して疑う余地のない真意と心得ました。ならば我ら伊賀の物とて世を憂う気持ちは同じ。出来る限りの協力は惜しみませぬ。」
先ほどとはうって変わった長老の敬愛に満ちた態度であった。
「ありがとう御座います。」
深く頭を下げる咲耶に、長老としてではなく幾多の戦いをくぐり抜けた一人の戦士として目を輝かせる長老であり伊賀の忍びを束ねる頭領がそこに居た。
長老より指示を受けた若者は、異国の者を捉えている牢へと向かっていた。
そこは洞窟を利用した岩に囲まれた自然の洞窟牢でもあり、鉄格子にその入り口を塞がれ、どんな剛腕の持ち主でも破ることの出来ない堅牢な牢でも有る。
「ここは・・・・」
昨夜より眠り薬を香がされ意識を失っていたジュハが目覚める。
同じようにここへ連れて来られた一行は、眠り薬が切れたのかまたひとり、またひとりと目覚め始めていた。
「ジュハ様ご無事ですか?」
仏教国のリーダー、ジャハムドがジュハの体を心配し、声をかける。
「えぇ、何処にも怪我は有りません。それより他のみんなは無事ですか?」
「はい。全員、命には別状有りません。」
それを聞いたジュハは、側でもうろうとする意識と戦っている、あまめを見つけ声をかけた。
「あまめ!良かった!無事だったのね。」
その言葉に、あまめもジュハの無事を知り安堵していた。
「それにしてもジュハ、ここは何処なんだ?俺たちどうしたんだろう?」
「分かりません。何者かに襲われたのは確かなのですが、私も今目覚めたばかりで・・・・」
暗いこの牢の中をくまなく調べていたジャハムド。
「どうやらここは洞窟の奥に作られた牢の中のようです。あたりには見張りらしき者も居ないようですが・・・」
「じゃー!こんな鉄格子ぶっ壊して逃げようよ。」
そう言うあまめをジュハは止めた。
「ここはしばらく様子を見た方が良いかと思います。敵の正体も知らず行動するのは昨晩の様に又、捉えられるのが落ちです。」
ジャハムドの言葉に、あまめは不満を感じたが、ジュハも同じようにうなずくのを見てその言葉に従うことにした。
その時、明るい入り口の方から、足音が聞こえる。
「誰か来たようですね。」
ジュハのその言葉に一行は身構える。
薄暗い洞窟を松明を持った青燕が二人の仲間を引き連れて入ってきた。
「お目覚めでしたか」
そう言うと、青燕は一人の男に牢を空けるように指示をする。
「大変申し訳ないことを致しました。あなた方が仏教国の使者とも知らず無礼なまねを。」
それを聞いたジュハが少し驚いた。
「何故、我々の事を知って居るのですか?」
「あなた方を追い求め、今朝、八家衆の方々がこの森へ参りました。その方々より異国の方々の話を聞き、あなた方がその仏教国の使者で有ることが分かりました。この里を守るためとは言え、一方的に襲ったこと、深くお詫び致します。」
そう言うと、青燕は深く頭を下げた。
突然の成り行きにジュハたちは困惑していた。
「それで八家衆の方々は今どこに?」
「今、我らが親方様とお話ししております。」
そう言うと青燕は解き放った牢より一行を誘導すると出入り口へ向かった。
一行は誘導されるままに獣道を通り、伊賀の隠れ里に出た。
「こんな所に人里があったとは・・・・」
ジャハムドのその言葉に、青燕が答えた。
「我々はこの里を拠点としてこの森を守るこの国では忍者と呼ばれる一族です。」
「忍者・・・・」
どこかで聞いたことがあるとあまめは思った。
「そう言えば親父から、昔聞いたことがあるよ。時には豪族などに仕え戦いを影から支える集団とか・・・忍法とか言うふしぎな力で相手を倒すって。」
そう言うあまめを見て青燕は不思議に思った。
「そう言えばあなたは日の本の人とお見受けしますが・・・・」
「あっ!俺はジュハたちが乗ってきた船の船乗りなんだ!」
「船乗り?船乗りが何故彼らと一緒に居るのですか?」
あまめはその疑問ももっともだと思った。
「えーと、簡単に言えばジュハは俺の大事な友達だからなんか手伝おうとおもってさ。」
そう言うとあまめはジュハを見てにっこりと笑った。
青燕はあまめとジュハの笑顔を見て信頼に値すると感じていた。
「ここです。ここで皆さんがあなた方をお待ちです。」
そう言って青燕は咲耶達が待つ一軒の家を指さす。
案内されるままにジュハたち一行はその大きめの屋敷らしき家へと入っていった。
「親方様。異国の方々をお連れしました。」
そう言うと青燕は、一つの部屋へ入るようジュハたちを招いた。
そこには親方と呼ばれる長老と五人の長、そして少女二人と剣豪らしき女が彼らを待っていた。
「例え我が身を守るためとは言え、一方的に襲い牢に閉じこめるなど、数々のご無礼誠に申し訳無くなんとお詫びを申せば良いやら。平にご容赦願います。」
その丁重な長老の言葉に、さすがのジュハ一行も怒る気にはなれなかった。
「いいえ。私たちとて無断であなた達の森へ分け入ったのです。謝るべきは私たちの方です。」
そう言ったジュハに長老一同は、ただただ頭を下げるだけだった。
その光景を見て咲耶が口を開いた。
「私は出雲の八家衆が一人、真宮咲耶と申します。この度は我らが不手際からこの様な事になり誠に申し訳なく思います。」
そう言って礼を尽くす咲耶を見て、ジュハも仏教国の使いとして礼を尽くし答えた。
「お互いこの旅の大変さは、存じております。あまりお気遣いなされません様に。」
そう言って咲耶に一礼をするジュハであったが、たった三人の八家衆と紹介された事で道中に何かがあったことを悟っていた。
そんな彼らを見ていた希望が面白そうに・・・
「なんかみんなで謝ってばかり居てなんか変だね。」
そう言ってにっこり笑う。
その希望の笑顔を見て一同は、顔を見合わせ希望の笑顔につられたのか一瞬にして和やかな雰囲気に変わっていた。
そしてそれぞれの自己紹介が終わり、偶然とは言えここに集まる事が出来た戦士たちはこれからの事を話し合った。
「このまま尾張へ向かうためには、甲賀の森を抜けなければなりません。
甲賀も又我々のように忍びの一族が治める所。あなた方だけでは難儀なことと思われまする。
それにあなた方の使命は、我らが一族にも関わる大事な使命であり、強いては日の本の運命さえ左右する大儀。及ばずながら我ら伊賀の者も行動を同じくするべきと存じます。微力ながら我々には青燕を始め数名の手練れが居ります上、この旅への同行をお願いしたく」
そう言って長老は、青燕たち十名の忍びをこの場に呼び寄せた。
「戦力はいくらでもほしいと思います。しかし大切な配下の方をお連れしたのではこの森の守りが手薄になってしまわないのですか?」
「咲耶殿、ご安心下さい。この里に居る者は全て歴とした忍び。それにこれは伊賀の森を守る戦いでも有るのです。われらとてこの世の平安を思うのは同じ。どうか遠慮なさらず我らの力をお使い下さい。それに我々の手で甲賀と手を結ぶ事も出来るやも知れません。」
「お心使い感謝致します。」
そう言って咲耶は深々と頭を下げた。
その夜、一同は伊賀が持つ情報を元に、尾張への道筋これからの行動など出来るだけ事細かに話し合っていた。
次の朝、出立の準備を済ませた一行は、伊賀の忍びを先頭に尾張を目指し森の中へと消えて行った。
「義元!義元は居るか!!」
漆黒の闇の中から戦鬼が一人、今川義元を呼ぶ声が、静寂を破り周囲にこだまする。
「御意!義元!ここにおりまする!」
ふっと、闇より戦鬼・今川義元が千鬼の死人(しびと)を従え現れた。
「義元!此度の失態どうするつもりぞ!」
漆黒の闇に包まれたその影の声には義元への叱咤と共に、苛立ちが色濃く響いていた。
「お方様!この場は義元などよりも、我ら甲府の鬼めにお任せ下さい。」
どこからともなく現れた、甲府の鬼と名乗る戦鬼が自ら名乗りを上げた。
「何を言う!貴様のような山猿は引っ込んでおれ!」
「黙れ!義元!!その侮辱、戦鬼が一人とて許さんぞ!」
「お二人ともお方様の御前ですぞ!」
そう言って薄笑いをするもう一人、戦鬼が現れた。
その言葉に、二人の戦鬼、甲府の鬼と義元は漆黒の闇に包まれた影を前に跪いた。
「猿!お前に何か良い考えでも有るのか?」
「御意!」
そう言って猿と言われたこの戦鬼は、得意げに話し始めた。
「お方様、お方様の愁いはごもっともなれど、敵の力はそれ程とは思えませぬ。
此度の今川義元様の失態もいわば、時の運。力押しするほどの価値も無いかと。」
「では、そなたならどうする?」
まるでその言葉を待っていたかのように唇を歪ませニヤッと、猿が笑う。
「罠を仕掛けまする。幸い我が配下には幻術を得意とする者が居ります上奴らをその幻術を持って自滅の道へと導くが得策かと。」
それを聞いていた義元が怒り出した。
「何を言う!これはわらわの戦。力でねじ伏せるがたやすい事!お方様!どうかもう一度我ら死人衆にお任せ下さい!」
「面白い・・・・」
そう言うと影は、ケラケラと笑い出した。
「猿!貴様の罠とやら、見せて貰おう!!!」
そう言うと影は漆黒の闇の中へと消えていった。
「御意。」
猿のその声を後に、全ての鬼が闇の中へ消えていく。
咲耶たち一行は、伊賀の忍びを先頭に甲賀の森に居た。
「おかしいですね」
伊賀の忍び、青燕が困惑した顔でつぶやいた。
「どうしたのですか?青燕殿」
周囲の探索を続けながら一行を先導していた青燕が誰にとは無くつぶやいた。
「咲耶様。我々はすでに甲賀の森に入ってからかなりの時が経ちます。以前なら我ら伊賀の者がこの森に入った時から、甲賀の忍びに見張られているはず。しかし今は何処にもそれらしき気配は感じられないのです。」
「それはどういうことです?」
咲耶の疑問に答えるように青燕が話を続けた。
「我々、伊賀と甲賀は元は同じでは有りますが、決して自分たちの領域を侵さないと言う掟が有ります。なんの連絡も取らず、この森に入れば攻撃を受けるが必定。されど・・・・・」
そう言うと青燕は考え込んでいた。
「何か甲賀に重大な事が起きていると言うことですか?」
「そうとしか考えられません。この森は甲賀の忍びにとっては聖域でもあります。それを守る動きが無いと言うことは、この森を放棄せざる負えない何かがあったと、考えるのが妥当かと。」
「まぁ?良いじゃん!無駄な戦いをしなくて良いんだから。」
青燕の心配をよそに、あまめは軽く流すように言った。
「確かに無駄な争いを避けられることを思えば良いことでは有りますが・・・」
青燕の心配に咲耶は何となく不安を覚えていた。
「考えても仕方がありません。このまま警戒しながら進みましょう。」
その時、周囲の探索をしていた、阿砂が青燕の元へ戻ってきた。
「阿砂、何か分かったか?」
「どうやらこの森には甲賀衆の姿は見あたらない。」
と、その時甲賀の里を調べに行っていた、飛炎が戻ってきた。
「飛炎どうだった?」
「甲賀の里には誰もいない。」
「どういうことだ!?」
困惑した青燕が驚くように飛炎の報告を聞く。
「甲賀の里は何者かの手によって焼かれていた。だが、死体はおろか人が居た形跡すら無いんだ。」
「形跡すらない?」
「あぁ、まるで里を捨てるつもりで火をつけたと言うべきだな。」
青燕は予想もしなかった飛炎の報告に戸惑うばかりだった。
計画では甲賀の忍びの力も借りて、尾張へ向かうはずであったが思惑がはずれ青燕は落胆していた。
「仕方ない。甲賀の事も気になるが今は一刻も早く尾張につくことを考えよう。」
「咲耶殿、聞いての通りです。甲賀の力を当てに出来ないとなれば先を急ぐのみ。」
「そうですね。先を急ぎましょう。」
そう言っては見たが、自分たちの里を捨てざる負えない何か、と言うことが青燕には気がかりであった。
やがて咲耶一行は、森を抜け尾張の町はずれまで辿り着いた。
「わー!でっかい城が見えるよ!」
町のはずれからでもよく見える城を見て、希望が喜んでいる。
「尾張って以外と栄えて居るんだなぁ?」
あまめも城を中心にいくつも広がる人家を見つけ驚いている。
「確か尾張は、豊臣秀吉と言う豪族が二十年前、周辺の農民と作ったと言われている関東では比較的、戦が少ないと言われて居ます。」
「豊臣?あまり聞いたことのない豪族ですね。」
青燕の説明に、八雲で調べた情報に無かった名前を聞いて少し不思議に思った。
「確かに豊臣と言う豪族は、昔から居た訳じゃ有りません。話によると、農民の出で、百年前織田家に仕えていた家臣の子孫らしいと言う以外詳しい事はあまり分かっていません。」
そんな話をしながら、尾張の町へ入ってきた一行は、今の戦国の世にあってこれほど活気の有る町は珍しく、見る者全てに珍しい物が写った。
「あっ!さっちゃん!お煎餅やさんだよ?!うわー!おいしそうないい匂い!!!」
早速、おいしそうな食べ物を見つけた希望は、子供のようにはしゃいでいる。
「おーーー!!こっちにはお団子やさん!!!おばちゃん!お一つおくれ?!!」
おいしそうな食べ物を見て希望は咲耶が止めるのも聞かずに散策を始めた。
「放って置いて良いのですか?咲耶様」
希望のあまりにも無邪気にはしゃぐ姿を見て驚いたのか、ジュハが咲耶に問いかける。
「食べ物を見つけたノンちゃんには何を言っても耳に入りません。」
そう言って咲耶は苦笑混じりで答えた。
