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■『志音(SHION)』【小説】 
2005 12 06
Tue 18:08:35

オリジナル小説  Comment 0  Trackback 0  edit.

第二章「生存?それぞれの刻」
ユリカ編 Next02.....
明治二十六年、七月。
日本は幕末からの混乱を経て新しい日本の国作りがようやく一息着こうとしていたが、その反面、外国との技術の差を縮めようと政治、軍事力、貿易などあらゆる面で必死になっていた。
特に軍事面での整備は著しく、海外との外交も盛んに行われ、軍国主義の台頭さえ見え始めるそんな時代でも有った。
そんな中、ここ函館でも近隣諸国、特にロシアとの外交並びに大日本帝国北辺の障壁となす中心的な存在として函館の港は重要な拠点でもある。

維新以来、北海道は新たな新天地として、諸国から開拓民が続々押し寄せ森に覆われた北の大地に新たな主要都市を築く礎として多くの人々が集まって来ていた。
だが、一方でこの土地に古くから住み着いていた人々、アイヌ民族を迫害するという弊害も起きている。
自然と暮らし大地からの恵みを大切に守り共に暮らす、そんな暮らしを国策と言う大義名分の中で一般庶民から奪う行為だったのかも知らない。

古来、彼らアイヌの人々達が語り継いできた《神の住む土地》そう言った神聖な場所さえも土足で踏みにじる行為が繰り広げられていた。

ただ、そんな人々の中にも自然を慈しみ共に暮らす人々を理解しようとする人間も居ないわけでも無い。
龍崎志乃助陸軍函館支部・騎兵隊少尉もそんな一人で有ったが、軍人であるが故の制約からか言動の自由を奪われた存在でもある。
だが今はそんな鬱積した気持ちを和ますひとときを少尉は楽しんでいた。

「ユリカさん。」
「少尉さん!お帰りなさい。今日は随分と早いのですね。」
「えぇ、部隊から転属命令が出まして、一時的に休暇を貰ったものですから。」
「まぁ、転属命令ですか?」
「はい。陸軍本部に配属が決まりました。」
「陸軍本部、それでは昇進ですか?それはおめでとうございます。」
「ありがとう。でも一つだけ気がかりな事が有ります。」
「なんですか?」
「あなたの事です。ユリカさん。」
「私?確かに少尉さんが居なくなるのは寂しいですが、少尉さんのお陰でこうして暮らしていける様になりお仕事まで頂いてなんとお礼を言ったらいいか。」
「いえ。それはユリカさんの人柄ですよ。私は大した事はしていませんよ。」
「そんな事は有りませんよ。記憶を無くし知らない土地で暮らせるのも全て龍崎少尉様のお陰です。」
「そう言っていただければ私はうれしいです。」
そう言いながら二人は和やかな会話の時を過ごしていた。

ユリカは五稜郭で少尉に助けられ、その後少尉のつてで、看護婦となっていた。
元々はユリカの記憶を取り戻す為、函館市内の病院へ赴いた際に、ユリカが転んで怪我をしていた子供を治療した事から、元々知り合いでも有った院長の病院で見習いとして働く事になったのである。
ユリカが記憶を失いながらもその処置が優れていた事も一つのきっかけでも有ったが、それを知った病院の院長が記憶を失う以前、看護に従事していたのでは無いかと言う診断もあり、同じような環境に居れば記憶を取り戻せるきっかけになるだろうとの判断でもあった。

「それにしてもたった三月で病院の勤務に慣れてしまうとは、やはり以前どこかの病院で働いて居たのでは無いかと院長も言っておられましたよ。」
「それが・・・記憶が無いのに体が覚えているようで、何となく出来てしまうんですよ。とっても複雑な気分ですが、でもこうやって体を動かしているとなんだかうれしいんです。」
「ユリカさんにはそうやって体を動かしているのが有っているんでしょうね。なんだか輝いて見えます。」
「少尉さんたら!お上手ですね。いつもそうやって女性を口説くんですか?」
「そっそんな・・・・・」
「冗談ですよ!少尉さん!」
「ひどいなぁ?」
「はははははっ!」

ユリカと少尉はまるで恋人同士のようにお互いを気遣いながらも楽しいひとときを過ごしていた。

「話は変わりますが、あれから何か思い出した事は無いんですか?」

「えぇ・・・・」

「あっ!すいません!私はただ何か思い出せば、ユリカさんの記憶を取り戻す手がかりを見つけられるかと思っただけです。気を悪くしないで下さい。」
「はい。分かって居ます。少尉さんが私のために色々と調べて下さっている事は。私も思い出そうとはしているんですが、思い出そうとすればするほど深い靄が頭の中にかかったようになるんです。」
「そうですか・・・でも!そう焦ることは無いですよ。先生も言って居られました。記憶喪失と言うのは無理に思い出そうとするより焦らずに気持ちを落ち着かせる事が一番だと。それに何かが引き金になって突然思い出すと言うことも有るらしいですから。」

「そうですよね・・・・・でも私は今そんなにめげては居ませんよ。だって!こうして少尉さんが気にかけて来て下さるんですもの。」
「あの?一つお願いが有るんですが・・・・・・」
「なんですか?少尉さん。」
「その少尉と言うのを辞めて貰えませんか?あっ!別に嫌だって言う訳じゃ無いですが、名前で呼んで貰えないかと・・・・」

龍崎少尉は少し照れた様にユリカの目を反らした。

「あっ!ごめんなさい。昇進するんですから、もう少尉さんじゃ無いんですよね。」
「いえ・・・・そう言う事じゃ無くて・・・・・なんと言えば良いか・・・・・」
「ではなんて呼びましょう?龍崎さん?それとも志乃助さん?」
「あっ!どちらでも・・・・・・・」

少尉は顔を真っ赤にしてうつむいていたが、ユリカにはそんな照れた顔をする少尉が可愛いと思った。

「そうだ!ユリカさん!私が陸軍本部へ転属するまで、しばらく休暇を貰ったんで田舎へ帰ろうかと 思っているんです。もし良かったらユリカさんも一緒に気晴らしに行ってみませんか?」
「でもお仕事が有りますから。」
「実は院長から了解は貰っているんです。色んな環境で過ごすのも記憶の手がかりをつかむ良い方法では無いかと。」
「少尉さん!随分手回しが良いんですね。」
そう言うとユリカは少尉をからかうように微笑んだ。

「すっすいません!余計なお世話だったかも知れませんね。」
「いいえ。喜んでご一緒させて頂きます。志乃助さん。」
「えっ?今なんて?」
「はははっ、忘れました。」
「ユリカさん。」

うち解け合い笑い合う二人はいつしかお互いに何かを感じ始めている事に気が付いていた。

ユリカ編 Next03.....

ジャンル [ 小説・文学 テーマ [ 連載小説 ]

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