「そこの旅の者!」
咲耶一行を見つけた役人らしき人物が、呼びかける。
「私たちですか?」
「そうじゃ!そなた達、何処より参った?」
呼び止められて少し困ってしまった咲耶が青燕の姿を探したが、いつの間にか伊賀の忍び達はいずこかへと、姿を消していた。
『あら?』咲耶はそうつぶやくと、怪しまれないために姿を消したのだと理解した。
「私たちは修行の為、諸国を旅する修験者です。尾張にはおいしい食べ物が有ると聞いてやってきたのですが。」
「ほう?それはそれは。して修験者と申したが、易を占ったりなどもするのか?」
役人の問いに、少し困りながらも咲耶は伊賀で打ち合わせた通りの芝居をしていた。
「はい。たまにですが易によって、旅先を決めたりもしますが。」
それを聞いた役人は、喜んだ顔をして咲耶へと近づいてきた。
「ならば、殿の行く末などを占っては貰えぬものかの?」
急な申し出で咲耶は当惑した。
「実はな、近頃この尾張にも良くないことが続き、殿もほとほと困って居るしかしこの尾張には、易者とか占いをするものがあまりおらんので困って居った。」
「易と申されてもたいそうな事でも御座いません。ましてや国の行く末など・・・」
困り果てている咲耶に役人は、何とか咲耶を説得しようと必死だった。
「いやいや、それ程たいそうに考えなくても良い。殿は無類の余興好きと言うか楽しい事が大好きでの、ちょっと占いのまねごとでもしてくれれば良いのじゃ。」
咲耶は、この役人が自分たちを使って殿の機嫌をとり、出世の役にでも立てようと考えているのだろうと思った。
「咲耶。むげに断ってこじれるより、行ってみてはどうだ?」
今まであまり口を開かなかった京が咲耶に耳打ちした。
「しかし・・・・」
戸惑っている咲耶に京が話を続けた。
「もし豊臣秀吉と言う人物が、実力者なら本当の事を話し力を借りても良いのでは無いかと思うが。」
それを聞いて咲耶は決心した。
「分かりました。お役人様、私たちでお役に立てるのでしたら占っても構いません。」
それを聞いた役人は喜んだ。
「おー!そうか!占ってくれるか!それは良かった。」
その役人の手配で、一行は宿を取り、咲耶、希望、京の三人が城へ向かう事となった。
三人は役人が手配した籠に乗り、城門を通り城の中へと入っていく。
役人があらかじめ城へ連絡していたのか、三人は手厚いもてなしを受け、本丸へと通される。
本丸へ通された咲耶達は、今か今かと待ちわびる城主・豊臣秀吉が桔梗の間と名付けられた部屋にやってきた。
「殿!旅の易者、咲耶殿一行をお連れいたしました。」
案内をしていた役人がふすま越しに声をかけると、部屋の中から声がする。
「おー!それはそれは!くるしゅうない!通せ!」
「はっ!」
そう言うと役人はふすまを開け、三人を伴い部屋へと入っていく。
「殿!こちらが先ほどご報告致しました旅の易者で御座います。」
役人が得意げに三人を紹介すると、秀吉は笑顔で咲耶達を迎えた。
「この度はご招待下さり、恐悦至極に御座います。」
そう言って咲耶は深く頭を下げた。
「よい!よい!こちらが無理を言って来て貰ったのじゃ!難儀じゃったの。ささっ!遠慮は無用じゃ!旅の話でも聞かせてくださらんか?」
「はい。」
咲耶ら三人は、秀吉の前へと歩み寄った。
「それにしてもおなご三人とは、うれしい限りじゃ!」
「連れの者は、お殿様のお計らいもあり、宿で旅の疲れをとっております。一同に代わりまして改めてお礼を申し上げます。」
そう言って深々と頭を下げた。
「まぁ、儂が申すのもなんだが、この尾張は諸国に比べ至って平安じゃ!心ゆくまで旅の疲れを癒すが良いぞ!」
咲耶はあまりの歓迎ぶりに少し戸惑いを覚えた。
「そうじゃ!夕餉を食べながら旅の話でも聞かせてもらえんか?」
「はい。」
城主・秀吉の命令で家臣達が一斉に夕餉の支度をし始めた。
その支度もあっという間に運び終わり、城主と家来三人、咲耶、希望、京は膳をとりながら、旅の話などを聞かれるがままに話し始めた。
その話を聞いている秀吉は、時より見せる城主ににつかわぬ高笑いをしうれしそうに咲耶の話を聞いている。
いかにも実際に見てきたように咲耶は演技をして見せた。
ほとんどが旅の途中、京から聞いた話や、あまめ達からの話など、自分なりに考えて作っているらしい。
そんな咲耶を見て、京も同じように芝居をして見せている。
希望と言えば、城で出される物が珍しいのか夢中で食べていた。
そんな話も終わり、城主・秀吉は少し暗い顔を見せた。
「どうなされました?お殿様」
そう咲耶が訪ねると、
「そなた達も聞いたであろうが、今この尾張にも良くないことが続きそれが儂を悩まして居るのじゃ。」
「はい。先ほどお役人様より聞いております。その為に易者を捜していたとか」
「そうなんじゃ!儂がこの様な尾張の城主になれたのも、色々な易者や占い師から助言を貰い儂なりにそれを全うしてきたためと今でも思って居る。
だが、病や突然の災難で何故か、易者や占い師など、その類の力を持つ物が亡くなっている。
今では占いが出来る者とて、居なくなる始末じゃ。心の拠り所を無くした様で毎日が不安で不安でしょうがない。」
「それで私たちが呼ばれたのですね?」
「そうなんじゃ。ずっととはいわん。少しの間でも儂の側で占ってほしいのじゃ。」
そう言って秀吉は咲耶に頭を下げた。
「もったいない。頭をお上げ下さいませ。私たちでお役に立てるのでしたら喜んで占わさせて頂きます上。」
それを聞いて秀吉は、涙を流して喜んでいる。
涙まで流して喜ぶ秀吉を見て、咲耶は秀吉を信じ切っていた。
夕餉も終わり、秀吉は少々浮かれすぎて疲れたと言い、咲耶達を寝所へ案内させ占いは後日と言うことになった。
「咲耶、どう思う?」
部屋へ入ると京が突然くり出した。
「私には秀吉様なら本当の事をうち明けて、協力を仰ぐ事も出来るのではと。」
「そうか・・・・」
何か言いたげな京だったが、それ以上話そうとはしなかった。
希望は色んな物を食べて満足したのか、部屋へつくとそのまま布団の中へ入り眠ってしまった。
咲耶は考えていた。
『この町には、他で感じた悪しき気が感じられない。』それがどういう意味なのか分からないが、この町には活気が溢れ、城主の秀吉も人の良い者としか感じられ無かった。
咲耶は旅の疲れが出たのか、吸い込まれるように眠りに入った。
その夜、人々が寝静まった頃、この城を中心に異変が起こり始めた。
城は一瞬、ボワッと消えかけ又元の姿に戻る。
城下で咲耶達と分かれた伊賀の青燕達は、この町の隅々まで調べ回っていた。
暗闇に紛れ、まさしく影の様にその探索は続いていた。
阿砂が咲耶達の様子を見るため、城へ忍び込み部屋へと音もなく向かっているその時、天守閣から人間の者とは思えぬ、うめき声の様な物を聞いた。
『あの声は天守閣・・』
阿砂は、すかさず怪しい声のする天守閣に向かった。
(ズズズズーーー・・・・・)
天守閣へと辿り着いた阿砂は、何かが引きずられる音を聞く。
『なんの音だ?』
(ズズズズーーー・・・・・)
『又だ。』
耳を澄ませ、音のする方向へ移動する阿砂。
(ズズズズーーー・・・・・)
『この部屋からか?』
阿砂はその部屋まで来ると、障子に穴を空け中を覗いた。
『!!!!』
阿砂の声にならない驚きの声!
その時!中から声がした。
「何者!?」
『気づかれた!』
そう判断した阿砂は、化け物の正体を知らせるため、咲耶の元へと急ぐ。
その気を察してか、天守閣の化け物は、その体を引きずり天守閣を下りていく。
その化け物は、逃げ足の早い阿砂にめがけ何度も飛びかかるが、その都度阿砂に交わされ、その度に苛立ちを覚えるのか、辺り構わず暴れ始めた。
あまりの破壊音で京が目覚めた。
「咲耶!起きろ!」
その声に咲耶、希望は驚いて飛び起きた。
「どうやら上で何かが起きているようだ!」
(ドーン!)
この城全体が揺れ動くように、けたたましい音が咲耶達の頭上で聞こえた。
城からの音は城下中に響いていた。
「なんだ!?」
宿で床についていたジュハ達一行もこの異変で飛び起きていた。
「城の方で何かがあったようです。」
城下の探索をしていた青燕は突然の轟音に気がつき城へと向かった。
だが、その轟音に呼応するかのように、町自体がグラッとゆがみ青燕の足を滑らせた。
「なに?!」
青燕は足を取られその場に叩きつけられた。
だが起き上がろうとする青燕が見た物は、昼間活気に溢れて居たはずの町が今は廃墟に見える。
自分が見ている物を信じられなく何度も目をこすり、見直すがその目に映るのは廃墟だけだった。
『まさか!これは幻術!?』
危険を察知した、青燕はふらつく頭を振り、ジュハ達一行の泊まる宿へと急いだ。
「ジュハ!なんか町中が変だ!」
窓から見える外を見たあまめが見た物は、まるで死人の様にうろつき回る人々。
その時、ジュハらが泊まる部屋を人影が囲っていた。
「なんだ!どうなっている!」
ジャハムドが突然襲ってくる人々をとっさにはねのけジュハらの部屋へと走った、
「ジュハ様ー!危険です!お逃げ下さい!!」
「ジャハムド!」
ジュハは突然襲ってきた、まるで死んだ者のように見える人々を避けながら宿の外へと飛び出していく。
それを待っていたかのように、町中から溢れ出てくる死人達。
一人一人手に鎌や包丁、鍬など武器を持っている。
何者かに操られた様に、徐々にジュハ達を囲み襲いかかってくる。
「こっ!これは!八家衆を襲った死人衆?!」
城下の探索をしていた伊賀の忍び達も、死人達に苦戦しながらジュハ達の元へ集まってくる。
伊賀の忍びが放つ手裏剣もこの死人達には通じなかった。
斬りつけても倒れても、何も無かったように起き上がってくる。
周りにはどんどん数を増した死人衆で溢れんばかり。
その時、青い炎とともに爆発!
青燕の放った《青炎爆裂弾》
さすがに爆風の威力は強く、死人達の体を粉々にしていく。
だが、その攻撃もむなしく、死人の数は益々増え完全にジュハ達はその脱出路を閉ざされていた。
「このままでは・・・・」
崩れてくる天井を避け、廊下へ逃げ出す咲耶と希望、京は廊下に出て驚いた。
廊下に居るのは、紛れもなく死人衆。
身なりは家臣の様に武士の服装をしているが、目には生気がない。
「なんと言うこと!?この城にも死人が・・・」
そう叫ぶ咲耶に京が間髪を入れずに叫ぶ。
「にげろ!この城は奴らの城だ!!」
その時、阿砂を追って天井を破って天守閣の化け物が現れた。
「クワッハハハハハ・・・・もう逃げられないぞ!儂の餌となれー!!」
咲耶がその化け物を見た。
「秀吉!?」
確かにその化け物は秀吉の顔を持っていた。
だがその下半身は、まるでヒルの様にふくらみ巨体を引きずるようにして阿砂めがけ襲ってくる。
「やはりそう言うことか!」
何かに気がついていた京が、咲耶達をかばうように紫の魔剣《紫炎》を抜く。
更に剣を抜いたかと思うと、廊下に溢れている死人に向かって剣を振り下ろし咲耶と希望を逃がすため、次々と死人を倒していく。
魔剣に気を奪われた死人は本来の姿、骸骨へと変わり倒れていく。
「グハハハハハーいくら死人を切っても無駄だー!お前らはすでに儂の腹の中よ!」
「何!?」
京がその異変に気がついたとき、周囲は秀吉と呼ばれていた化け物と解け合い始まる。
「窓から飛び降りろ!」
阿砂は咲耶らに向かって叫ぶ。
「窓からって!こんな高い所からじゃ無理よ!」
咲耶が躊躇していると、京は咲耶と希望を抱きかかえ窓に向かって走り始めた。
それに続き阿砂も走り始める。
四人は躊躇することなく外に飛び出した。
「わっ!」
思わず叫ぶ咲耶。
だがその瞬間、四人は外堀に有る水の中へと落ちていった。
(ザバーン!)
咲耶はあまりの衝撃で気を失いかけたが、阿砂に助けられ水面へと浮かんできた。
「ゴホッゴホッ!」
何とか助かったと思った咲耶だったが、目の前に城もろとも自分の体とした秀吉の姿があった。
何とか岸にたどり着いた四人だが、なおも秀吉だった化け物がこちらへ向かって襲いかかってくる。
「逃さん!!」
なおも追ってくる巨大なヒルの化け物・・・・・・
四人は城下町を目指し突っ走った。
「なに?」
その四人に写ったのは、道を塞ぐように立ちつくす死人達。
「この町全体が奴らの巣か!?」
京のその言葉に、あの時の恐怖がよみがえってくる咲耶と希望。
だが今はそれ以上に、強大な化け物に追われ、前には死人衆。
例え京の魔剣《紫炎》があってもこれだけの死人を倒し逃げられるのか?
「咲耶!!!!」
咲耶は恐怖に身を震わせていたが、京の一喝で冷静さを取り戻す。
阿砂が火薬を使い秀吉に攻撃するが、全く効いていない。
その時、咲耶が持つ宝玉《禍つ月》が光り輝き始めた。
まるで魔剣《紫炎》の光に反応するように。
「その玉は?!」京の声に咲耶は魔剣《紫炎》と同じ輝きを持つ宝玉《禍つ月》を取り出し紫炎に近づけた。
魔剣《紫炎》はそれに呼応するかのように光を増し始めた。
『ひょっとして紫炎と禍つ月は同じ力を持つ物?!』
そう思ったとき咲耶は一つの考えに辿り着く。
「京さん!この禍つ月を!」
咲耶から受け取った禍つ月を京は魔剣《紫炎》にくくりつけ、秀吉だった怪物へ斬りつけた。
(ぎゃーーーー!!!)
切っ先から溢れんばかりの紫の光を放ち、魔剣《紫炎》は秀吉の腹部を切り裂いた。
「いける!」
京は次々に怪物めがけ、紫炎を振る。
その切っ先は紫の光を放ちながら次々に秀吉めがけ斬りつけていく。
だが、傷つきながらも倒れようとしない怪物、秀吉。
その時京がふらついた。
「くっ!」
咲耶は京の異変に気がついた。
魔剣《紫炎》は、つかう者の霊力を吸い取る。
だが、今の紫炎は、禍つ月の力を借りて凄まじい力を得たと同時に、京の霊力も大量につかって居るのだと。
「京さん!私の力を!」
そう言うと咲耶は、京が持つ魔剣に手を添えた。
その瞬間!魔剣は益々その怪しき紫の光を放つ。
振り下ろされたその魔剣の威力は、秀吉の体を真っ二つにした。
「グワーーーーーッ!!!」
あまりの魔剣の力におののき、秀吉はその巨体を死人達の方へと引きずっていく。
その怪物秀吉にふれた死人が次々と秀吉の体へと吸い込まれていく。
大量の死人を飲み込んだ秀吉は、以前にも増してその禍々しさを強め、悪しき気をまき散らしながら、咲耶達めがけ、突進してくる。
「ノンちゃん!!」
希望を呼ぶ声に反応して希望も咲耶と共に、京が持つ魔剣へと手を差し出した。
三人の霊力を集め、禍つ月の威力を持った魔剣《紫炎》は天にも届くかと思われる程、紫の光を放つ。
三人は突進してくる秀吉に向けてその魔剣を振りおろす。
一瞬!禍つ月がはじけ散り周囲を紫の光が覆った。
その光は全ての邪を払うかのように輝きそして消えていく。
静まりかえった尾張の町。
朝日の光を浴びて徐々に真の尾張を照らしていく。人々の活気に溢れた町は、もう何処にもなかった。
本来の姿、廃墟と化したその町に、戦いを終え疲れ切って立ちすくむ咲耶一行がただ呆然と朝日の光を浴びていた。
「大丈夫ですか?京さん」
「あぁ、おまえ達のお陰でこいつに力を全て吸い込まれずに済んだ。」
そう言って京は、咲耶と希望に初めての笑顔を見せていた。
「あっ!京ちゃん笑った!」
希望の明るい笑顔に京は、初めてそのぬくもりを感じた。
「これからどうします?咲耶さん」
いつの間にか集まった仲間達。
ジュハのその問いに咲耶は、今ははっきりと感じている悪しき気が集中するその森を指さしていた。
ここに居る者達全て、その指さす所に悪しき根元が有ることを認識していた。
目指すは悪しき気に覆われた森《羅刹の森》。
だがその森には、今まで以上の魔が潜むことを彼らは知らなかった。
絵巻その四「罠?そして魔の森」終わり。
絵巻その五「決戦?そして集結」へ続く。
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■幽幻戦国絵巻?せぶん |
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■絵巻その三【友情?そして誤解】
いつもは鯨を追いかけて漁をする小さな漁船の船団だが、今甲板に居るのはどう見ても漁師とは思えない出で立ちの少女とそれを守るように座っている異国の男たち。
まるで仏教僧の様な身なりをしているが、日の本の僧侶とはまるで違う。
船足はそれ程速くはないが穏やかな風に包まれ帆をなびかせ進み続ける船団。
この船団は今、異国からの荷物や久しぶりに我が家へと帰る漁師たちの家族を思う気持ちを満載して徐々に日の本に近づいている。
この海の上では、日の本や世界で行われている終わりのない戦乱とは全く無関係なそんな穏やかな唯一残された平和な場所でもあった、例え陸の上では戦いが行われようと海を生活の場としている者にとってこの海は戦いとはあまり無縁でもある。
だが、それでも他人の者をかすめ取ったり、冒険を気取った海賊と称する輩が居ないわけでもない。
それでも今はこの船団には無関係である。
只、家族の待つふるさとに向けて帆をなびかせている。
小さな漁船と言っても大陸を行き来するだけの装備は勿論、船で働く者は幾度もの大風と大波を戦い抜いた強者ばかりである。
そんな船団の一つ、〔九竜丸〕と名付けられた異国の少女を乗せた船の上にもう一人の少女が乗っている。
大の大人を指図して決して大きくはないこの船を操って居る。
「おい!あまめ!風の具合はどうだ?」
この船の船長らしき男がその娘に聞いている。
「親父!大丈夫だ!あとはこの風に乗り一気に日の本さ!」
そう言う娘の答えにしわくちゃな顔を益々しわくちゃにして笑う船長。
「もうお前も立派な船乗りだな。これで安心して引退できるわ!」
そう言うとガラガラ声で大きく笑ってみせる。
「なにいってんだ!親父が大人しく引退する玉かぁ!!」
あまめと言われるこの娘、どうやらこの船の船長の娘らしい。
「こら!作治!さぼってるとこの船からたたき落とすぞ!!」
女と思えぬその言葉に作治もそそくさとどこかへ逃げていった。
「俺が目を離すとすぐこれだ!」
「そう言うなぁ、あまめ。奴らだって久しぶりのふるさとなんだから家族を思ってボーとする事もあるわな!」
そう言って娘の勇ましさに船長は高笑いを決め込んでいた。
「そういやぁ?親父!あいつら堺でおりるんだろう?」
「あぁ?なんか分けありらしいなぁ?良く知らんがな。」
「ふ?ん?、あいつらなんでわざわざこんなぼろ船に乗ったんだろうなぁ?もっと大きな船だってあったろうに。」
「おいおい!ぼろ船とはなんだぁ?俺とお前の大事な家じゃね?かぁ?」
そう言って二人は顔を見合わせ大声で笑った。
そんな船乗りたちを載せて、この船は真っ直ぐ日の本を目指して穏やかな海原を帆に風をいっぱいはらませて進んでいく。
その夜、寝静まった甲板の上に異国の少女が一人、月を眺めながら風に吹かれていた。
見張りをしていたあまめは、何となく気になり少女を見つめていた。
ずっと大人たちと一緒にこの船で生まれ育ったあまめには同年代の少女と言うのは珍しい事でもあったためか、航海を始めたときから気になっていた。
あまめはそんな少女に声をかけてみる事にした。
「おい!あんた!あんたら何処の国から来たんだぁ」
突然声をかけられた異国の少女は驚いた表情で振り返った。
「あっ!ごめん!脅かすつもりじゃなかったんだけど・・・」
照れた様に頭をかきながらあまめは少女に話しかける。
「その前にあんた!俺の言葉解るか?」
何も言わず、にっこりと笑ってこちらを向くその少女にあまめは赤くなる自分の顔を想像していた。
「異国から来たんだから話せる分けないかぁ・・」
独り言の様にあまめが言うと、異国の少女はあまめの期待を裏切るかのように日の本の言葉で話し始めた。
「私は仏教国から来た、ジュハ・ラマーナと言います。」
あまりにも自然な日の本の言葉に、あまめは少し驚いた。
「あっ!話せるんだぁ?良かったよ」
益々照れて真っ赤になる顔を想像したあまめは、照れを隠すように話し始める。
「あのさぁ?異国からこんな遠い所に来て不安じゃないか?」
あまめは必死に何か話題が無いかあたりを探しながら話を続けた。
「こっ・・こんなぼろ船に乗らなくてももっと大きな船だってあったろうになんでこの船に乗ったんだ?」
それを聞いたジュハは微笑みながら流暢な日本語で話し始めた。
「確かに不安はありますが、一人じゃありませんし、この旅にはとても大事な役目がありますから。それにあなたが立派にこの船を操っているのを見てとても安心していますよ」
あまり誉められた事が無いあまめは、益々顔が赤くなるのを感じていた。
「おっ、俺は子供の頃から親父と一緒にこの船で育ったからこの船を操る事なんか大した事じゃ無いよ。」
「いいえ。凄いと思います。私なんか寺院で育ったので、あなたの様に色んな所へ行くこともありませんでしたし、親と離ればなれで育ちましたのであなた達親子がとてもうらやましいです。」
ジュハは少しさみしそうに言った。
「そうかぁ?あんたより自由に旅を出来る俺の方が幸せなのかぁ?俺はてっきりどこか裕福な国の姫様かと思い贅沢三昧で育ったのかと思ったよ。」
そう言ってあまめは、ひとりぼっちで寺院で暮らすことを想像してみたが寺院自体ほとんど知らないあまめには想像さえ出来なかった。
「そう言えば、名前言ってなかったな、俺は・・・」
「あまめさんでしょう。」
ジュハはにっこり笑ってあまめの名を呼んだ。
「なっ、なんだ?知ってたのかぁ?」
「はい。船で働く人たちが、いつも『あまめちゃんはおっかねぇ?からなぁ?』って言ってます。」
「あっ!あいつらー!」そう言って怒るあまめを見てジュハはくすくすと笑い始めた。
そんなジュハを見て、あまめも照れながら笑って居た。
同年代の子と話す機会があまりない二人は段々と仲良くなって行った。
「それにしてもジュハはこんな遠くの日の本に何しに来たんだ?」
そう言われたジュハは少し困った様な様子を見せる。
困っているジュハを見てあまめは自分が聞いてはいけない事を聞いてしまったと少し反省した。
「いや!良いんだ!誰にだって話せないことあるもんな。」
「うううん。そうじゃないけど普通の人が聞いても理解出来ない位・・・・まともじゃない様な話だから。」
「大丈夫だよ!こうやって色んな所を旅してると、信じられない話なんて沢山あるしそれに海の上も結構不思議なことが起きるから。」
あまめの言葉にジュハは、何となく安心を覚えた。
「あまめさんも今色んな所で戦が行われていることは知ってると思うけど、その元凶がどうやら私たちが向かう日の本に有るみたいなの。それを調べて倒せるものなら倒すそれが私たちに与えられた使命なの。」
あまめはあまりの大きなそして重大な事にジュハが関わっていることに驚くと共に自分が考えたこともなかった世の中の為に同年代のジュハが絡んでいることに驚嘆するしか無かった。
「すっ、凄いなぁ?ジュハは。世の中の為に働いて居るんだぁ?戦うって事は命だって危ない事なんだろう?俺には考えられない位大変な事だよなぁ?」
「実は私にもよく分かりません。偉い方が私はその為に生まれたんだって言われ何も解らずこの旅を続けてるだけですから。」
大変な運命を抱えながら明るく話すジュハを見て、あまめは想像さえ出来ない自分を情けなく感じていた。
「それよりもあまめさんの旅の話を聞かせて貰えませんか?」
ジュハが考え込んでしまったあまめを見て話題を変えようと思った。
「うん!いっぱい面白い話、教えてあげるよ。」
今の自分がジュハに出来る事は、この航海の中楽しい気持ちにさせてあげる事だけだと思いあまめは一生懸命話してあげた。
そんな二人の少女を乗せた船は真っ直ぐに目的地へ向かって進んでいる。
「こっ、ここは・・・・」
深い眠りから覚めた咲耶は、まだおぼろげな意識の中、自分が何処に居るのか分からなかった。
だるい体を起こそうと右腕に力を入れた瞬間、激しい痛みを感じた。
「まだ動かない方がいい。」
聞いたことのない声の持ち主を捜すように、咲耶は意識を集中して声のする方へ目をやった。
「あなたは・・・」
ボーッと見つめる咲耶の傍らに、壁に寄りかかり刀を持った紫色をした髪と紫の着物を着た女が居た。胸には《凶》の文字が染め抜かれている。
「ここは何処ですか?私はどうしたのでしょう?」
まだ記憶が定かでは無い咲耶は、この紫の女に自分の疑問をぶつけてみた。
「ここか?ここは黒ヶ岳の麓、備前のはずれにある名もない村だ。」
紫の女は素っ気なく答えた。
「あっ、それから右腕の傷は一応手当はして置いた。」
あまりにも素っ気ない言葉に咲耶は、呆然と女を見つめた。
「あの、助けて頂いたのですか?」
「あぁ」
段々と咲耶はいらだちを感じ始めていた。
「そう言えば私ともう一人居たはずですが・・・」
その咲耶の言葉に、紫の女は、咲耶の隣を指さし
「その子ならそこで疲れ切って寝てるよ。大丈夫だ怪我はない。」
咲耶が振り向くと、希望がぐったりとした顔で眠っている。
心配げに希望を見る咲耶に紫の女は少し顔を上げて
「あんたその子に助けられた様なもんだよ。その子が居なけりゃ死んでいたかもな。」
咲耶はおぼろげな記憶をたぐり寄せながら考え込んでいた。
『そう言えば、死人に追われながら逃げていた私は、右腕に激痛が走りそのまま村の前で倒れ・・・ノンちゃんがかばってくれたのね』
「その子は大したもんだよ。一人であの死人五体と必死に戦って居たんだからね。」
紫の女は、少し優しい眼差しで希望を見つめていた。
その時、咲耶の声に反応したのか、希望が目を覚ました。
「さっちゃん・・・」
「ノンちゃん、ここにいるわよ。」
そう言うと希望は涙を浮かべながら話し始めた。
「さっちゃん、私、一生懸命戦ったよ。でもね・・何度倒しても倒してもあいつら起きあがってくるんだ、私・・・・」
戦って居たときの恐怖を思い出したのか、希望は泣き崩れた。
「それじゃ・・・・」
咲耶は、死人を倒したのが希望ではなく、紫の女であることに気づいた。
「あなたが倒して下さったのですね。なんと言えば・・・・」
すまなそうにする咲耶に、紫の女は大したことじゃ無いとでも言うように、
「たまたまあんたらを見つけたので加勢したまでだ。大した事じゃ無い。」
そう言い放つのを聞いた咲耶は、この紫の女の力強さを感じた。
「改めてお礼を言います。私は真宮咲耶、この子は希望、堺を目指して仲間と旅をしておりました。でも私たちをかばって・・・・」
それ以上の事は仲間を亡くした悲しみから言葉にならなかった。
「残念だが奴らと戦ってそうそう無事な奴は居ない。あきらめるんだな。」
あまりにも冷たいその言葉に、咲耶は怒りを感じた。
その表情を見て紫の女はすまなそうに、
「すまん。あまり人とは付き合いがないのでな。励ます言葉をしらん。気に障ったのなら許せ。」
そう言われた咲耶はこの女が悪気では無いことが理解できた。
「あの、よろしければお名前をお聞かせ下さい。」
「私の名は、京、当てのない旅をしている。風来坊って奴だ。」
「ふっ、」っと笑うその顔を見た咲耶は、京と言うこの女が悪い人では無いことが何となく分かった気がした。
咲耶は痛む右腕をかばい起きあがりながら自分の事を話し始めた。
「私たちは堺の港へ急がなければいけません。すぐにでも出立したいのですが・・」
お礼をしようと懐より金を取り出した咲耶を見て、
「礼などいらん。私が勝手に助けただけだ。それより一晩でも休んだ方が良い、かなり疲れてるようだしまだ傷口もふさがっては居ないからな。」
そう言われ、まだ動けぬ体と、泣きやまぬ希望の姿を見て、咲耶は京の言うとおり一晩ここで休むことを決めた。
「それにしても普通の刀では切ることも出来ない死人をどうやって倒したのですか?」
そう聞かれた京は、手に持った刀を抜きかざした。
「この刀は特別でな。気を吸い取る魔剣と呼ばれている。」
その魔剣は、おぼろげな紫の光を放ち禍々しく輝いていた。
「本当に禍々しい気を感じます。使い手を選ぶ真の魔剣ですね。」
咲耶にはその魔剣を見て、それを自由に扱う京の霊力の強さが分かった。
「あんたにはこの魔剣の事が分かるようだね。あんたもただ者じゃないと言うことだ」
「私は八雲の巫女ですから。何となく分かります。」
「あぁ?そう言うことか。」
「そんなことより、少し眠った方が良いぞ。急ぐ旅ならなおさらだ。」
そう言う京に促され、咲耶は深い眠りについた。
「おーい!陸地が見えるぞー!!」
船先に立つ余平が、遠くに見える陸地を見つけ叫んでいる。
「やっと日の本なんですね。」
ジュハが小さく見える陸地を見つめ少し安堵の様子を見せる。
「ジュハ!長い船旅がやっと終わるね。」
あまめの言葉に、ぐっと決意を新たにするジュハの姿が有った。
「あっ!ごめん!ジュハにはこれからが大変な使命が待っているだよね。」
ジュハは無言でうなずき真剣な眼差しで生まれて初めて渡る異国を凝視していた。
船はゆっくりと目的地、堺の港へと向かっていく。
段々と近づく堺の港。
船乗りたちは、久しぶりの故郷に歓喜の声を上げる。
船の姿を見つけ、港の人々も待ちわびた夫や父親、息子の姿を探し港へと集まってくる。
歓声と久しぶりの家族にさすがの海の男たちも涙にむせびながら必死に手を振る。
やがて船は、桟橋に横付けされ手際よく下船の準備をする男たちに混じって異国の一行が船との別れを惜しむかの様に身支度をする。
そんな中、ジュハは船上で生まれて初めて友と呼べる存在になっていたあまめと別れを告げるためあまめの元へやってきた。
「あまめ・・・・」
「ジュハ・・・・」
二人の間には、つかの間だが確かな友情が生まれていた。
別れを惜しみ抱き合う二人にあまめの父が声をかける。
「あまめ!おめぇ?異国から来た大事な友とこんな所で分かれても良いのか?」
「おやじ・・・」
その言葉に、あまめは決心した。
「親父!ごめん!おれ、ジュハの手助けをしてやりたい!何が出来るか分からないけど・・なんかしてやりたいんだ!」
その言葉を待っていたかのように、あまめの父は大声で怒鳴った。
「おう!行って来い!!」
そう言ってあまめの父は、初めて自分から旅立つ娘をしわくちゃな顔の笑顔で見送っていた。
あまめを加えたジュハ一行は、自分たちと合流するはずの八家衆の姿を探していた。
だが港には見あたらない。
「ジュハ、確かに港で待っている手はずになってるんだよな?」
あまめの問いにジュハはただ頷くだけ。
「そう言う感じの奴?居ないなぁ?」
あまめも色々探してみるが、それらしき一行は見あたらない。
「確か親書にはそう書かれて居たはずです。」
そう言ってジュハは親書を取り出し、あまめに見せる。
「え?と??」文字が読めないあまめには分かるはずも無かった。
すると親書には地図の様なものが書かれていることにあまめが気づく。
「あれ??これって住吉大社じゃ無いのか?」
それを聞いたジュハは地図に書かれたあまめが指さす文字を読み始めた。
「えぇ、確かに住吉大社とかいてあります。」
「じゃ、そこへ行けば何か分かるんじゃないのか?」
あまめに促されジュハとその一行は、住吉大社へと向かうことにした。
住吉大社へと向かうジュハ一行を見た沿道の人々は、奇妙な衣装に身を包む異国人を珍しそうに見ている。
だが一行には、そんな事はどうでも良かった。
待ち合わせ場所に現れぬ八家衆の手がかりを求め、住吉大社を目指し急いでいた。
何とか辿り着いた一行は、住吉大社の宮司に事の成り行きを説明し何か手がかりは無いかと訪ねるので有った。
「確かに八雲より八家衆の方々が二,三日前に到着すると連絡は御座いましたがそれ以後なんの連絡も無く、未だに来てはおりません。」
宮司の説明で一行は、これからの事を話し合っていた。
「なんでしたら、もう少しここで八家衆の方々をお待ちになってはいかがかな?」
そう勧める宮司に従い、ジュハ一行は、しばらくここで待ち様子を見ることにした。
「それにしてもおかしいですなぁ?八雲よりの連絡では、とうに着いても良さそうなものですが・・・」
その宮司の言葉を聞いて、ジュハは嫌な予感を感じていた。
「仕方有りません。明日一杯待っても来ないようでしたら、何か良からぬ事が有ったと判断して、私たちは先に目的地を目指します。」
「ジュハ、大丈夫なのか?俺たちだけで?」
「分かりません。この地へ着いてからひしひしと感じる悪しき気がどれほどのものか、私には計りかねています。ただこのままじっと待っていたのでは機を逃してしまうのでは無いかと思います。」
「しかし今までにも何度と無く、悪しき地を求めて旅立つ一行を見てきましたが未だ一組と言えど、帰った者はおらなんだと聞いております。」
宮司のその言葉でもジュハ一行の覚悟は変わらなかった。
元より、この使命の難しさ危険さは覚悟の上。
どんな事があっても使命を全うすべくこの異国の地をめざし長い旅をして来たのだから。
どのくらい眠っていたのだろうか?
咲耶は未だ痛む右腕を押さえながら目覚めた。
「さっちゃん、大丈夫?」
心配そうに覗く希望がそこにいた。
「ノンちゃん、私どのくらい寝ていたの?」
希望は咲耶の上半身を支えながら分からないという風に首を振った。
「三日三晩眠りっぱなしだ。」
聞き覚えの有る京の声だった。
「三日・・・・そんなに・・」
今から出発しても堺の港には三日はかかる・・・・そう咲耶は自分の為に大事な使命を全う出来ないのでは無いかと不安にかられた。
「すぐにでもここを出なければ・・・」
起き上がろうとする咲耶を心配そうに見つめる希望。
「私ならもう大丈夫よ。傷はともかく疲れは無いわ。」
そう言って咲耶は起き上がろうとした。
だが、三日三晩寝込んでいた体は、安定を失ってよろけてしまった。
「無理だな。その体で堺まで行くには。」
そうたしなめる京の言葉に逆らうように咲耶は荷物をまとめ始めた。
そんな咲耶の必死な姿を見て、京はあきらめたかの様に立ち上がる。
「待っていろ!どこかで馬でも探してこよう。」
そう言って京はどこかへと行ってしまった。
「さっちゃん、京ちゃんの言う通りにしようよ。」
そう言う希望の言葉に、咲耶はただうなずくだけだった。
「ノンちゃん、今あの人の事を、京ちゃんと言ったけど・・・・」
親しくなると誰でもちゃん付けで呼ぶ希望を知っているだけに咲耶は驚いた。
「京ちゃんはね。強いんだよ!あの剣であっという間にあいつら倒したんだから。それにね。話してみたら以外と優しい人だって分かって。」
そう言ってにっこりと笑顔を見せる希望に、咲耶は希望のどんな人とも仲良くなれる性格がうらやましく見えた。
そうこうしている間にどこからか京が一頭の馬を引いて戻ってきた。
「あいにく一頭しか見つからなかったがこれに乗った方が早くつける」
そう言って馬を咲耶達に渡した京で有ったが、どう扱って良いのか悩む咲耶達を見て・・・
「お前、馬に乗ったことが無いのか?」
そう言って京は、素早く馬にまたがると、咲耶の体を抱き寄せた。
「仕方ない!私が堺まで乗せてやる。乗れ!」
咲耶は何も言えず、ただ京の言うままになっていた。
そのあとに続き希望も飛び乗る。
「京ちゃんも一緒に行ってくれるんだぁ?」そう言ってうれしそうに笑った。
「お前?何度言ったら分かる!ちゃんは辞めろ!」
何故か照れた様な京の表情に咲耶は、自分が寝ている間に希望に手を焼いている京を想像して思わず笑いがこみ上げてきた。
「笑うな!行くぞ!」
照れた顔を隠すように京は二人を乗せて、馬を走らせた。
三人を載せた馬は一路堺へと疾走していた。
住吉大社で一日を過ごしたジュハ一行は、全く現れる気配の無い八家衆をあきらめ、先を急ぐことを決めていた。
「仕方有りません。予定より四日も過ぎても現れないのでは我々だけでも先を急ぐしか有りません。」
ジュハ一行のリーダーと思われる仏教国の僧侶が住吉大社の宮司に別れを告げ旅立ちの支度を始めた。
次なる目的地は、尾張。
尾張を拠点として探索をする計画を立て一行は旅立っていった。
一行は近道をするため伊賀の森を目指していた。
伊賀までは最たる難所もなく、順調な旅であった。
しかし一行は異国の地に何が待ち受けているのかをあまりにも知らなかった。
森の中を徐々に進む異国の集団。
深い森を突き進みながらも一行は異国の森に苦戦していた。
それも仕方がないことだろう。
彼らにとって森は初めて体験する事でもあり、ここに住む者でさえ思うようには進むことの出来ない、それ程深い森であった。
更にこの森には、別の危険も有ることを一行には想像さえ出来なかったのである。
やがて一行の周りを囲むように何者かの一団が、音も立てず気配さえも消して徐々に徐々に、その間合いを縮めていく。
森はどんどん深くそして薄暗くなっていく。
「なんか獣でも出そうな感じの森だなぁ?」
海の事ならなんでも分かるあまめではあるが、森の中ではどうすることも出来ない。
そんなあまめとは違いジュハは何かを感じていた。
「あまめ。気をつけて。何かが近づいてる。」
ジュハのその言葉に反応するかのように、一行は周囲の警戒をしながら一歩一歩先を進んでいく。
その頃、三人を載せた馬は必死に街道をひた走っていた。
馬に乗ること自体初めての咲耶と希望は必死に京の体をつかみただ成り行きに身を任せて居る。
京はさすがに慣れているのか、往来する人々を避け、まるで自分の体のように自在に操っている。
「大丈夫か!?腕の傷は?!」京の咲耶を心配するその声に咲耶はうなずく。
馬に振り落とされないようにするだけで精一杯だった。
どのくらい走っただろう。
あたりは暗くなり始めていた。
「おい!そろそろ堺だ!港へ行けばいいのか?」
すでにおちあう日は過ぎている事を知っている咲耶は一行が立ち寄りそうな所を考えていた。
『確か住吉大社の所在を親書に託していたはず・・』その事を思い出した咲耶は、京にその事を告げる。
「分かった!真っ直ぐそこへ向かう!」
そう言うと今にも倒れそうな馬にむち打ち住吉へと向かった。
「どうどう!!」京のそのかけ声と共に馬はその疲れた足を止めた。
「着いたぞ!」
その言葉に安心したのか、咲耶と希望はふーっとため息をついて馬を下りた。
今にも倒れそうな馬に咲耶は手を当て。
「ありがとうね。」と、優しくなでるのであった。
馬の蹄の音と、いななきを聞いて、住吉大社の宮司が外へ出てきた。
「どうなさいました?」
息も絶え絶えに咲耶は事の成り行きを話し始めた。
「それは難儀なことで。しかし異国の方々はもうすでに出立致しました。」
「やはりそうでしたか。」
「それで何処へ行くと言っておられましたか?」
そう言うと宮司は森の方を指さし、
「尾張を目指し伊賀の方へ向かいましたが。」
「それでは私たちも尾張を目指します。」
そう咲耶が言うと後ろに控えていた京が口を挟んだ。
「やめておけ。今からでは伊賀の森はぬけられん」
京の言葉に咲耶はあたりがすでに暮れかかっていることに初めて気がついた。
「そうですよ。今日はここで体を休め明日朝、出立なされてはいかがです。」
一日中何も食べていないことにも気づき、仕方なく宮司の申し出を受ける事にした。
『伊賀の森か・・・』
京は心の中でつぶやいていた。
深い森はいつしかジュハ一行を暗い闇の中へと連れて行く。
まだ夕刻だと言うのにこの森はすでに夜の様に暗くなっていた。
方向を失ったジュハ一行は、これ以上先へ進むのをあきらめ野宿を余儀なくされていた。
「どうしようも有りませんね。朝になれば少しは明るくなります。今日はこの辺で休みましょう。」
そう言うと一行は寝床に適した少し開けた場所に火をたき、そこで一夜を過ごすことにした。
周囲は森が作り出す暗闇で何も見えなくなっていた。
だが、その暗闇の中獣のように音も立てずにこの異国の一団を見守る者達が居た。
一行はそれぞれ四方に見張りを立て、焚き火を囲うように異国の森での疲れを取り始めた。
あたりは時々鳥のさえずりが聞こえるだけだった。
一行が眠りに誘われ始めたとき、一行を見守っていた集団が動き始めた。
少しずつ少しずつまるで獣が狩りをするかのように忍び寄る。
「うっ・・・」
見張りの者が声にならないうめきを立て暗闇へと消えていく。
又一人、又一人と同じように暗闇へと消えていく。
ジュハが何者かの気配に気がつき、目を開けた瞬間!
ジュハの体は宙に浮き次の瞬間ジュハは気を失っていた。
やがてあたりは何も無かったように暗闇に支配されていた。
翌朝、咲耶と希望は宮司に手渡された食料と道を記した地図を貰いジュハ一行が辿ったと思われる道を急ぎ足で歩き始めた。
「おい!」
咲耶達の後ろから住吉大社で分かれたはずの京の声がした。
「京ちゃん!」
二人は馬に乗り自分たちのあとを追って来た京を見て驚く。
「どうしたのですか?」
咲耶の問いに少し恥ずかしそうにいつもの口調で言い放つ。
「馬で行った方が早く着く。乗れ!」
そう言うと京は咲耶に手を差し出す。
「やっぱり京ちゃん一緒に行ってくれるんだぁ?」
そう言う希望の顔を見て、京は真っ赤な顔をして言った。
「何度言ったら分かる!ちゃんは辞めろ!今度言ったら殴るぞ!」
いつもの天真爛漫な希望の笑顔を見て場が悪そうに京は怒って見せた。
しかし当の希望はうれしそうにニコニコしているだけ。
そんな希望を後ろに載せ、三人を載せた馬が疲れた体にむち打ちながら伊賀の森へと疾走し始めた。
馬の足では伊賀の森もそれ程時間もかからず到着した。
「この先は馬では無理だ。これからは歩いて行くぞ。」
命令口調で話す京に咲耶は以前よりは信頼を寄せていた。
役目を果たした馬に別れを告げ、三人は深い森へと進み始めた。
いつも以上に怖い顔で進む京の顔を見て咲耶は気になった。
「どうしたのですか?何かこの森には有るのですか?」
そう言うと京は昨夜から聞いていた伊賀の森について話し始めた。
「この森には、昔から忍びと呼ばれる奴らが住んで居るんだ。
奴らはこの森を自分の庭のように熟知し、獣の様に身を隠し行動する。
ただの旅人なら決して襲ったりはしないが、怪しい者に対しては襲うこともある。」
それを聞いた希望が面白そうに聞く。
「ねぇ?それって人間なの?それとも獣?」
「お前は馬鹿か!獲物を選んで襲う獣が居るか!」
その言葉に、心の中でつぶやいていた。
『だったら私たちは確実に狙われるわね。京さんと一緒じゃ。』そう言うとクスッと笑った。
「何がおかしい?」
希望も咲耶が考えた事が分かったようで同じく笑い出した。
「お前らな?」
そう言った京は少し後悔していた。
ずっと一人で旅をしていた自分がどう見ても幼いこの二人にもて遊ばれて居る事に。
だがその反面、この二人の汚れを知らぬ純真な心に何かを感じていた。
『まぁ?良いか、行く当ての無い独り身だ。』そうつぶやく京は、自分が少しずつ変わっていくのを『悪くはない』と、思い始めていた。
三人は段々と薄暗くなる森の中をなおも進んでいく。
そんな三人を見守るように何者かがあとをつけ始めた。
京はその気配に気づき相手の出方を見るため知らぬ振りを続け歩き続けた。
更に気配は増えていく。まるで三人を見極めようとするかのように。
そんな京の様に咲耶も又何者かの気配を感じていた。
「どうやら私たちも狙われているようですね。」
「お前も感じていたのか。どうやら囲まれたようだ。」
「しかし私には彼らから邪気は感じられません。見張っているだけでは無いのですか?」
「だと、いいがな・・・」
そう言いながら三人は深い森をどんどん進んでいく。
先の方に少し開けた場所を見つけ三人はそこを目指した。
少し開けた場所に出た三人は人が着けたと思われる焚き火のあとを見つけた。
その焚き火のあとをなにやら探っていた京が咲耶に小声で話す。
「どうやらおまえ達が探していた奴らもここに居たようだな。まだ暖かい」
そう言って焚き火の枝を拾い京は何を思ったか茂みの中を目指し枝を投げつけた。
「グッ」
何者かのうめきが聞こえその瞬間三人の周りにいた何者かが動き始めた。
「貴様ら!伊賀の忍びか!?」
その京の声に反応したのか、何者かの動きが一瞬止まった。
「我々はこの森を守る者!」
そう言うと彼らの動きは素早さを増しあたりは一瞬にして三人を囲む黒い衣装に身を包む集団に囲まれていた。
一人の忍びが合図すると集団は森へと散り始める。
〈シュッ!〉
何かが飛んでくる音が聞こえたかと思うと、京が素早くそれを交わした。
それを合図に四方から同じように何かが飛んでくる。
〈シュッ!〉
〈シュッ!〉
京が身をかわし、時には枝で払いのけその攻撃を交わしている。
希望も《龍金闘》でそれをたたき落としている。
咲耶は必死にそれをよけるだけが精一杯だった。
それは手裏剣と言われる忍びが使う道具である。
殺傷力は弱いが確実に敵の動きを封じることが出来るこの森では有効な武器である。
手裏剣では京たちを捉えられないと悟った忍びたちは、素早い動きで木々に飛び移ると刀を抜き今度は斬りかかってくる。
その動きにも惑わされることなく、京と希望は相手の剣を交わし一撃を加える。
だが傷つけるつもりのない京と希望の攻撃に忍びの動きが変わった。
さっ!と茂みに身を隠したかと思えば、一人の忍びが静かにこちらへ向かってくる。
「どうやらあなた達は我々に敵意を持っていないようだ。」
その忍びに向かって咲耶が口を開いた。
「私たちは、尾張へ向かった仲間を追ってここまで来ました。あなた方に心当たりが 有るのでしたら教えていただけませんか?」
その咲耶の姿を見て、その忍びはおもむろに覆面をとり、話し始めた。
「昨晩この森に異国の者達が進入した。彼らはそなたたちの仲間だったのか?」
「はい。有る目的の為、堺で落ち合うはずがこちらの不備で先に尾張を目指したものと思われます。所在をご存じで有ればお教え願えませんでしょうか?」
丁重な物腰に一人の忍びは、自らの誤解を悟り、昨日の行動を話し始めた。
「彼らは我々の里に捉えております。どうやら我々の早とちりだったようですね」
そう言うと忍びは、周りを囲む仲間に合図した。
その合図を見て茂みからぞろぞろと同じように黒い衣装を着た忍びが現れた。
同じように覆面をとったその忍びたちは、以外と若い少年の様な者や、女も混じっていた。
「どうか訳も聞かずに襲ったこと、お許し下さい。」
忍びのリーダーと思われるその男が、自らの過ちを認め咲耶たちに謝罪した。
「しかし伊賀の忍びは、滅多に旅人を襲わぬと聞いていたが・・・」
京のその言葉に、その男は暗い顔を見せ語り始めた。
「今この森は他国と同じように何者かの攻撃を受けかなりの仲間が倒されています。
その為に怪しい者は全て捉える事。それが我々が受けた指令です。」
「それでか。通りで若者が多いと思った。」
京はそう言うと刀を鞘へ納めた。
「捉えたと言われる異国の人たちに会わせて頂く訳には参りませんか?」
咲耶はその男に切り出した。
「分かりました。ご案内します。こちらへ」
そう言うと、リーダーと思われるその男は三人を伊賀の里と言われる森の奥へと全ての忍びと共に消えていった。
絵巻その三「友情?そして誤解」終わり。
絵巻その四「罠?そして魔の森」へ続く。
Close.↑
■幽幻戦国絵巻?せぶん |
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◆ オリジナル小説 ◆ Comment 0 ◆ Trackback 0 ◆ edit.
■絵巻その二【別れ?そして出会い】
ある者は、生きるために重い荷物を背負い一歩一歩見えぬゴールを目指し歩いていく。
又ある者は、やっと生まれた土地に帰れる喜びを胸に先を急ぐ。
険しい山道を抜け、川を渡り人それぞれの目的に向かってこの街道を歩いている。
そんなこの街道に小さな娘、二人をつれて黙々と歩き続ける集団があった。
僧侶か修験者の様なその出で立ちは、行き交う人々に異様な光景として写った。
「なんじゃ?」行き交う人々は、一時その奇妙な一行に目をやり聞こえぬ声でつぶやくが、ふっと我に帰り自らの目的地に向かって又歩き始める。
「姫様、疲れませんか?」白装束に身をまとった娘を気遣うように言いながら修験者風の一人がつかず離れず間合いを取り、その娘を守るように歩いている。
「大丈夫ですよ。紅蓮さん。まだまだ先は長いのですからこんなところで疲れたなんて言ったらノンちゃんに笑われちゃいます。」
そう言いながら娘は、紅蓮と呼ばれる修験者風の連れに微笑みながら答える。
「それにしても希望様は、元気ですね。あんな小さな体の何処にあれほどの体力を持っているのでしょう?」
先頭を元気いっぱい、鼻歌交じりで歩くどう見てもまだ子供の様な希望を見て紅蓮と呼ばれたその者が苦笑混じりでつぶやいた。
「そうですね。一番小さなあの子が一番元気な様です。」そう言って娘は笑顔を見せる。
「姫様はともかく、希望様にはこの旅は少々きつい様な気がしていたんですが・・・」
紅蓮が汗を拭きながらそう言うと、にっこり笑って娘が答えた。
「あの子は、おそらく体力では八家武闘衆の方々にも負けないと思いますよ。」
「えっ!?そうなんですか?」紅蓮は呆気にとられた様に答える。
「それと、紅蓮さん。姫様と呼ぶのを辞めてくださいませんか、誰かが聞いたらどこかの姫様と勘違いされます。」そう娘が言うと、紅蓮は真剣な顔で
「我々、八家武闘衆にとって、八家衆の方々は自らの命をもってお守りするべきお方です。ましてや姫様は、次期北門の当主となられるお方、私にとっては大事な姫様です。それに姫様も私をさん付けで呼ぶのをお辞め下さい。」真剣な顔の紅蓮を見て娘はからかうように言う。
「ではこうしましょう。私は紅蓮と呼びますので、紅蓮も私を咲耶と呼んでください」
「そっ、それは・・・」
そう言われた紅蓮には、場が悪そうに苦笑いをするしか無かった。
そんなたわいのない話をしながら咲耶達一行は平和な旅を続けるのであった。
「咲耶様、そろそろ日も暮れます。ここらで今夜の寝床を探しましょう。我々が手分けして探してきますので、咲耶様はここでお待ち下さい。」
八家武闘衆・師範、この一行のリーダー的存在の練鉄が、咲耶に告げると後続の八家武闘衆らに寝床となる場所を探させる。
咲耶はこれにうなずきながら、疲れた体を癒すために側にあった石の上に腰掛けた。
さすがに気丈な咲耶も一日中歩き続けるこの旅に疲れの表情を隠せなかった。
「さっちゃん!大丈夫?」一日中同じように歩き続けたはずの希望はまだまだ歩けるよ!と言わんばかりの明るさで咲耶の顔をのぞき込む。
「ううん。大丈夫よ。ありがとう、ノンちゃん!」
明るい笑顔の希望を見て、少し咲耶も元気を取り戻した。
「それにしても希望様は元気いっぱいですね」咲耶を気遣いながら紅蓮は希望の小さな体の何処にこれだけの体力があるのだろうかと、不思議でしようが無かった。
「父上の修行に比べたら全然大したこと無いよ」
「李宮家の方々は、皆武術に長けているとは聞いておりましたが・・・」
紅蓮はあまりの希望の明るさと、見えぬ底力の深さに言葉を失った。
やがて八家武闘衆の一人、界基が壊れ掛けた人家を見つけ咲耶達の元へ戻ってきた。
「練鉄様、もう少し先の方に、雨露をしのげるあばら屋があります。今夜はそこを寝床とした方が良いかと。」
その報告を受けた練鉄は、全員が集まるのを待って、あばら屋へと向かった。
あばら屋についた一行は、周囲の安全を確認した上で、咲耶達と共に中へと入る。
「こんばんは?ごめん下さい。はい!どうぞ!」
希望のひょうきんな一人芝居に一同は一日の疲れを忘れるような気持ちになれた。
その夜、咲耶は、これから起きるであろう苦難を忘れ深い眠りについていた。
その隣にはまるで赤子の様に希望も又、深い眠りの中にいた。
交代で周囲の見張りをする八家武闘衆達。
「兄上」見張りの交代に紅蓮が、兄・練鉄の元にやってくる。
「紅蓮、姫様達の様子はどうだ?」
「はい。ぐっすり眠っておられます。」
「そうか、姫様達には野宿の旅は、酷かも知れんなぁ」
そう言うと、練鉄は紅蓮に隣へ座るように合図する。
「確かに咲耶様はかなりお疲れのようですが・・・」
紅蓮が何を言いたいのか何となく練鉄には解った。
「希望様だろう??」
「はい。あの小さな体で八家武闘衆以上の力を秘めているとはどうしても信じられませんでしたが、旅を続ける中で、何となく解って来ました。」
「大人でも一日中歩き続ければ疲れも出ると言うのに、全く疲れたご様子が見受けられないばかりか、逆にあの笑顔で私たちが励まされます。」
「そうだな」そう言うと、練鉄はその場で横になった。
「紅蓮、お前もこの旅の危険さは解って居るとは思うが、いつどのような形であろうとも姫様達だけは、命に代えてもお守りする覚悟を忘れるな」
「解っております。選ばれた時から、自分の命は捨てております。」
「・・・・・・」
練鉄は浅い眠りの中、実直なこの妹を誇りに思うと共に、出来るなら無事に二人の姫と妹がこの運命を乗り越えてほしいと思うのであった。
日もまだ登り切らない次の朝、人気も無いこの街道に、先を急ぐ咲耶一行の姿があった。
一行の旅は続いた。
険しい峠をいくつも超え、関所と言われる何処の大名の管轄下も解らぬ、人々を苦しめる只金儲けの為だけに作られたにわか作りの門をくぐり抜けながら咲耶一行は黙々とこの街道を進んでいく。
最後の峠、黒ヶ岳の麓までやっとたどり着いた一行は、夜の峠越えを避け宿場町に居た。
「咲耶様、今から峠を目指すとなると夜になってしまいます。今宵はこの宿場で宿を取りましょう。よろしいですか?」
練鉄が咲耶の体を案じ最後の難所であるこの峠を越える前に宿で一休みする事を提案する。
「そうですね。たまには宿で寝るのも良いですね」
練鉄の自分を思う気持ちに気がつくと共に、毎晩夜通し交代で見張りを立てている八家武闘衆らを案じ笑顔で答える咲耶であった。
「ノンちゃん!ここには温泉があるみたいだから、あとで紅蓮と三人で入りましょう。」
それを聞いた希望は、いつにもまして満面の笑顔で喜んでいる。
「ね?ね?さっちゃん!ここには名物とかもあるかな?」
目をきらきらさせて希望が言った。
「ノンちゃん、やっぱり食べ物の方がいいのね。」
「希望様、温泉には温泉まんじゅうが付き物ですよ。」そう紅蓮が言うと「うおぉ?!!!」希望は益々目を輝かせてはじゃぎ回っている。
そんな希望にいつも力を貰っていると改めて思う咲耶と八家武闘衆の一行であった。
一行は、宿場の客引きの案内のままに一軒の宿に入った。
「ふ?っ??やっぱり温泉って良いね?」
「そうね?旅はやっぱり温泉が一番ね。」
「あれ?咲耶様は旅は初めてでは無いのですか?」
ちょっと不思議に思い紅蓮が咲耶に聞く。
「はい。初めてです!」
にっこり笑う咲耶に思わず紅蓮も吹き出した。
「紅蓮は色んな所を旅することもあるんだよね?」
真っ赤なほっぺたに茹で上がった希望が聞く。
「私もこういった旅は初めてですが、良く修行の時など、隠れ温泉を見つけ入ったりもします。」
「良いなぁ?私も隠れ温泉入りた?い!今度つれてってよ!」
「良いですよ。この旅が終わったら三人で一緒に行きましょう。」
「約束だよ!紅蓮!」
そう言うと希望は、赤いほっぺで益々子供っぽくなった顔で笑った。
その夜、久しぶりに布団で寝る咲耶は中々寝付けなかった。
希望は安心しきって横ですやすや眠っている。
寝付けぬ体を起こし、宿の窓越しに見える黒ヶ岳を眺めながら何となく不安に感じる自分が居た。
〈何か得たいの知れない物が近づいているような感じがする〉
心の中でそうつぶやきながら、益々大きくなる不安と戦っていた。
しかし無理をしてでも今、体を休めて置かなければこれからの戦いを生き延びる事は出来ないと自分に言い聞かせ、眠れぬ体を横たえる。
そのうち疲れ切った体と温泉の為か、うとうとと浅い眠りにつく咲耶であった。
次の朝、咲耶は温泉のお陰か、体からは疲れがとれていたが昨晩の不安から、体とは逆に重い意識で朝を迎えた。
咲耶が目覚めた時にはすでに八家武闘衆らは身支度を済ませ、咲耶と希望を待っていた。
「咲耶様、お体の疲れはとれました?」
紅蓮のいつもとは違う優しい言葉を聞いた咲耶は、重い意識を振り払い笑顔で紅蓮に答える。
「え?、やっぱり温泉のお陰かしら。すっかり疲れもとれましたよ。」
「紅蓮ちゃん?おはよう?」〈むにゅむにゅ・・・〉
まだ寝ぼけ眼で起きあがった希望を見て、咲耶と紅蓮は思わず吹き出していた。
素早く身支度を済ませ、宿屋を出た一行は、咲耶の不安を胸に黒ヶ岳へと向かった。
いつもと変わりなく黙々と峠を登り始める一行の中で、咲耶は先頭の練鉄に追いつき昨晩から感じ始めた不安を話し始める。
「練鉄さん、お話があります。」
咲耶の方から話しかけることがあまりなかった為か、練鉄は少し驚いた。
「どうかなされましたか?咲耶様」
「実は昨晩からこの黒ヶ岳に何となく不安を感じるのです。」
いつになく真剣な面もちで話す咲耶の話を聞いて練鉄はこの峠で何かが待ち受けて居ることを悟った。
「どのような不安かは解らないのですか?」
その練鉄の言葉に、少し困った咲耶が話を続ける。
「今まで悪しき気の流れは、出雲に居た頃から感じては居ました。でも今感じている不安は、そう言った物ではなく、私たち自身に起こる災いへの不安の様な感じがしてならないのです。」
「解りました。いつでも戦える準備をしながら進みましょう。」
「はい。」
そう言うと練鉄は、八家武闘衆一人一人に陣形を変えて進むよう合図する。
咲耶と希望を中央にして取り囲むような陣形を取り始めた。
「紅蓮、咲耶様と希望様の側を絶対に離れるのではないぞ。良いな。」
「兄上。心得ております。」
そう言って紅蓮は、咲耶と希望の前を歩き始めた。
先頭に、練鉄、次に紅蓮、咲耶と希望を挟むように、剛士、炎連、界基、央峰が両脇を囲い、朱連、甲礼、常念、才陣が後方を守る。
言い切れぬ不安と共に一行は、峠の頂上に辿り着く。
「今のところはなんの気配も感じませんね。」
「・・・・・・」
いやっ!近くにいる!そう咲耶は益々強くなる不安を感じていた。
「近づいています。人とも言えぬ何か得たいの知れない気が・・・・」
その言葉に練鉄、紅蓮、後方の八家武闘衆へと周囲の警戒を強めるよう指示する。
その時!
(ザザザザーーーー・・・・・・・)
何者かが茂みをかき分けて近づく音。
その音を聞いた練鉄は、
「少し早足になりますよ。良いですね。お二方。」そう告げると咲耶と希望は八家武闘衆の動きに合わせるように早足で動き始めた。
(ザザザザーーーー・・・・・・・)
(ザザザザーーーー・・・・・・・)
(ザザザザーーーー・・・・・・・)
『音が増えている・・・・』練鉄はドンドン増える音と人間とは思えない怪しい気配を今、はっきりと感じ始めていた。
『こやつら、思った以上に素早い!』
(ザザザザーーーー・・・・・・・)
(ザザザザーーーー・・・・・・・)
(ザザザザーーーー・・・・・・・)
益々増えていく気配に、練鉄は八家武闘衆に陣形を保ちながら全速力でこの場を駆け抜ける様に指示する。
急に早くなった八家武闘衆に遅れまいと咲耶は必死に走った。
(シュッ!シュッ!シュッ!)
(シュッ!シュッ!シュッ!)
(シュッ!シュッ!シュッ!)
『ダメだ!このままでは確実に囲まれてしまう。』練鉄は迷った。
このままでは咲耶さまが保たない。
そう悟った練鉄は、紅蓮に指示を与える。
「紅蓮!姫様達と先へ行け!」
それを聞いていた咲耶が練鉄に向かって声をかける。
「いけません!バラバラになってしまっては・・・・」
「解っては居ますが、相手が普通の人間ならともかく、我らと同等かそれ以上このまま逃げ切れるとはとうてい思えません。我らが奴らの足止めを致します。その間にお二人は紅蓮と共にお逃げ下さい。」
「しかし・・・・」戦闘のプロである練鉄の考えを変えるほどの戦術は自分にはないと解っている咲耶は練鉄に従う以外にない。
「私も戦う?!」希望が真剣な眼差しで練鉄に訴える。
「いけません!姫様方はこんなところで戦う為に旅をしているのでは無いのです!
我らの事よりも、これからの事をお考え下さい!」
「・・・・・・」希望にも練鉄の気持ちが痛いほど分かっていた。
心を決めた咲耶は練鉄らに向かって・・・・
「解りました。私たちは先へ進みます!でも必ず追いついて来てください!」
「ご心配下さりありがとう御座います。必ず生きて会いましょう。」
そう言い放つ練鉄であったが、敵の多さと悪気の強さからもう二度と会えぬ事を覚悟していた。
その時!茂みの中から素早い動きと身のこなしで、数人の怪しい気配が飛び出してきた!
〈カキーン!〉思わず受け止めた練達。
そして一行が見たその敵の正体は、紛れもなく人!?
だがそれは違っていた。
野武士の姿をしているが、その目に生気が感じられない。
二撃目が、紅蓮を襲う。
「とりゃー!」〈カキーン!〉
紅蓮の一撃が野武士の腹部を直撃!
『倒したか?』そう思った紅蓮の目の前で、倒したはずの野武士が何も無かったように立ち上がる!
『何?!』紅蓮は困惑した。確かに手応えはあった!
「紅蓮!この人達に生気は感じられません!死人です!」
その咲耶の言葉に、八家武闘衆は当惑した。
その間にも何度と無く、切り込んでくる野武士・・・いや!死人!
「とりゃー!」
「はっ!」
八家武闘衆一人一人が、死人の攻撃を交わしつつ疾走する。
「どこかに死人使いが必ず居るはずです!その者を倒さなければ・・・!!」
咲耶の言葉に練鉄は動いた!
もっとも悪しき気が集中する場所に、死人を操る物が居る!
そう思った瞬間!練鉄は小石を拾い念を込め始める。
「そこかぁー!!」
「ぐはっ!」
何者かに当たる気配を感じた瞬間、その死人を操る物が姿を現す。
「今のうちにお逃げ下さい!姫様!! 紅蓮!!!」
「兄上ー!」
そう言うと、紅蓮は二人の姫様を連れ、練鉄が開いた逃げ道を駆け抜ける。
「追えー!」
死人使いの言葉に数名の死した野武士が追おうとした時!
「はぁー!!」練鉄の念を込めた小石の連打で死人達は倒れる。
「なかなかやるなぁ?八家武闘衆」
「なに?何故我らの事を知っている??!」
敵の口から自分らの名前を聞いて、練鉄は絶句した。
「貴様ー!何者!?」
その言葉に反応したのか、死人使いと死人らは、練鉄らを囲うように取り巻き始めた。
『全部で五十体は居るのか!?だが何体居ようともこの死人使いを倒せば・・・』
練鉄たち八家武闘衆は、円陣を組み周囲を囲んだ死人と対峙した。
「ほ?真っ向から戦うつもりか?果たして貴様らごときで我が死人衆を倒せるかな?」
そう言うと死人使いは、不敵な笑みを浮かべた。
「貴様!何者!?何故に我らを襲う!?」
「まぁ?これから殺される相手の名前も知らずと言うのもかわいそうだなぁ?」
そう言って死人使いは血のような真っ赤な唇を歪ませてにやぁ?と笑った。
「我が名は、今川義元!千鬼の死人軍を率いる、戦鬼が一人!」
「何?!今川義元だと!」
あまりにも有名な武将の名を聞いて、練鉄は戸惑いを隠せなかった。
「何を言う!今川義元は百年前織田軍と共に滅びたはず!戯れ言を言うな!!」
「戯れ言だと?!!貴様らごとき虫けらに嘘を言ってどうする!!」
薄笑いを浮かべていた今川義元と名乗るこの死人使いは、先ほどとはうって変わって怒りの形相に変わっていた。
「我は百年前、あるお方より不老不死の力を得たのじゃ!そしてこの軍団を頂いた!そのお方が、お前らのような虫けらが居たのでは目障りだとおっしゃるのでな。」
あまりにも荒唐無稽な話を聞かされ、練鉄らは自分の耳を疑った。
「今川義元と名乗る悪しき鬼め!我ら八家武闘衆が地獄へ送り返してくれる!!」
「貴様らごとき人間風情が我にかなうかぁ?おろかものめ!!」
「八つ裂きにしてくれるわー!!」
今川義元と名乗る死人使いの号令で全ての死人軍は八家武闘衆めがけ一斉に飛びかかった。
「うおぉりゃー!・・・・・・・・・」
だが八家武闘衆といえども人間である。
倒しても倒しても尚、起きあがってくる死人軍に一人、又一人と倒されていく。
「剛士!炎連!界基!央峰!朱連!甲礼!常念!才陣!?!!!」
奮戦むなしく倒されていく・・・・・
追いつめられた練鉄。
『紅蓮!姫様たちを頼む!』心の声が森の中をむなしく響く。
「うおぁーーーー・・・・・・!!!!」
紅蓮、咲耶、希望の三人は必死で走っていた。
『兄上・・・』心の中で兄の身を思う紅蓮。
『みんな!無事でいて!』咲耶も必死に心の中で叫んでいた。
三人は一気に峠を駆け下りていく。
必死に戦っている八家武闘衆の雄叫びを背に受けながら。
だが必死に走っているはずなのに、一向に悪しき気配が消えない・・・
逆にドンドン近づいてくる・・・・
咲耶ら三人はそれぞれにその気配を感じていた。
『このままでは追いつかれてしまう・・・兄上・・・』
紅蓮はそう心で言いながら覚悟を決めた。
『兄上!ごめん!』
「咲耶様ー!このままでは追いつかれます!私が足止め居たします上お逃げ下さい!!!」
その言葉に、二人は足を止めた。
「何を言うのですか!紅蓮一人置いて逃げられません!」
「そうだよ!紅蓮ちゃんが残るなら私も残る!」
「お忘れになりましたか!?お二人の戦う場所はここではありません!」
「でも・・・・」紅蓮の言葉に咲耶と希望は返す言葉を失った。
「昨晩は楽しゅう御座いました。やはりお二人とも私にとってはかけがえのない姫様です。どうかこの紅蓮のわがままお許し下さい。」
その言葉を聞いた咲耶と希望。
「生きて又会いましょう。紅蓮」
「はい・・」
「三人の約束忘れちゃイヤだよー!」
「希望様・・・」
紅蓮の目に大粒の涙がこぼれる。
三人は頷きながらそれぞれの無事を祈った。
咲耶と希望は走った。
止めどなく流れる涙をこらえ、ただひたすらに麓の村を目指し。
どのくらいの時間走り続けたのだろう・・・
後方で紅蓮の鉄火連撃が炸裂する音が響き渡る。
だがその音もいつしか遠くなり、聞こえなくなりながらも二人は走り続けた。
苦しい旅を共にいたわりながら続けた大切な仲間。
今その大切な仲間を失い、只逃げるだけしかできない。
咲耶は悔しかった。
自分の力の無さに・・・・・
だが彼らの力もむなしく、悪しき気は二人を追ってくる。
ひしひしと感じるその恐怖感。
自らの命を盾に自分たちを逃がしてくれた仲間。
大いなる戦いのために投げ出してくれた命。
その全てが無駄になってしまう恐怖・・・・・
だが二人には逃げることしか出来なかった。
やがて二人の目に麓の村が見える・・・・
『村に着けば・・・・』
『村に着けば・・・・』
咲耶にはその村に着けば助かる。そう信じて走る以外何も無かった。
只がむしゃらに走り続けた。
「村だー」希望のその声に咲耶が『助かる・・・』そう思った瞬間!
咲耶の右腕に激痛が走る。
その激痛にたまりかねた咲耶は村の入り口で倒れ込む。
「さっちゃん!」
そう叫んだ希望は、とっさに咲耶をかばい龍金闘を構える。
だが、二人の周りにはすでに4,5体の死人が囲んでいた。
襲い来るその死人の攻撃を必死に交わす希望。
何度と無く倒すが、倒しても倒しても起きあがる死人たち。
もうあたりは暮れようとしていた。
どのくらい戦っているのだろう?
希望は何度も何度も死人を倒しながら考えていた。
咲耶の意識はもう無い。
倒れている咲耶を見ても希望にはどうすることも出来ない。
倒しても倒しても何度倒しても向かってくる。
その恐怖心と戦うだけだった。
『もうこのまま死んじゃうのかな?』希望があきらめかけた・・・・
その時!
一条の紫の光が希望の前をかすめ、死人が倒れる。
希望には理解できなかった。
今何が起きているのか。
倒れても起きあがってくるはずの死人が骨と化して消えていく・・・・
又、紫の光。
疲れ切り気が遠くなる希望の意識。
いつの間にかいくら倒しても倒せなかった死人が居なくなっている。
薄れゆく意識の中、希望の目の前に紫の光を帯びた剣をかざし自分を守ってくれている人がいる。
『あれ?・・・・・・・』
遠のく意識の中、希望はかすかな甘い花の匂いを感じながら気を失う。
『おやすみ・・・・さっちゃん・・・・』
絵巻その二「別れ?そして出会い」終わり。
絵巻その三「友情?そして誤解」へ続く。
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■幽幻戦国絵巻?せぶん |
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絵巻その一(旅立ち)
出雲大社を中心として、神事を司る霊的結界に守られた日の本では唯一、人並みの生活が出来る土地でも有った。
そしてこの地には、日の本随一と言われるほどの霊力を持ち人々から「姫巫女さま」と言われている一人の少女が先祖代々受け継がれた小さな社に住んで居た。
そこへ汗をかき、まるで飛び跳ねるウサギの様に小さな女の子が声を張り上げ「姫巫女」と呼ばれる少女の元へやってくる。
「さっちゃん?!大変だ?!!大変だ?!」
「なーにー?又ノンちゃんの大変?」と、全く驚くこともなく少女は微笑んでいる。
人々には「姫巫女さま」と呼ばれ、「さっちゃん」と呼ばれたこの少女名前は、真宮 咲耶(しんぐう さくや)年は15。
出雲の結界を守る八家衆・北門を守る真宮家の一人娘でも有る。
霊力の高さから年齢以上の思慮深さを持っている。
「ノンちゃん」と呼ばれるこのウサギの様な小さな少女は、李宮 希望(りきゅう のぞみ)14才。咲耶と同じ八家衆・北東門を守る百年前中国大陸から渡来し八家衆となった李宮家の次女である。
二人は赤ん坊の頃から一緒に巫女として育てられた為、姉妹の様な関係でもある。
「本当に大変なんだってばぁ?」そう言いながらぴょんぴょんとはね回る
希望を見て、咲耶は『ほんとにウサギみたい』と、微笑むばかりである。
「あ?笑わないでよ?本当に大変なんだからぁ?」微笑むばかりの咲耶に希望はほっぺたをふくらませ怒ったように言った。
「ごめん。ごめん。それでノンちゃん何が大変なの?」
「それがね?聞いて?聞いて?」そう言うとにっこり笑う希望はどう見てもまだまだ子供である。
「それがね?今度ーノンの誕生日に、とうさまが家宝の《龍金闘》をくれるんだって?」
「まぁ?それは凄いじゃないの!やっとおじさまに認められたって事じゃない」
「へへへへ?」そう言いながら、ノンは少し照れながら満面の笑顔を見せている。
《龍金闘》とは、中国武術のトンファー、龍の牙で造られたと言われる李宮家伝来の家宝であり、武術を極め霊力の優れた者だけに継承される物でもある。
『やっぱりおじさまも何かを感じているのね』そう咲耶は心の中でつぶやいた。
「ね?ね?さっちゃん!どうしたの?」真剣な顔の咲耶を見て希望は咲耶の顔をのぞき込んで居る。
「うううん。なんでも無いよ。」そう言って咲耶は希望にいつもの微笑みを返した。
その微笑みを見て、安心したのかノンは又、庭先をぴょんぴょんはね回り喜んでいる。
『八家衆で動ける者と言えば、私たちしか居ないんだからしょうがないけど・・・ノンちゃんにはつらい旅になるかも知れないわね。』
咲耶は自分たちの運命を思い心の中でそうつぶやいた。
その夜・・・
咲耶の父・蓬莱は夕刻遅く、八家衆総本山・八主真殿より険しい顔で帰宅した。
「お帰りなさいませ。」神妙な顔をした咲耶が父を出迎える。
「咲耶、話がある。あとで本堂に来なさい。」
「はい。分かりました。」
何かを悟っている咲耶を見て、父・蓬莱は娘の運命を思い目頭にあついものを感じていた。
いつもなら汚れた家着をまとう父・蓬莱で有ったが、真新しい真っ白な宮司の衣装に着替え、本堂へと向かった。
一通りの神事を済ませた頃、これも又純白の着物姿で咲耶が本堂に入る。
その姿を見た父・蓬莱、「やはりお前も薄々は気がついておったようだな。」
「いつかはこの様な日が来ると思っておりました。父上」
いつになく神妙でそれでいて、冷静な咲耶を父・蓬莱は不憫でならなかった。
二人は神前に並んで座り、一礼をする。
「お前も薄々気がついていた事では有るが、今日正式に本山より命が下った。」
いつもは朗らかな父・蓬莱も運命の時を迎え、険しい口調で話し始めた。
「本来、我ら八家衆はこの出雲を守護すべき存在では有るが、世の中は今、長きにわたる戦乱と災いにより、自滅の道だけしか見えておらん」
「大陸から渡って来た者達の話しでも、この世界自体が乱世と言うよりまるで地獄絵図さながらの実状と聞く。」
「・・・・・・」 無言で父の話を咲耶はまるで全てを知るかの様に聞いている。
「百年前、我々八家衆となったご先祖様は、この日の事を分かっておられた様だがそれがまさか咲耶、お前にゆだねられるとは思いもよらなかった。」
「・・・・・・」
全てを察している咲耶を見て、父・蓬莱は神棚に飾られた宝玉《禍つ月》を懐より本山から授かった宝玉《癒す星》を咲耶に差し出した。
「この二つの宝玉は、八家衆随一のお前の霊力を高め、守護するだろう。」
そう言って、咲耶の前に差し出す。
「父上。やはり李宮家・・・希望さんも選ばれたのですか?」
「うむ。」
「何故ですか。例え八家衆とは言え、希望ちゃんはまだ子供です。
私一人でも・・・・・」
言葉ではそう言いながらそれが運命と知っている咲耶は言葉を飲み込んだ。
「お前の言うとおりだ。我々八家衆当主にとっても希望ちゃんには過酷と思い咲耶一人と思っていたが、李宮家当主・龍峰殿自身が納得している以上、我々にはお告げに従う以上どうすることも出来なかった。」
咲耶にも解っていた。
これが運命なんだと・・・・・。
「それで出立はいつですか?」
「5日後と決まった。」
「5日後と言えば、希望ちゃんの誕生日・・・・」
なんという運命なんだと咲耶は、希望が不憫でならなかった。
「解っている。解っているが今回の旅は、日の本だけの問題では無いのだ、大陸諸国からもこの危機を知って、派遣された者もおると聞いている。だが、先発の霊能者からは一切の連絡が無く、生きて帰っては来なかったと言うことだ。」
「実は仏教国より派遣された者が堺の港に近々到着すると知らせが有ってその者とおちあう為に5日後と決まったのだ。一人でも能力の高い者が居なければこの戦いには勝てないだろう。」
自らの力の無さに打ちのめされ、我が子を行方の解らぬ戦いに出さねばならない我が身を呪う父・蓬莱であった。
その気持ちが分かるのか咲耶が微笑みを浮かべる。
「ご安心下さい。八家武闘衆の方々も同行されるのですから。
それにご先祖様も我々に利が有るからこそ八家衆を造ったので有りましょう。」
そう言っていつもの微笑みを父に向けた。
その笑顔を見せられ蓬莱も八家衆としてではなく、いつもの優しい父としての笑顔を見せるのであった。
「え?????ーーーー!!!」
希望のあまりにも大きな声で、父・龍峰もさすがに驚いた。
「ねっ!ねっ!ね?、さっちゃんも一緒なんだよね??!う??楽しみだなぁ?」
そう言いながら自分の運命を知ってか知らずか、飛び跳ねて喜ぶ希望であった。
「これ、これ!遊びでは無いんだぞ!命にも関わる大事な使命なんだから心して最後まで聞きなさい!!」
そう言って叱咤するが、当の本人、希望は旅が出来るだけでうれしくてしょうがなく父・龍峰も我が娘ながら情けなく思うので有った。
「大丈夫!大丈夫!さっちゃんとノンが一緒なんだからどんな悪い奴だってやっつけちゃうって!まっかせなさーい!」
こう言う時、人を勇気づける希望の笑顔は凄いと、父・龍峰は我が娘ながら関心さえ覚えるのである。
「それでだ。詳しいことは、咲耶様に一任されている。よって・・・・・」
一切耳に入っていない娘の希望を見て、龍峰はあきれ果てた。
『どう見ても子供のこの子が、霊力、武術が私以上とはどうしても思えん。』
側で同じように希望の笑顔にあきれ果てている、姉・零羅(れいら)
「希望!!大人しく聞きなさい!」
長女であり次期当主の姉・零羅もこの旅の重要さ危険さを理解して希望を叱咤するが心の中では、妹が不憫でならなかった。
『私にもっと力が有ればこの子にこんなつらい旅をさせずに済んだものを・・・』
涙ぐむ姉の姿を見てさすがに希望も喜んでばかりは居られないことを知ってか知らずか・・・・
「とーさま、ねーさま、大丈夫だよ。ノンは信じてるもん!ご先祖様が残してくれた《龍金闘》だって有るし、それにノンの力でこの国が平和になるなら本望だよ!」
今まで聞いたこともない希望が自分の使命について語る言葉に、父・龍峰、姉・零羅もいつの間にか大人になっていた我が娘、我が妹に力強さを悟っていた。
「うーんーとー・・・・」
なにやらごそごそ始めた希望に・・・
「おい!何やってるんだぁ??」いぶがしげにのぞき込む父に
「え?とね?、せっかくの旅なんだから色んな所の特産物を調べようかと」
そう言いながら、父の書斎を探索し始めた希望に・・・
『おいおい?本当にわかってんのかぁ』と、父の嘆きの声が・・・・・
「やっぱり大人になったと思った私が馬鹿だったぁ?」
二人のあきれ果てた顔をよそに、うれしそうに特産物調査をしている希望であった。
出立当日、咲耶と希望は出雲大社本殿に赴いていた。
境内には、旅の無事を祈る八家衆総本山八主真殿守護職達、八家武闘衆など総勢504名。
名だたる出雲守護職が集まり、まるで国を上げての式典のような壮観さを持ちながら静寂が支配する異様とも言うべきものであった。
旅の無事を祈る神事が八家衆当主らの手によりおごそかに行われこの旅の重大さを改めて人々の心に刻まれていった。
「八家衆・北門当主が娘・咲耶!八家衆・北東門当主が娘・希望!ここへ!」
八家衆総本山八主真殿・当主、八百比丘尼の声と共に、出雲大社本殿へと続く境内の人々がまるで岩が真っ二つに割れるが如く、二人の少女を出迎える。
二人の少女は無言のまま、八百比丘尼の前へと進んでいく。
知らぬ者が見ればそれは滑稽に写ったかも知れない。
未だにあどけなさが残る二人の少女にかしずき神妙な顔の大人達を。
「我々出雲を守護する八家衆が総本山、八主真の八百比丘尼の我が名により、そなた達二人に命ずる!八家衆始祖の霊力の加護の元、悪しき想念の浄化を全うすべき事を。」
そう言い放つと、八百比丘尼は祭壇より取り出した護符を二人の少女に手渡す。
二人の少女はそれを受け取ると、一礼をし脇へと控える。
「次に、八家武闘衆が練鉄、剛士、炎連、界基、央峰、朱連、甲礼、常念、才陣、紅蓮!ここへ!」
その言葉を待っていたかのように、10人の八家武闘衆らは八百比丘尼の前へ歩み出る。
「八家武闘衆より選ばれし、そなた達十名は、ここにいる八家衆の巫女を守り神命を全うすべし!」
そう言って八百比丘尼は選ばれし十名の武闘衆、一人一人に護符を授けた。
「我ら十名は八家武闘衆の名に恥じず、この任に全ての技と念と命を懸けることを八家衆が始祖の元、八家衆全ての御方々にお約束申し上げまする。」
八家武闘衆・師範、練鉄が声高らかに進言する。
そのあとに続き、師範・練鉄に呼応するが如く、九人の一糸乱れぬ声が・・・・
「御意!!」
それはまさに命を懸けてこの任を全うすべく本心より出た練鉄とそれに並ぶ10人の総意でもある。
例えたった一人残ろうとも、命をもってこの二人の巫女を守る、それが彼らの決意でもあった。
全ての儀式を終え、静まりかえった群衆を前に、八百比丘尼が口を開いた。
「われわれ出雲を守護する者として、この日の本だけではなく、この世全ての人々の未来のため私たちはこの幼き少女達に過酷な運命を託さねばなりません。本来我々当主を始め、全ての八家衆がこの子達に変わって事に当たるべき戦いなれど、苦渋を飲んで送り出さねばなりません。今は始祖が残した言霊を信じ、この子達の無事を祈り帰る場所を守ることだけが我々残された者の使命と思います。」
先ほどとはうって変わった、穏やかな母のような八百比丘尼の言葉に、群衆は涙をぐっとこらえた心の声がこの境内を埋め尽くしていた。
更に八百比丘尼は二人の少女を優しい母の様なまなざしで言葉を掛けた。
「咲耶。希望。必ず生きて帰ってくるんですよ。私たちはいつまでも待っていますからね」
そう言うと、八百比丘尼の目から涙が溢れ出た。
「比丘尼様?!沢山?!た?くさん!おみやげ持ってくるからね!」
明るく溢れんばかりの笑顔で答える希望。
「はい。楽しみに待ってるわ。」比丘尼も満面の笑顔を向ける希望に、優しい笑顔で答えるのであった。
そんな比丘尼の目に、きらっと光涙を見た咲耶は・・・・
「比丘尼様、私たちの家はここです。帰る家があるからこそ私たちは旅立てるのです。」
そう言うと咲耶は、比丘尼の手を取り、小さな声でこう言った。
(母上・・・・)
それを聞いた八百比丘尼は、娘の体を抱き、止まらぬ涙をこらえるのであった。
役職とは言え、小さき咲耶を父・蓬莱に託し、比丘尼としての役目を持つ母。
小さきながらも母の心情を感じ、気丈に振る舞うまだ幼さが残る娘。
事情を知る者にとって、その光景は使命とは言え、あまりにも残酷な運命を背負わせられた母と娘であった。
そして旅立つ時が来た・・・・。
別れを惜しんで泣く者はもう居ない。
使命を全うし、笑顔で帰ってくる一行を信じ、ただ笑顔で見送るだけだった。
涙一つ流さず笑顔で旅立つ娘達を見て、見送る者が涙を見せてはならない、そう、誰もが心の中で歯を食いしばり祈るだけだった。
そして一行は二人の少女を守るように八家武闘衆が並び、第一の目的地、堺へと遠く険しい旅が始まる。
待ち受ける苦難を知ることもなく・・・・・。
絵巻その一「旅立ち」終わり。
絵巻その二「別れ?そして出会い」へ続く。
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■幽幻戦国絵巻?せぶん |
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■【プロローグ・旅立ち】
世はまさに戦乱の続く日の本の国。
世界から見ればあまりにも小さな島国の覇権を争い、武将同士の一騎打ちがまさに始まろうとしていた。
その時・・・・
天空に広がる暗雲をかき分けて一筋の光、北方に向けて真っ直ぐに落ちてゆく。
その凄まじき轟音に二人の武将、我を忘れ一条の光に目を奪われていた。
周囲にいた雑兵達もまるで物の怪に憑かれたようにその光を見守っていた。
その時!
光は突然、三つに分かれそのうち一つがまるで目標を見つけて喜ぶかのようにこちらへ向かってくる。
この光景に気を奪われていた者達は突然、我が身の危険を察知し四方へとまるで蜘蛛の子を散らすように我先へと逃げてゆく。
だがその光、まるで哀れな小動物をあざ笑うが如く、頭上をかすめ山に向かって落ちていく。
その光、山腹に激突したやと思えば、全天に広がる暗雲を一掃するが如く巨大な光の柱となり、轟音を伴い大地を揺るがし周囲十里四方の木々はおろか生きるもの全てを払いのけるが如く、疾風と砂塵をまき散らし全てを蹂躙し瞬く間に四方を静寂の地へと変貌させた。
残る二つの光も又、この地をかすめ決められた場所を目指し落ちていく。
轟音と地響きと閃光を残し。
だがその光景を見ることの出来る者はもはやこの戦場には誰一人居るはずも無かった。
この世の物とは思えぬ光と音と風のページェントが終わると静寂が戻り、巻き上げられた砂塵に日の光を遮られ、いつしか周囲は暗黒に包まれた。
まるで何かを暗闇に隠すように・・・・・。
だが世界は何事も無かったように歴史は造られていく。
本来の姿を失いながら。
時は流れ、荒野と化したその地も、植物が戻り小動物が以前の営みを始め深い森に変わって居た。
しかし人々は『羅刹の森』と忌み嫌い誰も近づかぬ土地として語り継がれいつしかその出来事も全てが無かったように忘れ去られて行く。
ただ一つ「羅刹の森には魔物が住み人間を食らう」と言う、噂を残し。
それから百年の時が過ぎ、日の本は未だに戦国の歴史を繰り返していた。
諸国を束ね日の本を統一すべく現れる武将はことごとく、不運に見舞われまるで何者かに呪いでも掛けられたように、阻まれていた。
世界に目を向ければ、疫病と、まるで何者かに操られた様に人々は戦いを続けていた。
もはやこの星には楽園と言える平和な土地はどこにも無い。
男達は戦いに明け暮れ、喰う物を奪い合い、さながら地獄絵図の様な歴史がこの星を覆っていた。
絵巻その1「旅立ち」
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■デビルマン異界奇譚?Devilman |
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■デビルマン異界奇譚?Devilman 遙か昔、この星に異形とも言える一族がすべての生物を凌駕し君臨していた。 その生物は、戦いを好み自らの肉体を変化させ弱肉強食の理の中、神々にも匹敵するほどの力さえ 身につけようとしていた。 これを見た神々は、その異形さもさることながらその力を恐れ大地と共に滅する事を望んだ。 だが、その神々の横暴に一人の天使が異論を唱え異形の者達と暮らし始めた。 天界の神々はこれを反逆と罵り、異形のものと共に滅する事を決めた。 光り輝く翼を持つ天使たち、神の軍団と堕天使サタンに率いられた異形の者達デーモンとの戦いが 永劫とも言える長きにわたり繰り広げられた。 大地は裂け、天空は分厚く漆黒の闇に包まれ、幾千年、果てしない死闘は続いた。 だが、戦いは神々の勝利に終わり異形の者達はサタンと共に暗い闇の中に封じ込められた。 やがて大地は目覚め、かつてこの星に君臨したデーモン族が去った後、哺乳類のひとつ”人間”が 天敵のいないこの大地に君臨し文明という力を持ち栄華を極めていた。 時は流れ、人類の世界にかつて神々に封印された堕天使・サタンがその力と記憶を失い人として 転生していた。 成人した彼は記憶の奥底にくすぶり続ける異形の者達、悪魔の存在を悟り、かつて神々が恐れた様に その姿に怯え、人として異形の者達を駆逐すべく一人の友とその戦いに赴いた。 力なき人間が剛力なデーモンと戦うためには悪魔と合体しその力を奪うことで戦士となる。 やがてその企みは一人の人間とデーモン族最強の戦士・アモンが合体しデビルマンが誕生した。 人としての心を持ち、デーモンの強大な能力を受け継ぐそのデビルマンは次第に闇にうごめく 悪魔たちの攻撃の対象へと変わっていった。 合体することでその力を進化させたデーモン族は自らと同じような波長を持つ人間を捜し合体を 繰り返しながらその勢力を徐々に増していた。 デーモンは人間の肉体を奪い暗い闇の中から復活するとか弱き人間を自らの血肉として貪り始めた。 やがて人間たちもそんな悪魔の存在に気づき始め文明の力を持ってその存在を消そうと攻勢に出る。 業を煮やしたデーモン族たちは無謀とも思える無差別合体をはじめ一気に人類の駆逐を謀った。 だが無差別な合体攻撃は、デーモンの復活と共に数多くのデビルマンを生むことにもなる。 デーモンの無差別合体後、数多くのデビルマンが生まれたが、人の心を持つとは言えその姿の異形さ から数多くのデビルマンは人類からも迫害され攻撃を受けていた。 やがて人類はデーモンの無差別合体の恐怖から他人を信じられなくなり、或ものは徒党を組み 武力で怪しい人間を捜しては虐殺し始めた。 すでに人類はデーモンの攻撃ではなく自ら生んだ恐怖心によって自滅の道を歩み始める。 そんな混沌の中、人類の希望であるべきデビルマン・不動明の愛すべき人々が暴徒に襲われその命を 奪われた。最強と言われたデビルマン・不動明はその失意から人間を見限り自分と同じ悪魔の力を 身につけた全世界のデビルマンを集め、戦いへと歩み出す。 デビルマンと共に行動していたかつてのサタン・飛鳥了はその戦いの中から自らの存在を悟り デビルマンとなった親友・不動明とデーモン族、共に神への逆襲を願うが、愛すべき不動明は 人類を破滅へと追いやった張本人、飛鳥了・サタンを許すことは出来なかった。 デーモンを倒しサタンを倒しかつての人類世界を復活させるべくデビルマン軍団はその勢力を ひとつにしデーモン軍団と戦いを繰り広げた。 その戦いは、かつて神々とデーモンの戦いのように熾烈を極め大地は砕け生きとし生けるものは その戦いの渦中で命を落としていた。 長い戦いはやがて終焉を迎えサタンとデビルマンの戦いは、涙するサタンの勝利となった。 だが勝利を喜ぶことの出来ぬサタンは失意の底、光となってどこかへ消え去った。 この戦いでデーモン、人類、そしてデビルマンとして戦った者達の魂は、おのおの新たな命として 旅だった。 それからいく年月が流れたのか、果ては同じ時世列なのか定かではないがかつて人と呼ばれていた 者達と全く同じ文明を築き上げている世界が出現した。 東京と呼ばれる巨大な都市にかつてサタンと呼ばれ、人の名を飛鳥了と呼ばれた若者と瓜二つの 彼は、名前も同じく飛鳥了と呼ばれ親友と共にこの都市に生きていた。 聖歴2004年、日本国首都・東京で奇怪な事件が続出していた。 何人もの特異な殺人・・・・まるで血を一滴残らず吸われたかの様な姿で発見されていた。 都内の高校に通う学生・真堂 尊(しんどうみこと)、彼はいつものように親友・飛鳥 了と 目的もなく街を歩いていた。 日も暮れ夕闇が迫る人通りの少ない街角で突然一人の女性が悲鳴と共に彼らに助けを求めた。 駆け寄って逃げきた方角を見ると巨大な影が人の形をなして立っている。 次の瞬間、薄暗い廃墟と化したビルを一瞬で瓦礫と化したその影は、彼らを見つけると突然 襲いかかってくる。 女性の身を庇い真堂 尊と飛鳥 了は影の攻撃をかわしながらその恐怖と戦っていた。 逃げまどい倒れ込む三人に影は真っ直ぐに飛び込んでくる。 一瞬電撃を受けたようなショックを受け真堂と飛鳥は気を失った。 何時間たったか定かではないが痛む頭に真堂が目覚めた。 その傍らにまだ目覚めぬ飛鳥、その口から一言「デーモン・・・」そう聞こえた。 何度か揺り起こし問いつめる真堂に目覚めた了は、気絶している間、夢の中で異形とも思える まさしく悪魔そっくりな黒いコウモリの翼を持ち牙と爪をぎらつかせ生き物と光の翼を持つ天使の ようなものとの戦う光景が見えたと話した。 その夜、大空一面、世界各地に流星がまるで何かを伝えるように何時間も降り続けた。 この夜以来、真堂は毎日同じ夢を見続けていた。 分厚い氷に閉じこめられた異形とも思える悪魔・デーモンが鋭い眼光を放ちそのとがった牙で 彼を食らう。骨が砕け血が飛び散るそんな激痛の中彼はいつの間にか黒い翼を持ち悪魔の形相を したデーモンへと変身している、変身した自分の姿に驚き恐怖しているとどこからか声が聞こえる。 「アモン・・・」。 彼を呼ぶ声が徐々に大きくなる。 「アモン・・・」 その声は知っている、そう彼は思った。 やがて光り輝く氷の中からぼんやりとその姿は現れる。 白い大きな翼でその身を包み美しい裸体のそのデーモンは彼に訴えるかのような目で見ている。 「シレーヌ・・・」唐突に彼の口からその名が呼ばれるとその美しきデーモンは笑みを浮かべ 闇へと消えていった。 残された彼は悲しい思いで目が覚める。 何度と無く見る夢のせいなのか、真堂 尊は感じ始めていた。 「俺の中に何かがいる・・・別の生き物と言うより別の人格・・・ シレーヌと言う女デーモンを愛した一人の戦士・・・ デーモン最強と言われた戦士の魂が俺の中に・・・・」 飛鳥 了もまた真堂と同じように毎日同じ夢を見ていた。 それはまるで太古の地球・・・恐竜が我が物顔で餌を求めて駆けめぐっている。 逃げ惑う小さなか弱い動物がその餌食にされる。 やがてその巨体の前に恐竜とは違った生き物が飛び込んできた。 異形とも思えるその姿は昆虫と蛇を掛けあわせた様な姿、今にもこの恐竜に飛びかかろうと するかのように対峙している。 だが戦いは一瞬で決まった。 優に5メートルはあろうかと思える恐竜は一瞬でその巨体を横たえていた。 そんな光景が続く中、空から光の翼を持つ天使とも思える姿をした生き物が舞い降りてきた。 まるでこの世界を楽しむかのように舞い飛ぶ生き物が森へと飛んでいくと突然その森から 光に驚いたのか首長竜が生き物目指して牙を立てた。 悲鳴とも思える声を発し光り輝くその生き物は無惨にも森の奥深くへと落ちていく。 やがて大空から先ほどの生き物と同じような光の翼を持つ生き物たちが空を覆い尽くしていく。 大地には逃げまどう恐竜や小さな動物・・・・ 光の翼の生き物たちが雷のような光を逃げまどう恐竜らに向けて一斉に放ち始めた。 恐竜たちは為す術もなくその光に打ちのめされ死んでいく。 だがその攻撃にも屈しない者たちがいる。 異形とも思えるその姿。一種類ではなく何千何万もの姿を持つ生き物たちは、一斉に反撃に 出てた。 戦いは激しさを増し巨大な力と力がぶつかり合い大地は裂け轟音と共に無数の閃光が闇に 覆われた大地を切り裂く。 戦いに傷つき倒れ込む異形の者達がなぜか自分に向かって手を伸ばしてくる。 「僕を呼んでいるのか?」 了にはそんな風に思えた。 そんな彼らを了は悲痛な叫びとも悲しみとも思える感情が込み上げ胸を刺す。 「僕には何も出来ない・・・」 悲しみに打ちのめされ了は闇に落ちていく。 そして目覚めるのである。 飛鳥は何となく理解している。 彼が見る夢は過去の遠い出来事・・・・歴史に葬られ存在を消された異形なる戦士たち・・ だが人間の歴史では悪魔と称され忌み嫌われた存在・・・ 遠い古代に闇へと葬られ人の時代には存在するはずのない彼ら。 だが人間の心には悪しき存在として残された理由・・・・ 何者かの介入を指し示す偽りの記憶。 デーモンとは違う存在が人間を惑わし今何かを始めようとしている。 そう彼には感じられる。 同じように流星雨が降り続いた夜から似たような夢を見続ける者達が他にも存在した。 雪村 睦月(ゆきむらむつき)。 神奈川県の女子校に通う17歳。 彼女もまたこの日を境に見続ける夢があった。 暗く凍てついた氷に閉ざされた洞窟に彼女は立っていた。 出口を探しあてどなくさまよう彼女の目の前の氷の壁が、突然砕け広大な空間が開ける。 そこは氷の壁に挟まれた通路がどこまでも暗闇に向かってつながっている。 彼女は恐る恐るその通路を歩き始め、ふと両側の氷壁を見るとその中には異形の生物が 苦痛とも思える形相で閉じこめられている。 「ここは?」 何かに導かれるように通路を進むと小さな明かりが見えた。出口と思いその光を目指して 彼女は走り始める。 やがて大きな一枚岩のような氷壁が行く手を塞いでいる。 氷壁の中に囚われたその異形は、女性の姿をし頭には白い翼を携え静かに目を閉じている。 「これは・・・」 恐ろしさより何となく懐かしささえ覚えるその姿に見とれていると、胸元から赤い光と 青い光の玉が静かに床へと落ちてきた。 彼女は疑うこともなくその光に歩み寄り青い光の玉をすくい上げた。 「わが子らよ・・・」 「!?」 どこから聞こえるのかその声は彼女を呼んでいた。 「だれ?どこにいるの?」 「私はここだ・・・」 その声は彼女の目の前にある白い翼のデーモン、彼女の心の声だった。 「天空を納めしデーモンの一族、シレーヌの子らよ・・・・目覚めよ」 「シレーヌ?」 彼女にはその名はとても懐かしく感じた。 「あなたは誰?」 「・・・・・シレーヌ・・・」 その言葉を最後に周りの壁が漆黒の闇へと変わっていく。 「待って!」 伸ばす指先に一粒の涙がこぼれ落ちシレーヌと名乗る女デーモンの姿は消えた。 そして彼女は夢から目覚めるのである。 「また同じ夢・・・・」 紅麗 羽摘(くれいはつみ)。 横浜の繁華街でバイトをしながら専門学校に通う19歳。 「またこの夢か・・・」 何度も見た夢の中で彼女はそう呟いていた。 見渡す限り山ひとつ見えない荒野に彼女は立っていた。 いつものように太陽に向かって歩き始める彼女・・・・・ しばらくすると彼女の目の前に石の壁が現れる。 怖がる様子もなく彼女はその石の壁に手をかざすと、石の壁はその瞬間砂と化して崩れ落ちる。 崩れ落ちた石の壁から頭に翼を携えた鳥とも人間とも思えない石像が彼女を待ちかまえている。 「わが子らよ・・・・」 石像から声が聞こえる。 「なんでいつもあたい一人なのに、わが子らよなん?」 いぶかしげにつぶやくと彼女は両手を掲げ何かを待っていた。 やがて石像の胸元から二つの光、赤い光の玉と青い光の玉。 いつも二つを掴もうとするが青い玉はその手をすり抜け地面に落ちてしまう。 「またや・・・」 文句ともつかぬため息混じりに呟くと彼女は赤い光の玉を胸元に押しつけ目を閉じた。 「わが子らよ・・・シレーヌが一族の戦士・・・赤き光を纏いし灼熱のセキア・・・ 青き光を纏いし氷結のミルア・・・目覚めの時は来た。」 「セキア?ミルア?」 「いつもはこの後ばけもんになるんじゃ・・・」 いつもとは違う展開に彼女は戸惑っていた。 「デーモンの一族にして天空を納めしシレーヌ族の子らよ。時は満ちた。」 「時が満ちたって何をすればいいの?」 石像はおもむろに崩れかかった手を挙げ地平線を指さした。 「主の元へ・・・・我らがデーモンの神、サタン様の元へ・・・」 「サタン?」 振り返ると石像が指さした地平線から金色に輝く眩い光が彼女めがけて飛んでくる。 「うわっ!」 ドテッ! 光に包まれたと思ったとたん彼女はベットから落ちた。 「いたー!いてててて・・」 顔面から落ちたのか鼻をこすりながら彼女は目覚めた。 「サタンって悪魔やん!どないせいちゅうねん!」 いつもと違う展開、今見た夢を思い出し聞き慣れた名前に戸惑いながら彼女は朝の支度を始めた。 他にも同じように何度も繰り返し夢を見るものは居るのかもしれない、だがそんな彼らに 共通の思い・・・異形ではあるがどこか懐かしささえ覚えるデーモンの存在。 今その力に目覚め何かと戦わなくてはならない、そんな思いに彼らは駆られていた。 ■プロローグ完 あとがき プロローグと書きましたが、物語の世界観を分かって頂きたく急遽執筆したものです。 原作である「デビルマン(永井豪原作)」のその後とも言える世界をモチーフにしています。 この先、この4人を中心に物語は進み、サタンやデーモンの宿敵でもある「神」との戦いが 最終目的となる作品です。 原作では結局神は登場しなかったわけでサタン・飛鳥 了の最終目的であるデーモン族の 復活も果たされなかった訳です。 原作ファンの私が思うデビルマンの中で、どうしても敵キャラではなく共に戦う戦士 シレーヌがみたいと言うかシレーヌが表になっても良いかなと思うわけで(^^; ちなみに私が思う神の存在ですが、本当の神では無いと思ってます。 神のような力を持つ存在、巨大な力な訳ですから神と呼べるのでしょうが、敵としての神は 異世界の一種族と思って居ます。 まぁ?小説が完成することは無いでしょうが、こんな始まりの物語があってもいいかなと その程度で考えてます。 |
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